▲普通の人はよく知らない、高いんだか安いんだかよくわからない謎系輸入車で周囲を煙に巻く。それが、限られた予算のコスパを増大させる「正体不明系輸入車購入術」だ! ▲普通の人はよく知らない、高いんだか安いんだかよくわからない謎系輸入車で周囲を煙に巻く。それが、限られた予算のコスパを増大させる「正体不明系輸入車購入術」だ!

予算上限は約100万円。しかし「格好がつく輸入車」に乗りたい

「輸入中古車評論家」を自称する筆者ではあるが、自慢じゃないがカネはない。それゆえ輸入車といってもせいぜい100万円ぐらいの予算感でヨロシクしたいと常々考えている。

が、自分もすでにいいトシのおっさんであるため、100万円ぐらいの輸入車を買うことで「わはは。安そうなツラしたおっさんが安そうな中古車乗ってるな。笑えるぜ、わはは」と周囲からあざけりあざ笑われる事態はやはり避けたい。簡単に言うと、ちょっとは格好をつけたい。小金持ちぐらいには見られたい。

こういうことを言うと正統派の自動車マニアからは「車好きたる者、己の信念だけに基づき車種を選択すれば良いのに、周囲の目を気にするとは本当に愚かなおっさんだ。わはは」と、これまたあざけりあざ笑われることになるのだが、しかし自分は声を大にして言いたい。

正統派自動車マニア諸兄が言う「自分が良いと思えばそれで良い。周囲の目など関係ない」という意見は確かに正論だ。しかし人間っつーのはパンだけを食って生きているわけではないのと同様に、正論のみにて生きているわけでもない。「他者との関係性のなかで生きる社会的な動物」というのも我々ホモ・サピエンスの一面の真実である。そういった意味では自分の「ちょっとは格好つけたい。小金持ちぐらいには見られたい」という切なる欲求も、正論界におけるセカンドオピニオンではあるはずなのだ。

ということで自分は「予算はおおむね100万円。しかし車好きとして、そして男としての面子が立つ輸入車はないものだろうか?」とのテーマのもと、長考に入った。
 

▲輸入車を買ううえでは決して高めの予算とは言えないが、それでもいちおう大金ではある100万円。それを最大限“効かせる”ためにはどんな車種を選ぶべきなのか? ▲輸入車を買ううえでは決して高めの予算とは言えないが、それでもいちおう大金ではある100万円。それを最大限“効かせる”ためにはどんな車種を選ぶべきなのか?
 

2時間後。出た答えは「正体不明系が良いのではないか?」というものだった。

正体不明系とは、読んで字のごとく「なんだかよくわからない車種」のことだ。いやもちろんマニアが見ればその車種名はおろか、前期型/後期型の種別まで一瞬で把握するのだろうが、そこらへんを歩いている車マニアではない人、つまり圧倒的多数の人類からすると「中古車の相場はおろか、その存在さえまったく知りませんでした」というような車のことである。
 

例えば限定500台のフォルクスワーゲン クロスゴルフ

しかしここで少しだけ気をつけたいのは、「正体不明系といってもジネッタ G12とかは少々いけない」ということだ。

ジネッタというのは英国のバックヤードビルダー(超小規模な自動車製造者)で、そのG12は60年代に製造された超絶希少車。こういった車は確かに普通の人からすれば完全に正体不明だが、「とりあえず普通に使える自家用車を探す」という今回の主目的からは大きく逸脱している。やはりここは「ごく普通に探せて買えて、メンテナンスでもあまり苦労しなさそうな車=そんなに古くない年式の一般的な輸入車」のなかから、「それでもどこか正体不明な感じがする輸入車」を探すべきであろう。そして、できれば100万円ぐらいの予算感でヨロシクできるもの。それこそが、自分が求める真の「正体不明系」だ。

例えばそれは、フォルクスワーゲン クロスゴルフかもしれない。
 

▲こちらがフォルクスワーゲン クロスゴルフ。多くの人は実車を見たことないのでは? ▲こちらがフォルクスワーゲン クロスゴルフ。多くの人は実車を見たことないのでは?
 

クロスゴルフは、07年12月に500台限定で登場したフォルクスワーゲンのクロスオーバーモデル。ベースとなったのは同時期のフォルクスワーゲン ゴルフプラスで、こちらはいわばゴルフのハイトワゴン版。そのゴルフプラスをSUV調に仕立てたのが、500台限定の「クロスゴルフ」である。

……ベースとなったゴルフプラス自体がそもそも若干の正体不明系であるため、その限定バージョンたるクロスゴルフは(普通の人からすれば)完全に謎車だ。流行りのSUVテイストということもあって、おそらくだが200万円ほどの新世代ゴルフ(の派生車種)ぐらいには見られるのではないか? しかし実は車両価格で80万円も見ておけば走行5万kmぐらいのブツが狙えるお手頃系である。そしてエンジンは1.4Lのツインチャージャー(ターボ+スーパーチャージャー)でなかなかパワフル。最高である。
 

旧型プジョー 3008、フィアット ムルティプラの前期型も!

あるいは旧型プジョー 3008も、ステキな正体不明系である気がしてならない。

旧型プジョー 3008は、10年6月に登場した5人乗りのクロスオーバーで、プジョー自身は「セダンとMPV、SUVの魅力が融合したモデル」と称している。今年3月からはシュッとしたデザインの現行型に変わっているが、旧型の、特にその前期型である13年途中までのモデルは、得も言われぬおだんご的フォルムと微妙に洒落たフレンチテイストがないまぜになった、(ある意味)極上の正体不明系だ。
 

▲これが旧型プジョー 3008前期型。搭載エンジンは1.6Lの直噴ターボで、顔に似合わず(?)走りはなかなかのもの ▲これが旧型プジョー 3008前期型。搭載エンジンは1.6Lの直噴ターボで、顔に似合わず(?)走りはなかなかのもの
 

車マニア的には有名すぎるかもしれないが、一般人目線で言うならフィアット ムルティプラの前期型も、最高すぎるほど最高な「正体不明系」だ。

ムルティプラは03年4月に登場したフィアット製のMPV(多目的車)で、全長4mそこそこのコンパクトサイズながら2列×3人掛けの6人乗りというユニークなシート配置。エンジンは何の変哲もない1.6Lの直列4気筒だが、これがまあとにかくよく走ってよく曲がる。このビジュアルからは想像できないほどの活発ぶりなのである。
 

▲フィアット ムルティプラの前期型。一度見たら忘れない、夢に出てきそうな(?)顔つきとフォルムが特徴 ▲フィアット ムルティプラの前期型。一度見たら忘れない、夢に出てきそうな(?)顔つきとフォルムが特徴
 

04年11月からの後期型はごく普通なビジュアルになってしまったのだが、前期型のまるで深海魚のような(?)ルックスはまさに正体不明。その中古車相場は、素人からは完全に推測不明であろう。しかし実際は50万~80万円ほどで全然イケるお手頃系。「トランスミッションは5MTのみ」という部分がノープロブレムであるなら、最高に近い正体不明系である。

その他、新車はあまり売れなかったルノー ウインドというコンパクトなオープンカーもなかなかの正体不明系とは思うが、「普通に使える」という観点で見るなら、ここに挙げた3つのおだんご系輸入車が順当な選択肢となろう。「おおむね100万円」という限られたコストのパフォーマンスを最大限に炸裂させたいと考えている諸兄は、ぜひこの3モデルにご注目いただけたなら幸いだ。
 

text/伊達軍曹
photo/フォルクスワーゲン、プジ ョー・シトロエン、フィアット・クライスラー、photo AC