これから価値が上がっていくだろうネオクラシックカーの魅力に迫るカーセンサーEDGEの企画【名車への道】
クラシックカー予備軍たちの登場背景や歴史的価値、製法や素材の素晴らしさを自動車テクノロジーライター・松本英雄さんと探っていく!
自動車テクノロジーライター。かつて自動車メーカー系のワークスチームで、競技車両の開発・製作に携わっていたことから技術分野に造詣が深く、現在も多くの新型車に試乗する。「クルマは50万円以下で買いなさい」など著書も多数。趣味は馬場馬術。
新エンジンやF1技術で扱いやすく乗りやすい
——今回のモデルなんですけど、松本さんも絶対に好きだと思ってこちらで決めてしまいました。
松本 えっ、どんなモデルだろう? まぁ、この連載に登場してもおかしくない“名車”を何台も所有してきた君のことだから楽しみだけど。それで何を探してきたの?
——こちらのフェラーリ F430です。どうでしょうか?
松本 ずいぶんコンサバティブなモデルを選んできたね。F430というと、僕が思い出すのはデザイナーだね。フランク・スティーブンソンという人なんだけど、氏が携わってきたモデルのほとんどを僕が好きなのは偶然じゃないと思うな。
——彼はどんなモデルをデザインしているんですか?
松本 そうだねえ、例えばBMW MINI。君も知っていると思うけど、クラシックMINIの歴史をオマージュして、さらに新たな一ページを作り出したモデルだね。しかも、2003年には北米カー・オブ・ザ・イヤーに輝いているんだ。この受賞はデザインだけでなく、様々なレギュレーションに量産車として対応したという点も評価されているんだ。
——そうなんですね! でもMINIだけではないですよね?
松本 もちろんだよ。僕が本当に大好きで今でも欲しいモデルの一つだけど、マセラティ MC12もそうだね。残念ながら、MC12はシートに座っただけで運転したことはないけどね……。この連載でもぜひ紹介したいモデルの1台なんだ。その他にも彼が手がけたのは、初代のBMW X5やマセラティ グランスポーツなど魅力的なモデルばかりなんだよ。
——そこにF430も連なるということですね。


松本 そう。そのスティーブンソン氏とカロッツェリア・ピニンファリーナのコラボレーションで作り出されたのがF430なんだ。フェラーリは歴史的にレースが非常に強いだけにエポックメイキングなレーシングカーの特徴がオマージュに使われることが多いんだけど、F430の場合はフロントに採用された通称“シャークノーズ”だろうね。F430を初めて目の前で見たときに、これはフェラーリとして最初にミッドシップレイアウトを採用したF1マシンである156 F1(1961年発表)のオマージュだと気づいた。
——それはどういったモデルだったんですか?
松本 この156 F1は引き締まった空力的デザインと美しさを追求しているんだ。当時、これほどまでに美を追求したF1マシンはなかったんじゃないかなぁ。この空力的なボディを考えたのが、エンスージアストならご存じだと思うけどカルロ・キティ氏なんだ。伝説の名車であるフェラーリ 250GTOにも携わっていたエンジニアでね。元々、彼は航空機が専門だっただけに156 F1にも空力的な要素を取り入れたんだろうね。そして、それこそが40年後にF430に採用されたシャークノーズなんだよ。スティーブンソン氏は伝統的なエッセンスを取り入れながら、新しいモデルを世に送り出す人だということがよくわかるポイントだね。マセラティ グランスポーツでもそのことが理解できるんだよ。
——そう考えると、F430ってフェラーリとしても相当気合の入ったモデルだってことになりますよね?
松本 まあ、世に出るすべてのモデルは気合が入っているんだろうけど、F430は初めてのミッドシップF1をオマージュしているんだから相当と言えるだろうね。
——そうですよね。他にもデザインの特徴を教えてください。
松本 F430は360モデナの後継モデルとして2004年に登場するんだけど、エクステリアはさらにノーブルな印象になっている。アルコア社のアルミを用いた骨格やウインドウ、ルーフまで、基本的には360モデナから流用しているんだけど、何が違うって空力特性なんだよね。360モデナとCd値こそほぼ変わらないんだけど、フェラーリF1と同様の風洞実験室で作り上げた空力デザインは見えないところで実力を発揮しているんだよ。ダウンフォースってあるでしょ? 空気の力で車体を押し下げる力なんだけど、F1の場合はボディの下を流れる空気の流速を上げて負圧を作り出すグランドエフェクトの役割が大きいんだよ。その理論を使った恩恵でF430は360モデナよりもリアのダウンフォースが50%も向上している。
——そんなに!?
松本 特徴的なノーズからの空気の流れはリアに導かれて、F1譲りの空力特性を可能にしている。それによって一気にスタビリティが向上したんだ。実際にF430は360モデナと比べると圧倒的に乗りやすい。ハンドリングの危うい雰囲気がスポイルされた印象なんだよ。

——エンジンはどうなんですか?
松本 F355や360モデナに採用した5バルブユニットとは訣別して、新たなエンジンを搭載しているんだ。乗りやすいよこのユニットは。なんといっても排気量が3.6Lから4.3Lになったし、油圧によって駆動される可変バルブタイミングも導入されたからね。扱いやすくていいエンジンだよ。フラットプレーンのV8だから甲高い音は健在なんだけど、マフラーから奏でられる音はF355の頃から比べるとジェントル志向になっているね。
——F430だけに搭載されていたものなんでしょうか?
松本 このF136と呼ばれるユニットは、フェラーリ・マセラティエンジンなんて呼ばれていてね。マセラティでも採用されていて、こちらはラグジュアリー性をもたせたクロスプレーン。一方、フェラーリは出力重視のフラットプレーンを採用して差別化を図っているんだよ。
——実際に運転してみるとどうなんですか?
松本 そうだね、360モデナと比較すると乗りやすくてジェントル。車重は増したけどその分トルクと最大出力も増したからね。しかもスタビリティも高いから高速ではさらにいいよ。高速道路とワインディングを交えたドライブなどでは、かなり疲れ方に違いが出るんじゃないかな。
——他にもポイントはありますか?
松本 特筆すべき機能といえば、F1用に開発されたシステムを用いた電子制御によるディファレンシャルだね。最高峰のレーサーが使っているんだから、我々も使った方がより楽しめる。フェラーリほど高出力でハンドリング重視の車だと操れる人が限られてくるからね。ミッドシップのフェラーリの中ではとにかくトラクションの良さは最高峰。走行性能においてフェラーリがアグレッシブにこだわった1台だね。
フェラーリ F430とは?
フェラーリの中核を担うV8ミッドシップ、360モデナの正常進化版として2004年に登場した。デザインはピニンファリーナのフランク・ステファンソンが担当、大型エアインテークを採用するなど空力を向上させている。
電子制御デフ(E-Diff)やマネッティーノなど、F1由来の技術が多数採用されたこともポイントだ。クーペとスパイダーに加え、高性能モデルの430スクーデリアも設定された。
※カーセンサーEDGE 2025年11月号(2025年9月27日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています
文/松本英雄、写真/岡村昌宏
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