スバル アルシオーネSVX▲カーセンサーnetで発見した走行距離わずか326kmのスバル アルシオーネSVX。これは中古車日本遺産に値する代物では……!? と察した私は、販売している「K・STAFF Car Sales」へ出向き、実車を拝見してきた

博物館級の良固体の栄誉を讃え
(勝手に)中古車日本遺産と認定!

基本的には「商材」でしかない中古車というモノ。

だが、ごく希に「こりゃほとんど博物館級じゃねえか! 中古車販売店じゃなくて東京国立博物館とかに置いた方がいいんじゃないか? 知らんけど!」と叫びたくなるほど超絶グッドコンディションな1台がある。

そういった博物館級の個体を見つけだし、その栄誉を讃え、そして僭越ながら私的な日本遺産に(勝手に)認定させていただくというのが当企画【勝手に中古車日本遺産 認定の旅】である。

第1回となる今回の題材は、埼玉県川越市の「K・STAFF」が販売(?)する実走わずか326kmの97年式スバル アルシオーネSVX S4。

なお「販売」という文字の後ろに疑問符を付けた理由は、後ほどの文中でご理解いただけるはずだ。

スバル アルシオーネSVX ▲こちらがスバル アルシオーネSVXの新車当時の広報画像。写真は1991年式のVersion L
伊達軍曹

認定人

伊達軍曹

外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。現在は「手頃なプライスの輸入中古車ネタ」を得意としながらも、ジャンルや車種を問わず、様々な自動車メディアに記事を寄稿している。愛車はスバル XV。

伊達軍曹
伊達軍曹

ということでK・STAFF社長の辻 榮一さん、こんにちはです。カーセンサーnetに載ってる走行326kmの97年式アルシオーネSVX、ちょっと見せてほしいんですけど?

辻さん
K・STAFF社長 辻 榮一

おう、いいよ。誰にでも気安く見せるモンじゃないんだけど、カーセンサーさんならまあいいや。店頭じゃなくて裏の倉庫に保管してあるんで、今そっちに案内するよ。

伊達軍曹
伊達軍曹

ありがとうございます! ですがその前に、編集上の都合により「アルシオーネSVXとは何ぞや?」ということを、ちょっとだけ読者に向けて説明させてください。

辻さん
K・STAFF社長 辻 榮一

おう。まあ手短にな。

伊達軍曹
伊達軍曹

はい。えーと今回拝見するスバル アルシオーネSVXというのは、基本的には大衆クラスの車だけを製造販売していた富士重工(当時。現SUBARU)が1991年、なぜか突然発売した非常にラグジュアリーかつ流麗な高級2ドアクーペです。

エクステリアデザインは、工業デザイン界の超巨匠であるジョルジェット・ジウジアーロが担当。ドアガラスがルーフ面まで回り込んでいる独特のデザインは、いつ見てもうっとりするほどステキです。

搭載エンジンは3.3Lの水平対向6気筒自然吸気で、駆動方式は4WD。前後の駆動トルク配分比を後輪寄りとし、連続的に可変制御する「Variable Torque Distribution(VTD)」と呼ばれるシステムを採用しています。

辻さん
K・STAFF社長 辻 榮一

……誰に向かってブツブツ言ってるのか知らないけど、話は済んだかい? じゃあ裏の倉庫に行くよ。

ということで案内された、店舗事務所のすぐ裏手にあるK・STAFFの倉庫。

大変失礼ながら外からはド古い倉庫にしか見えないそこには、今回のアルシオーネSVXだけでなく超低走行のR34型スカイラインGT-Rやホンダ NSX-R等々々々々が、透明なビニールカバーにくるまれて厳重に保管されている。
 

スバル アルシオーネSVX ▲大変失礼ながら「ありがちな古い倉庫」にしか見えないK・STAFF裏手の建物内には、透明なビニールカバーで覆われた数々の「お宝」が眠っている
スバル アルシオーネSVX ▲で、これが今回の調査対象である実走326kmの97年式アルシオーネSVX
伊達軍曹
伊達軍曹

……ものすごい光景ですが、この整備用リフトのところで保管されてるのが今回のブツ、実走326kmのスバル アルシオーネSVXですね? アンヴェール(幕を外すこと)をする前に、このお宝が御社にやってきたいきさつを教えてください。

辻さん
K・STAFF社長 辻 榮一

北関東のユーザーさんから買い取ったんだよ。確か2010年の2月だったから、今から9年半前だね。ウチは買い取りも力を入れてて、声がかかると私が直接見に行くんだけど……こういった低走行物件でも「本当にいいモノ」って実は10台中1台ぐらいしかないんだよね。でもこのアルシオーネSVXは別格だった。保管状況も中身も最高だったよ。

伊達軍曹
伊達軍曹

なるほど……。では社長、アンヴェールをお願いします!

辻さん
K・STAFF社長 辻 榮一

おうよ!(バサッ)

スバル アルシオーネSVX ▲アンヴェール(除幕式)を行うK・STAFF辻社長
スバル アルシオーネSVX ▲ううむ……
伊達軍曹
伊達軍曹

…………社長すみません。本日の日付を確認したいんですが、今日って2019年の8月22日ですよね?

