▲セダンのデザインは確実に進化してきている。近頃のセダンにピンときているならシビックセダンに注目してほしい。シビックとアコードのデザインの違いに今後のセダンの方向性が見えてくる ▲セダンのデザインは確実に進化してきている。近頃のセダンにピンときているならシビックセダンに注目してほしい。シビックとアコードのデザインの違いに今後のセダンの方向性が見えてくる

時代は繰り返されるか!? セダンブームが来る可能性、なくはないぞ

男の正装のひとつがスーツであるように、かつて自動車におけるスーツ姿といえば4ドアセダンであった。自動車ではセダンがスタンダードなスタイルだったのだ。

トヨタや日産をはじめ、マツダもホンダもそれぞれ質の良いセダンを作って切磋琢磨していた時代があった。

残念ながら現在は、日本のセダンに30年前の輝かしさはない。セダンでなくてもそれに変わるボディタイプの多様性が市民権を得てきたからである。

しかし、いつか流行やニーズが再びセダンに向く可能性を秘めているのも確かだ。
 

▲バブル期のトヨタ マークⅡの人気はすごかった。スーパーホワイトのカラーに泣く子も黙るツインカムツインターボの装備は、中流意識の象徴的なモデルであった(写真はNAモデルのグランデ) ▲バブル期のトヨタ マークⅡの人気はすごかった。スーパーホワイトのカラーに泣く子も黙るツインカムツインターボの装備は、中流意識の象徴的なモデルであった(写真はNAモデルのグランデ)
▲エキサイティングドレッシーなスポーティセダンとしてカリーナEDも輸入車とは違った小金持ちのステータスを感じられた ▲エキサイティングドレッシーなスポーティセダンとしてカリーナEDも輸入車とは違った小金持ちのステータスを感じられた
▲「シーマ現象」という流行語まで作ってしまった日産 シーマも裕福な雰囲気の時代を象徴としたセダンだろう ▲「シーマ現象」という流行語まで作ってしまった日産 シーマも裕福な雰囲気の時代を象徴としたセダンだろう
▲パーソナルラグジュアリーモデルである日産 レパード J.フェリーは、今見てもなかなかの高級感が漂ったモデルである ▲パーソナルラグジュアリーモデルである日産 レパード J.フェリーは、今見てもなかなかの高級感が漂ったモデルである
▲カローラもツインカム4バルブというスポーツカーの特許のような高性能エンジンを搭載したグレードが存在した ▲カローラもツインカム4バルブというスポーツカーの特許のような高性能エンジンを搭載したグレードが存在した

セダンがカッコよく見えてきたのであれば、原因はデザインの進化だろう

▲現行型のレクサス LSは側面窓が6つに分かれたデザインを採用。これにより後方に重みを持たせている。後部席の乗員はCピラーの内側に座る配置となる ▲現行型のレクサス LSは側面窓が6つに分かれたデザインを採用。これにより後方に重みを持たせている。後部席の乗員はCピラーの内側に座る配置となる

セダンがスタイリッシュになったのはリアがハイウエストのウェッジ型ボディになってからだ。このスタイリングは欧州メーカーであるアウディが80年代から導入した。

セダンはABCピラーがあってトランクが備わる形状が一般的であるが、Cピラーに窓をもうひとつ加えたシックスライトキャビンを採用するモデルが出てきた。

リアのキャビンをトランク方向へグッと伸ばすことで、広く優雅な雰囲気と後方に重量感を付け加えることで、フロントも伸びやかに、なおかつスポーティな雰囲気に仕立てたスタイリングだ。

日産 フーガやレクサス LSなどのVIP系セダンがそうであるが、中でもレクサス LSは洗練度が高いモデルと言えるだろう。

このスタイリングの恩恵は安全性にも寄与する。頑丈なCピラーの内側に体が収まる設計により、側突での後部席の乗員保護も高まるのである。
 

セダンブームが来るとすれば、キーとなるのはシビックセダンかもしれない

そしてそのスタイリングの流れはエントリークラスにシフトし始めている。その一例がアメリカで人気を博しているホンダ シビックセダンだ。

ハッチバックのシビックタイプRは、そのスポーツ性能の高さをメディアでも大きく取り上げられ、空力パーツで武装したスタイリングは記憶に新しい。

一方シビックセダンのデザインも、これはこれでなかなかよく考えられている。

フロントセクションはアウディ A7をデフォルメしたエッセンスが感じられ力強い印象だ。リアもキャビンをグッと引き締めて、サイドのフェンダーを押し広げたアメリカの男性的な力強いショルダーも持たせた。空力的に絞られたリアには知的な魅力もある。
 

