メルセデスAMG▲欧州のモータースポーツシーンを語るうえで欠かせないのが、各自動車メーカーが抱えるサブブランドの存在。メルセデス・ベンツにおける「AMG」の名は、メルセデスのハイパフォーマンスモデルを指すと同時に、モータースポーツでの活躍を支える存在でもある。今回はそんなメルセデスAMGの歴史と魅力に迫ったみた

2人のチューナーが手がけたマシンがレースを席巻する

メルセデス・ベンツのハイパフォーマンスブランドである「メルセデスAMG」。もはやメルセデスのラインナップに欠かせないブランドだが、その成り立ちはモータースポーツに端を発するものだ。2022年に創業55周年を迎えたAMGのヒストリーを少し振り返ってみる。

1967年、元はダイムラー・ベンツのレース用エンジンのエンジニアだったハンス・ヴェルナー・アウレヒトとエバハルト・メルヒャーが独立し、レーシングエンジンの開発を行うエンジニアリング会社を創業。2人の名前と創業の地、グロースアスパッハのそれぞれの頭文字を合わせて社名はAMGとされた。

ダイムラー・ベンツ在職中に2人が開発したエンジンを搭載したマシンは、ドイツツーリングカー選手権でたびたび勝利し、評判は高まっていた。しかし、ダイムラー・ベンツはモータースポーツ活動を中止することに。2人は退社しAMGを創業。まずプライベートチーム用のレーシングエンジンを手掛けるようになる。しかし、アウレヒトの本当の狙いは、勝利したレーシングカーをモデルにした市販車を売り出すこと、いわゆるコンプリートカーメーカーになることだった。
 

メルセデスAMG▲レーシングエンジンをチューニングするエバハルト・メルヒャー。いまや数千人のスタッフを抱えるAMGは、ハンス・ヴェルナー・アウレヒトとエバハルト・メルヒャーの2人によって立ち上げられた

最初の大きなターニングポイントは、1971年のスパ・フランコルシャン24時間レースだった。AMG社の手がけたメルセデス300 SEL 6.8がクラス優勝を果たす。大きくて、重い高級セダンであるSクラスが、レースに勝利したことでAMGの名前は広く知られるようになる。

その後、AMGはメルセデス車をベースにカスタムを行い、高性能化した数々のコンプリートモデルを生み出していく。次第に顧客も世界中に広がり、1976年、当時従業員が約12名だったAMGは、現在の本社があるアファルターバッハへと移転した。

1984年にはメルヒャーが、各シリンダーに独立した4つのバルブをもつシリンダーヘッドを開発したことで、エンジンメーカーとしての地位をより一層高めた。1986年、当時のEクラスに搭載したAMG製5L V8エンジンは「The Hammer」のニックネームで世界的な名声を獲得することになる。
 

メルセデスAMG▲AMGがその名を高めたのが、1971年のスパ・フランコルシャン24時間レースでの優勝。2人がチューニングしたエンジンを載せた300 SEL 6.8がクラス優勝を果たしたのだ
メルセデスAMG▲エバハルト メルヒャーが4つのバルブを備えたシリンダーヘッドを開発。まるで金づちを打ち付けるような独特なエンジンフィーリングから「The Hammer」と呼ばれたのが、5L V8エンジンを搭載した300 CE 6.0だ

1980年代後半になるとAMGはダイムラー・ベンツと提携し、オフィシャルレーシングパートナーとして、当時のドイツツーリングカー選手権(DTM)参戦。1988年から1993年の間に実に50勝をあげている。

この成功をもとに両者の関係はより緊密なものとなっていく。1990年、AMGはダイムラー・ベンツと協力協定を締結。AMGの歴史において大きな転換期を迎えた。この頃には販売網も世界中に広がり、従業員の数も400名を超えた。そして1993 年には、メルセデス・ベンツとの初の共同開発モデル、メルセデス・ベンツ C 36 AMG を発表する。
 

メルセデスAMG▲メルセデス・ベンツとAMGが初めて共同開発した車両がメルセデス・ベンツ C 36 AMG。強化したボディに最高出力280psを発生する直6エンジンを搭載。専用サスペンションや強化ブレーキを備えていた

1999年にはダイムラークライスラーグループがAMG社の株の過半数を取得。このタイミングで、自社株を手放したアウフレヒトは、自らの名前を冠したH.W.A.GmbH(現在のHWA.AG)を設立し、そこへモータースポーツ部門と一部のスペシャルなモデルの開発などが移管された。同社はDTMのレース運営やF3エンジン開発などに従事し、2018-19年のフォーミュラEには、メルセデスの先発部隊として参戦。2019-20年シーズンから、メルセデスはHWAのチームを引き継ぎ、メルセデス-EQフォーミュラEチームとしてシリーズ参戦した(のち2021-22年シーズン終了後に撤退)。

HWAは、現在もメルセデスAMG GT3をはじめとするGTレーシングカーやAMG GTトラックシリーズなどの開発・生産などを担っている。

そしてAMGは2005年に100%子会社となり、いまに続くMercedes - AMG社が設立された。2009年には往年の名車300 SLをモチーフに、同社が初めてイチから開発したSLS SMGを発表。2014年にはメルセデスAMG GTを発表。GTRやロードスターなど多くのバリエーションが作られた。そして2022年に発表された新型SLは、専用のプラットフォームを採用したメルセデスAMGが完全自社開発したモデルへと生まれ変わった。本国ではすでにこのプラットフォームを採用した2代目AMG GTが発表されている。
 

メルセデスAMG▲正式にメルセデス・ベンツ傘下となり、そのすべてをAMGが開発した車両として2009年にSLS AMGを発表。AMGがメルセデスのラインナップの中でも頂点に位置するスーパーカーブランドであることを象徴したモデルでもある

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AMG SLS AMG × 全国
メルセデスAMG▲SLS AMGの後継モデルとして登場したのがメルセデスAMG GT。様々なバリエーションが作られたが現行型としてラインナップするのは4ドアモデルのみとなる

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メルセデスAMG GT × 全国

いまやメルセデスAMG社の事業内容は多岐にわたっており、通常のメルセデス・ベンツモデルにも「AMGスポーツパッケージ」、「AMGライン」と呼ばれるオプションが人気だ。また電動化にも対応し、EQEやEQSにはAMGモデルが設定されている。

一方で、最新のAMGモデルにも(すべてのモデルではないが)、AMGの哲学ともいえる、1人のマイスターが一基のエンジンを最初から最後まで責任をもって組み上げ品質管理を行う「One man - One engine(ワンマン・ワンエンジン)」の伝統が受け継がれている。

やはりAMGのルーツはモータースポーツ、そしてエンジンにある。それを象徴するようにエンブレムにはカムシャフトとバルブが描かれている。中古車であれば、まだ様々な“ワンマン・ワンエンジン”のAMGモデルが探せる。いまのうちに、味わっておくのも悪くないと思う。
 

メルセデスAMG▲メルセデスAMG専売としての最新モデルがメルセデスAMG SL。モータースポーツ起源のスポーツカー、という原点回帰を目指したモデルはメルセデス製スポーツカーの歴史を受け継ぐと同時に、内燃機関=ガソリンエンジンを存分に味わえるモデルといえる
メルセデスAMG▲「One man - One engine」の伝統を受け継ぐメルセデスAMG SLのエンジン。カムシャフトとバルブ、そしてエンジンを組み上げたマイスターの名が刻まれたエンブレムが所有者に優越感を与えてくれる

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メルセデスAMG SL × 全国
文/藤野太一、写真/メルセデス・ベンツ