▲写真は初代フィアット パンダ。「これぞ車内と車外の区別が曖昧な縁側CARの一つ!」という筆者ですが、そもそも「縁側CAR」というのはどういうモノなんでしょうか? ▲写真は初代フィアット パンダ。「これぞ車内と車外の区別が曖昧な縁側CARの一つ!」という筆者ですが、そもそも「縁側CAR」というのはどういうモノなんでしょうか?

自宅に縁側を作るのは大変だが、「縁側っぽい車」ならすぐ買える

「縁側でたたずむ」ということをしなくなってから、ずいぶん時間がたったような気がします。

縁側というのはご存じのとおり、和風住宅の外周部にある、廊下や出入り口として用いる細長い板敷きのスペース。子供の頃は、夏休みになると母親の実家に行って従兄弟たちと縁側に座り、スイカを食べたり花火をしたり、特に何もしないで昼寝をしたりしたものです。もはや子供時代の記憶はあやふやですが、家の中とも外ともつかない縁側ならではの曖昧な感覚と、そこを通り抜ける夏の風の心地良さは、今でもなぜかよく覚えています。

▲田舎のおばあちゃんちの縁側でいただくスイカと麦茶。……妙においしく感じられたものです ▲田舎のおばあちゃんちの縁側でいただくスイカと麦茶。……妙においしく感じられたものです

昔の昭和の家々では、縁側なんてのはまったく珍しい存在ではありませんでした。しかし最近は筆者を含む多くの人が、やたらと気密性の高い集合住宅や現代風の一軒家で暮らしていますので、縁側ならではのあの「曖昧な感じ」を楽しむことは難しくなっています。もしも都内でこれから縁側付きの戸建てを建立しようとしたら、たぶんですが結構なお金がかかるんじゃないでしょうか。昔は「古くさくてダサいもの」と思っていた縁側は、今や「あこがれの高級品」に変わったのかもしれませんね。

これからやってくる初夏の季節、そんな縁側趣味(?)を実際の住宅で遂行しようとするとかなり大変なわけですが、目線をちょっと変えて「車を通じて縁側感を楽しむ」ということにすれば、意外とカンタンにできてしまうかもしれません。

その方法は「ちょっとユルくて古めの車を買う」ということです。

近頃の車は、輸入車でも国産車でも基本的にはビシッと気密性が高いわけですが、ちょっと前までは縁側的な車、つまり「車の中にいることは確かなんだけど、どことなく車の外にいるようにも感じられる」という感じで建て付けのユルい車が、割とたくさん存在しいました。そんなニュアンスの車を手に入れて、1人で勝手に「縁側感」を楽しんでしまえばいいのです。

 

例えばキャンバストップの初代フィアット パンダ

代表的な縁側CARといえばシトロエン 2CVでしょうか。

「こうもり傘に4つの車輪を付ける」という、今風の言葉でいうとミニマリズムの極致なこの1948年発表のフランス車は、鉄板が薄くルーフもキャンバス製で、そして各所に通風口がいろいろ開いていますので、窓をしっかり閉めて運転していても「……果たして自分は今、車の中にいるのか、それとも外にいるのか?」と、ちょっと混乱してしまうほど縁側的です。

▲1948年に発表されたシトロエン2CV。当時のフランスの農民のために開発された小型実用車ですが、そのシンプルでありながら奥の深い走りとデザインにより、今なお世界規模で高い人気を誇っている1台です ▲1948年に発表されたシトロエン2CV。当時のフランスの農民のために開発された小型実用車ですが、そのシンプルでありながら奥の深い走りとデザインにより、今なお世界規模で高い人気を誇っている1台です

ですがシトロエン2CVはエアコンもクーラーも付いてませんので、初夏から夏にかけては正直ツラいものがあります。走ってさえいれば「いい風」が入ってきて、それこそ縁側っぽいのですが、真夏の渋滞はちょっとシャレになりません。

そういう意味では初代フィアット パンダあたりが、現実的に考えた場合の「最高の縁側CAR」なのかもしれません。

 

