▲わずか2Lの排気量から360psもの最高出力を絞りだすM・ベンツ CLA45 AMG 4MATIC。いわゆるダウンサイジングコンセプトの最新進化形だ ▲わずか2Lの排気量から360psもの最高出力を絞りだすM・ベンツ CLA45 AMG 4MATIC。いわゆるダウンサイジングコンセプトの最新進化形だ

同じパンチでも「ヘビー級ボクサーのパンチ」は重みと迫力が違う

過日、現行の市販2Lの中では最強エンジンとなるM・ベンツCLA45 AMG 4MATICにて首都圏を放浪した。全体的に素晴らしい車であることは言うまでもなく、そして最高出力360ps、最大トルク45.9kg-mというふた昔前の5Lエンジンとほぼ同等の力を発揮する2Lエンジンも、空恐ろしいものであった。とてつもなく速く、それでいて非常にしなやか。それが、CLA45 AMG 4MATICという車に対するざっくりとした講評だ。21世紀ならではの、大変素晴らしいマシンである。

しかし同時に、ひと昔前かふた昔前の大排気量エンジン搭載車が恋しくなってしまったのも確かだ。

1991ccの直列4気筒直噴に、最大1.8バールの高過給圧となるツインスクロールターボチャージャーを組み合わせたCLA45 AMG 4MATICのエンジンは、前述のとおり大変素晴らしいものであることは間違いない。しかし、あえて悪く言うなら「しょせんは直4」「結局は2L」というニュアンスも、ドライバーはどうしても感じてしまうのだ。

▲AMGは「1人が1基のエンジンを組み上げる」のが基本。今回試乗したCLA45 AMGのヘッドカバーには組み上げを担当した「Riccardo Weber」氏の署名が。素晴らしいエンジンであることは間違いない ▲AMGは「1人が1基のエンジンを組み上げる」のが基本。今回試乗したCLA45 AMGのヘッドカバーには組み上げを担当した「Riccardo Weber」氏の署名が。素晴らしいエンジンであることは間違いない

技術的な詳細はさておき、「小排気量エンジンが創意工夫とターボチャージャーにより達成した300ウン十馬力」と、「4Lとか5Lのエンジンが必然的に達成した300ウン十馬力」は、数字が仮に同じだったとしても、ドライバーの身体が感じるパワー感とトルク感は明らかに異なるものだ。前者からは「しゃかりき感」とでも言うべきものを感じ、後者からは「鷹揚(おうよう)」あるいは「余裕」的なものを感じるのである。

どちらが良いとか悪いとかの問題ではなく(というか燃費や税金などの面で考えれば小排気量ターボの方が圧倒的に“善”なわけだが)、単純に好みの問題で考えるならば、後者の「余裕系」も依然として捨てがたいのではないか…と思うのだ。

実際にはあり得ないたとえだが、平均的なヘビー級ボクサー並みのパンチ力を持つライト級の天才選手がいたとしたら、確かにそれは大変素晴らしいことだ。しかし「それでも私は、ヘビー級のボクサー同士が大迫力で戦う試合の方が断然好きだなぁ」と考える人だっている。良し悪しの問題ではなく好みの問題であり、そして、もしもあなたが車における「ヘビー級の戦い」を好む人であるならば、狙うべきハイパワー車は最新のダウンサイジングターボ搭載車ではなく、往年の大排気量エンジン搭載モデルなのかもしれない。

▲90年代のM・ベンツ 500Eに搭載された排気量5LのM119型V8DOHCエンジン ▲90年代のM・ベンツ 500Eに搭載された排気量5LのM119型V8DOHCエンジン

もちろんそれらモデルには前述のとおり「基本的にかなりイマイチな燃費」や「バカ高い税金」といった負の要素は必ず付いて回り、また場合によっては「修理する際のパーツ代が異様に高い」ということだってあるかもしれない。

そこを承知で、「でも私の場合はそんなにしょっちゅう乗るわけじゃないから、全然大丈夫ですよ」というニュアンスで選ぶか、あるいは「燃費が悪くて税金も高いのは知っているけど、その分(中古車ゆえ)車両価格が安いわけだから、トータルで見ればどっこいどっこいでしょう」と考えられる人であるならば、往年の大排気量輸入車は、あなたにとって最高の「贅沢品」になるだろう。しゃかりき感とは無縁の、ある種貴族的な趣味である。

ということで今回のわたくしからのオススメは、「ちょっと前の、排気量4L以上の輸入車」だ。

text/伊達軍曹