辻さん
K・STAFF社長 辻 榮一

そうだけど、それがどうかしたの?

伊達軍曹
伊達軍曹

……この車の初度登録は1997年5月だって先ほど事務所でお聞きしましたが、どこからどう見てもコレ、ほぼ新車なんですけど? ということはつまり、今日は1997年の8月22日ということですか??? 時間線の乱れとかが生じて……。

スバル アルシオーネSVX ▲……何なんですか、このボディ表面の色ツヤと圧倒的なタイムトリップ感は!
辻さん
K・STAFF社長 辻 榮一

そんなわけないよ(笑)。さっきも言ったとおり、まず前オーナーさんの保管方法が素晴らしかった。日光が入らない車庫の中で、しっかりボディカバーをかけて保管してたからね。

ごくたまにしか乗らなかったらしいのでボディカバーはホコリをかぶってたけど、その下にある車は完璧だったよ。ものすごく丁寧に扱ってた人らしく、内装には小さなキズひとつなかったし。

伊達軍曹
伊達軍曹

で、御社がそれを買い取ってから10年近くたってるわけですが、その間、ボディを磨いたり内装をクリーニングしたりとかしたんですか?

辻さん
K・STAFF社長 辻 榮一

何にもしてないよ。たまにエンジンをかけてやるだけで。何もする必要がないんだよね、あまりにも完璧だから。

伊達軍曹
伊達軍曹

ほえ~(←冗談抜きで放心している)

スバル アルシオーネSVX ▲まるで「1997年頃の自動車雑誌に載っていたアルシオーネSVXのエンジン写真」みたいですが、正真正銘、2019年8月22日に撮影した写真ですよ!
スバル アルシオーネSVX ▲オルタネーター(発電機)も鉄とかゴムとかのパイプ類も、ほとんど新品の見た目ですやん……
スバル アルシオーネSVX ▲写真では伝わりづらいかもしれないが、フロントフェンダーも「つい1週間前、富士重工(当時)の群馬工場からラインオフされた個体」ぐらいの輝きを保っている
スバル アルシオーネSVX ▲リアバンパーやマフラー出口、BBS製の純正ホイールなども(以下同文)
スバル アルシオーネSVX ▲ドアを開けて車内の様子をチェックすると、22年前の車であるにも関わらず「新車の匂い」が。いや、嘘じゃなくて本当にそうなんですって!
スバル アルシオーネSVX ▲これまた写真では伝わらないかもしれないが、すべてのメッキモール類にも「つい先日、工場からディーラーに到着したばかりの新車」と同じぐらいの輝きが。……22年落ちの個体だというのに
辻さん
K・STAFF社長 辻 榮一

もちろん、長い間そのままだからタイヤは硬化しちゃってるし、一部のブッシュとかも、もしも売るとしたら納車前に替えないとダメだと思う。

伊達軍曹
伊達軍曹

そういえばコレ売り物でしたね。今日現在のカーセンサーnetに車両価格698万円で載ってるという。

辻さん
K・STAFF社長 辻 榮一

そうだね。でもね、たぶん売らないよ。

伊達軍曹
伊達軍曹

ほえ?

辻さん
K・STAFF社長 辻 榮一

売らないで、ずっとウチで持っておくつもりなんだ。まあアラブの石油王とかが「言い値で構わないから売ってくれ!」って言ってきたら一瞬考えるけど……まあそれでも売らないかな?

伊達軍曹
伊達軍曹

もしもSUBARUが「自社のミュージアムに置きたいのでぜひご寄贈を!」って言ってきたら?

辻さん
K・STAFF社長 辻 榮一

うん、SUBARUならいいよ。でも彼ら、言ってこないんだよなぁ……。

伊達軍曹
伊達軍曹

あまり売るつもりはないのに、わざわざカーセンサーnetに「698万円」で載せてるんですね?

辻さん
K・STAFF社長 辻 榮一

あ、その値段、今日から変わるから。728万円に変更になりました。

伊達軍曹
伊達軍曹

……「売る気はあまりないのに値上げだけは行われる」という、一種の現代アート!

辻さん
K・STAFF社長 辻 榮一

今日に限った話じゃなく、このアルシオーネSVXって実は半年に一度のペースで値上げしてるんだよ。一般的に中古車は、どんどん値下げされていくのが普通じゃない? でも最近80年代~90年代の車って値上がりしているんだよ。

どんどん高くなっていったら、その車に乗ってる人は喜ぶじゃない? 自分の車にプライドが持てるじゃない? そういった意味で、このアルシオーネSVXは定期的に「値上げ」してるんだよね。

初回から図らずも「本当の日本遺産レベル」の1台にぶち当たってしまった当企画。……もちろん、この個体は「勝手に中古車日本遺産」に僭越ながら認定させていただきます!

よほどの熱意が伝わらないと買えないし、見せてすらくれない可能性も大な物件ではありますが、ひやかしではなく「本気で気になる人」は、K・STAFF辻社長までご連絡を!

「K・STAFF Car Sales」川越駅前店 ▲こちらが「K・STAFF Car Sales」川越駅前店。買うわけでもないのに、おじゃましました!!
文/伊達軍曹 写真/稲葉 真、SUBARU