友よ、6.2L NA V8の先代C63 AMGに乗る「勇者」に拍手を!
2019/06/26
カーセンサーEDGEで続く人気連載の「B面」
雑誌「カーセンサーEDGE」で8年以上続いている自動車評論家MJブロンディさんの長寿連載「EDGE SECOND LINE」というのがある。毎月1台、MJさんが気になった比較的お手頃な輸入中古についてモロモロ論評する2ページのコーナーだ。
そしてその撮影現場にはなぜか、わたくしこと自動車ライター伊達も同席している。
同席している理由は話せば長くなり、長い割にはオチもないので、どうか聞かないでほしい。とにかく、いるのだ。
で、いるからにはわたくし伊達から見たその車の印象をレポートしてもバチは当たらないのではと考え、唐突に始まったのがこの「EDGE SECOND LINE/SIDE-B」である。SIDE-Bといっても今のお若い人には通じないかもしれないが、「レコードのB面」という意味合いだ。
初回となる今回は、2019年5月27日発売のカーセンサーEDGE 7月号 EDGE SECOND LINEで取材した2012年式メルセデス・ベンツ C63 AMGクーペ(車両価格375万円/走行1.5万km)に関する「SIDE-B」をお届けする。
今や貴重すぎる大排気量自然吸気エンジン
有名な車ゆえ過度な説明は不要かもしれないが、車種プロフィール的なものもいちおう軽く記しておこう。
メルセデスAMGのC63というのは「Cクラスのおばけ」と言える超ハイパフォーマンスバージョンで、現行W205型のAMG C63は排気量4LのV8直噴ツインターボエンジンを搭載している。
だが取材車両はそれではなく1コ前の「先代」であるため、搭載エンジンはほぼ車名どおりの6.2L 自然吸気V型8気筒。より具体的には4ドアセダンではなく2011年8月に登場した後期型2ドアクーペで、エンジンスペックは最高出力457psの最大トルク61.2kg-m。
そこに組み合わされるトランスミッションは、後期型から採用された「AMGスピードシフトMCT」。トルクコンバーターの代わりに湿式多板クラッチを使う、DCTに近い方式のトランスミッションだ。
車種そのものではなく中古車としての特徴は、「走行距離が少なく、オプションが充実しているのに、比較的お安い」という30字に集約できるだろう。
実走距離はわずか1.5万km。そして「カーボンエクステリアパッケージ」の他「ブラック&レッドレザーシート」「Harman/Kardonロジック7サラウンドサウンドシステム」が付き、これはクーペでは標準装備なのだが「パノラミックスライディングルーフ」が備わったうえで、車両価格は375万円。
……この数字だけを見ると決してお安いとは感じないかもしれない。だが前述の走行距離および装備内容、そして「1085万円」という新車時の本体価格から考えると「お安い!」としか評しようがないのが、このプライスなのだ。
中古のC63を買うのに必要なのは財力ではなく「覚悟」
見たところ、この個体は「各部のコンディションが相当良好である」と間違いなく感じた筆者だが、実は先代メルセデスC63 AMGまたはそのクーペの中古車には、こういった良コンディション系の個体がけっこう多い。
いやもちろんズタボロになっている個体も多いわけだが、それと同じぐらい「良コンディション系」も、全国各地にまだまだ多数生息しているのだ。
その理由は「先代C63がスペシャルな車だから」ということに尽きる。
先代Cクラスのコンパクトなボディに6.2Lの自然吸気V8エンジンをぶち込み、なおかつそのV8はただのV8ではなく「ほとんどレーシングスペック」だ。
カムシャフトからバルブ、バルブスプリング、クランクシャフト等々のすべてが準レーシングスペックで設計されており、それらを工場のロボットではなくAMGの熟練エンジニアが、1人1基を受け持って「手組み」している。
そういった予備知識が仮にゼロだったとしても、あまりに緻密な、それでいてある意味あまりに野蛮に咆哮し、そして回転するこのエンジンを一度でも体感すれば、「この車、ただ者じゃねえな……」ということは誰にでも一瞬で伝わるだろう。
そんなスペシャルな(そして今や超希少な大排気量NAという)エンジンを積むスペシャルな車だけあって、基本的には富裕な人間がそれを所有することになり、基本的にはさほど長い距離は乗られない。
なぜならば、富裕な彼ら・彼女らはそのC63 AMG以外にも何台かの「スペシャルな1台」をガレージに置いており、それらを「状況や気分に応じて」乗り分ける場合が多いため、あまり距離が延びないのだ。
この話にはもちろん例外もある。そして前述のとおりズタボロになってしまった先代C63/C63クーペもある。
だが、ちゃんとしてる先代C63は本当にちゃんとしており、そういった個体を探すのはさほど難しいことではないのだ。
となると、そういった個体(程度良好な先代C63)を入手するために必要なモノとは「中古車を見極める眼力」ではないし、実は「財力」ですらない。
今回の個体でいう375万円という車両価格(乗り出し価格は400万円ぐらいだろうか?)は、決して爆安ではないが「手が出ないほどの超高額」というわけでもない。筆者のようなド庶民でも、その気になればなんとかならなくもない額だ。
それゆえ、必要なのは財力ではなく「覚悟」なのだ。
世俗的かつショボい話で恐縮だが、年額11万1000円に達する自動車税や、5~7km/Lほどと見込まれるハイオク燃料費を払うだけの(財力ではなく)意気込みはあるか?
鬼のように速く鋭く、そしてひたすら官能的でもあるため、思わずアウトバーン並みの速度を出してしまいたくなる誘惑に負けないだけの正義を、心のなかに飼っているか?
そして何よりこの強烈な存在感を、自らの生活のなかに受け入れるだけの度量はあるか?
……先代C63を買いたいとおぼろげに思う者が問われているのは、そのあたりなのだ。
だからこそ筆者は先代C63 AMGを街で見かけると、心のなかでスタンディングオベーションをする。
「勇者」には惜しみない拍手が送られるべきだと、常日頃から思っているからだ。
自動車ライター
伊達軍曹
外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。現在は「手頃なプライスの輸入中古車ネタ」を得意としながらも、ジャンルや車種を問わず、様々な自動車メディアに記事を寄稿している。愛車はスバル XV。
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