▲大人気のアルファロメオ ジュリエッタとフィアット 500に挟まれて、ある意味「真空地帯」になってしまっているアルファロメオ ミトですが、ちょっと見方を変えればかなり魅力的な選択肢かと! ▲大人気のアルファロメオ ジュリエッタとフィアット 500に挟まれて、ある意味「真空地帯」になってしまっているアルファロメオ ミトですが、ちょっと見方を変えればかなり魅力的な選択肢かと!
 

視覚や手触りの面でも楽しめる車に乗りたい。人間だもの

輸入中古車評論家を自称するわたしだが、自慢じゃないがカネはない。いや日々の食事に困窮するほど貧乏しているわけではないが、「車を買うなら予算はおおむね100万円台半ばまで!」と固く心に決めながら、ニッポンの中流ド真ん中を生きている。

だがそんなわたしであっても、モノを買う際は予算や機能だけでなく「洒脱」や「伊達」といった観点にもそれなりにこだわりたいとは思っている。例えばプラスチックの茶碗でもメシは食えるし、「落としても割れないから意外と便利!」という見方すらできるわけだが、やはり人間たるものちゃんとした陶器の、しかも比較的ステキなデザインの茶碗でメシを食いたいのである。

それと同様に車も、ただ走るだけなら最近の車はどれを選んでもそれなり以上によく走るが、やはり「プラスチック茶碗みたいな車」は避けたいところだ。つまり機能だけでなく視覚や手触りの面でも楽しめる車に、人は乗るべきなのではないかと考えているのだ。

「視覚や手触りの面でも楽しめる車」というのは世の中に様々あるが、その筆頭格の一つがイタリアのアルファロメオであることに異論は少ないだろう。で、数あるアルファロメオ車の中で今、ある種異様なまでの高コスパを発揮しているのが、3ドアFFハッチバックのMiTo(ミト)である。

新世代のベイビーアルファとして09年5月に登場したミトは、基本となるエンジンに1.4Lの直4ターボを採用。当初は最高出力155psの「1.4ターボスポーツ」のみというラインナップだったが、後に170ps+6MTの「クワドリフォリオヴェルデ」を追加。そして10年10月からは吸気バルブの開閉タイミングなどを高度に制御する「マルチエアエンジン」に変更し同時にトランスミッションもDCTタイプの「Alfa TCT」を採用した。

▲デザイン・コンシャスな3ドアハッチとして一部で人気のアルファロメオ ミト。ちなみにミト(MiTo)という車名はミラノ(Mi)でデザインされ、トリノ(To)で生産されたことに由来している ▲デザイン・コンシャスな3ドアハッチとして一部で人気のアルファロメオ ミト。ちなみにミト(MiTo)という車名はミラノ(Mi)でデザインされ、トリノ(To)で生産されたことに由来している
▲初期の「1.4ターボスポーツ」と、その後追加された「クワドリフォリオヴェルデ」は6MTのみだったが、10年10月のエンジン刷新のタイミングでDCTである「Alfa TCT」も採用された ▲初期の「1.4ターボスポーツ」と、その後追加された「クワドリフォリオヴェルデ」は6MTのみだったが、10年10月のエンジン刷新のタイミングでDCTである「Alfa TCT」も採用された

ステキな車なのに妙に安いのは、微妙すぎる立ち位置のせい?

しかしミトの最大のセールスポイントは、そういったパワートレインうんぬんよりも「デザイン」にあるのだろう。

得も言われぬ有機的な曲線と曲面を組み合わせて出来上がった全体の造形は、世界中のどんな実用3ドアハッチバックとも似ていないワン・アンド・オンリーな耽美の世界。同様にインテリアのデザインもこれぞイタ車、これぞアルファとしか言いようのない現代アート系。使われている内装素材もなかなか上質ゆえ、まさに「機能だけでなく視覚や手触りの面でも楽しめる」という稀有な実用ハッチバックなのだ。

だが残念ながら新車のセールスは今ひとつぱっとせず、それに連動して中古車マーケットの方でも、「不人気車」というわけでもないが、しかし「人気車」であるとは言いがたい状況。その結果として今、走行4万km台までの09~12年式車が車両価格150万円以下にて楽勝で狙えるようになっているのだ。ちなみに新車価格は、年によって微妙に異なるがざっくり270万~350万円ほどである。

今ひとつ人気薄で、それゆえ図らずも高コスパ車となってしまったミトだが、車のデキ自体はなかなか悪くない。「ものすごくイイか?」と問われれば微妙かもしれないが、少なくともフツー以上によく走り、そしてよく曲がってよく止まるステキなハッチバックであることは間違いない。で、前述のとおりデザインは内外装とも耽美的で超絶最高である。

それなのになぜここまで格安化してしまったかというと、おそらくはその「微妙な立ち位置」が災いしているのだろう。

▲アルファロメオ ミトのインパネまわり。何というか、人間でいう「彫りが深い」感じの造形だ ▲アルファロメオ ミトのインパネまわり。何というか、人間でいう「彫りが深い」感じの造形だ
▲地味な黒一色なのに、なぜか妙にイケメンなフロントシート。これが「イタリアンデザイン」ってやつか ▲地味な黒一色なのに、なぜか妙にイケメンなフロントシート。これが「イタリアンデザイン」ってやつか
 

この希少性を逆に評価する人にとってはナイスな選択

ある人が「ミトってステキだな、買おうかな」と思ったとしても、いざ実際に買うとなると3ドアであることがなんとなく不便に思えてきて、その結果として「……どうせなら5ドアのジュリエッタにすっか」ということで、同門であるアルファロメオ ジュリエッタの方を契約してしまう。

また「や、ウチは3ドアでも大丈夫だし」と思った人がいたとしても、今度は準同門であるフィアットの500(チンクエチェント)が競合になってくる。で、「……なんかチンクの方がカワイイし、人気だし」みたいな理由で、フィアット 500の方を契約する人も多い。

おそらくはそんなこんなの事情で、ミトはある意味「宙ぶらりん」になってしまっているのだ。真空地帯というか何というか。

まぁそういった人様の事情や趣味にケチをつける気は毛頭ないが、わたしに言わせればデザインの躍動感に関してはジュリエッタよりもミトの方が上であると思うし、また男性が乗るのであれば、率直に申し上げてフィアット 500よりもミトの方がサマになるのではないかとも思う。

もちろんこういった価値観や美意識を押し付けることはできないが、「なるほどね。とにかくあんまり売れ筋ではないというのは、わたしにとっては逆にうれしいポイントかな。だって他人とカブらない方がイイじゃん」と考える人にとっては今、150万円以下のアルファロメオ ミトは相当に魅力的で高コスパな選択肢である。

▲DCT仕様も悪くないが、6MT仕様を選ぶことができたなら、その走りはさらに痛快だ ▲DCT仕様も悪くないが、6MT仕様を選ぶことができたなら、その走りはさらに痛快だ
text/伊達軍曹
photo/フィアット・クライスラー・オートモービルズ