▲「限られたスペースを最大限活用し、真の実用車を作り出す」というテーマのもと79年に登場した初代フィアット パンダ。デザインおよび企画と開発は巨匠G・ジウジアーロ率いるイタルデザインが全面的に担当しました。超初期は2気筒OHVもありましたが、86年以降のモデルは直4 SOHCエンジンを搭載しています ▲「限られたスペースを最大限活用し、真の実用車を作り出す」というテーマのもと79年に登場した初代フィアット パンダ。デザインおよび企画と開発は巨匠G・ジウジアーロ率いるイタルデザインが全面的に担当しました。超初期は2気筒OHVもありましたが、86年以降のモデルは直4 SOHCエンジンを搭載しています
▲まさに「限られたスペースを最大限活用した」といった体のインテリア。昔の大衆実用車なので風の音やロードノイズは車内にガンガン入ってきますが、外界と一体化したようなその感覚は逆に気持ちの良いものです ▲まさに「限られたスペースを最大限活用した」といった体のインテリア。昔の大衆実用車なので風の音やロードノイズは車内にガンガン入ってきますが、外界と一体化したようなその感覚は逆に気持ちの良いものです

全車ではありませんが、ルーフはキャンバストップである場合が多く、鉄板もシトロエン2CVと比べればかなりしっかりしてますが、現代の感覚からすると結構薄めです。そのため、これまた窓をしっかり閉めていても外部の音などは割とガンガン入ってきます。が、不思議なことに「そこが逆にイイ!」と思えるタイプの車なのです。昔の設計なので最近の車ほど効くわけではありませんが、エアコンもいちおう付いていますので、真夏でも(割と)普通に乗れるでしょう。

相場は約30万~約170万円とかなり上下に幅広いですが、ボリュームゾーンは40万~90万円付近。いくつかのグレードがありますが、できれば普通のFFの、CVTではなく5MTが、最もラクに維持できるはずです。オススメです。

 

初代フォルクスワーゲン ゴルフ カブリオもかなり縁側的

初代パンダと比べてしまうとしっかり感が強い=縁側感が薄いかもしれませんが、初代フォルクスワーゲン ゴルフをベースに作られたカブリオの末期モデルも、なかなかの縁側CARです。

92年頃の車、つまりずいぶん前の車ですが、さすがはドイツ車ということで骨格や鉄板からはまずまずの剛性感を感じます。しかしそれでも、それなり以上の「縁側感」は堪能することができます。つまり何かと「隙間」も多いということです。そして当然かもしれませんがソフトトップを開けてやれば、そこはもう完全に「ぬれ縁」です。最高です。

▲初代フォルクスワーゲン ゴルフをベースに作られた初代ゴルフ カブリオ。現在主に流通しているのは89年以降の最終型と、92年に登場した最終限定車「クラシックライン」。どちらもとぼけた味わいのあるステキな4座オープンカーです ▲初代フォルクスワーゲン ゴルフをベースに作られた初代ゴルフ カブリオ。現在主に流通しているのは89年以降の最終型と、92年に登場した最終限定車「クラシックライン」。どちらもとぼけた味わいのあるステキな4座オープンカーです

エンジンは何の変哲もない1.8LのSOHCで、それを昔懐かしい3速ATで操作します。こう書くと「サイテー……」と思うかもしれませんが、実はこのノンキな組み合わせが、この車に関しては結構ハマっています。「ぶおおおお~ん」という、意外といい音を発する、そして意外とトルクフルなエンジンを、3速ATなのでどうしても回転数は高めになっちゃいますが、気持ちよく回してあげる。そうすると、何と言いますか田舎のおばあちゃんちの縁側で夏、アコースティックギターを弾いているようなサクソフォンを吹いているような、そんな気分になってくるものです。本当にオススメです。

もちろん、これら2車種はもはや古い車ですので、その維持はベリー・イージーではありません。しっかりとした専門店を見つけ出し、そこでしっかりと納車整備を行う必要は絶対にありますし、それを行ったとしても、乗っているうちにあちこちの部品が要交換のタイミングを迎えることはあるでしょう。近所のディーラーで国産新車を買うような感覚ではたぶん維持できないはずです。

それでも、シンプルな作りの車ですからややこしい壊れ方はしないはずですし、ちょっとした手間も、これら縁側CARで得られる気持ち良さとのトレードオフで考えれば、むしろお釣りが来るのではないかと思う次第です。すべての人にオススメするわけではありませんが、「現代のゴテゴテした車にはイマイチ興味が持てない」という人には、ぜひともオススメしてみたいこの2台なのです。

 

▼検索条件

フィアット パンダ(初代)/フォルクスワーゲン ゴルフカブリオ(初代)×修復歴なし
text/伊達軍曹
photo/フィアット・クライスラー、郡 大二郎、Photo AC、伊達軍曹