▲真横から見ると同じメーカーのセダンでも造形が異なることがわかる。並べてみることでデザインの進化が見えてくる。 ▲真横から見ると同じメーカーのセダンでも造形が異なることがわかる。並べてみることでデザインの進化が見えてくる。

個人的には昔のホンダらしいバターくさいテイストが好きだが、今までホンダのミディアムセダンをけん引してきたアコードは、誤解を恐れずに言えば落ち着きすぎてしまい、エモーショナルな雰囲気が失われたと思う。

また、良く言えば品の良いデザインであって独特なハイブリッドシステムによって燃費は良く、動力パフォーマンスが優れている。

新型のシビックセダンと並べてみるとAピラーやフェンダーの処理方法や、ドッシリと落ち着いたリアの造形の違いもあり軽快さは感じられない。つまり、比べてしまえばアコードのデザインには古さを感じてしまう。(もちろんこちらの方が好みという人がいることも事実だが)

シビックセダンに注目したのは、高額なフラッグシップ系やラグジュアリーモデルではなく、エントリークラスのモデルで今後のトレンドとなる攻めのデザインを採用してきたからだ。

今までセダンに見向きもしなかった若い層や、潜在的に「カッコいいセダンは高額だ」と思っていた方にも、気づきとなる1台と言えるのではないか。エントリーモデルのセダンでいえば、一昔前までここまでデザインに凝ったモデルはなかった。

ところが、ダウンサイジング技術の進歩による高い走行性能と、それに最新のデザインを加えたシビックは排気量では推し量れないクラスを超えた存在感を有しているのだ。

故に、シビックセダンは30歳前後から気持ちが若々しい60歳くらいの方が似合うと思う。一方、日本の技術の集大成を知るには実はアコードもいい。どちらともロングドライブでは驚くほど疲れなく不満もないだろう。
 

今後登場するスタイリッシュなセダンに期待が高まる

▲2017年の東京モーターショーでお披露目された時期クラウン。年内の登場がうわさされている注目のモデルだ ▲2017年の東京モーターショーでお披露目された時期クラウン。年内の登場がうわさされている注目のモデルだ

注目度の高いトヨタの次期クラウンも、シックスライトのキャビンを採用してくることはモーターショーで公開済み。キャビンを後方に広くして荷重を後ろに持ってくるスポーティなスタイリングになるのは間違いない。今までのフォーライトの形状よりもスタイリッシュなデザインとなるだろう。

国産セダンとしては売れているトヨタ カムリは、シックスライトキャビンではないが、リアの骨格を骨太にしてフロントとリアに安定感あるデザインが特徴だ。今後はリアの空間を阻害しない範囲でキャビンを引き締めて、限られたディメンションでリアのショルダー部分をクッキリさせてくるに違いない。
 

▲燃料電池モデルであるホンダ クラリティフューエルセルのデザインはとにかくカッコいい。クラリティにもPHVモデルが追加されるうわさがある ▲燃料電池モデルであるホンダ クラリティフューエルセルのデザインはとにかくカッコいい。クラリティにもPHVモデルが追加されるうわさがある

先述したが、個人的にはラグジュアリーセダンではLSのデザインが好みだ。

だが、自分がステアリングを握って走らせるという前提ならば、ホンダ クラリティフューエルセルの造形が最も好きだ。空気を一緒にまとって走るようなサイドパネルからリアセクションはとにかくイイ。あれほどカッコいいセダンはあのサイズでは国内外を見渡してもナンバー1である。

現在でもセダンはフォーマルでもラフな使い方でもできる万能なパッケージングだ。どんなシーンでも嫌味のない車と言える。利便性や実用性が優先される時代になってセダンの人気は今ひとつだが、ぶれないテリトリーとオーセンティックな考えの方には、相変わらずセダンが好まれるに違いない。

また、新旧問わずこれからセダンを選ぶ方は、セダンでしか得られない満足感を十分に味わうことができるはずだ。
 

text:松本英雄
photo:篠原晃一、トヨタ、日産