house 159 ▲枚方市の閑静な住宅地に佇むガレージハウス。オーバースライダーが上がると姿を見せる、カーマニア垂ぜんの車が横一列に並ぶその様は圧巻だ。さらに、この家には外から見ただけではうかがい知れない、暮らしを豊かにする仕掛けが備わっている

窓を最小限に抑えて、外界と隔絶した空間

選りすぐりの4台がずらりと横一列に並ぶガレージハウス。

よく見ると、フェラーリ 812スーパーファストとマクラーレン 720Sスパイダーが収まるガレージ(上の画像右側) に対して、ポルシェ マカンやアルファ ロメオ ジュリエッタが置かれる側は、少しだけ奥まっている。これは、右側の奥にある趣味部屋からポルシェやアルファ ロメオも眺められるように、という建築家・藤原さんの計らいだ。

「もちろん趣味部屋から愛でる対象は主にフェラーリやマクラーレンですが、例えばアルファ ロメオのエントリーモデルであるジュリエッタとはいえ、クアドリフォリオヴェルデであるなど、街乗りで使用される車たちも実は名車。だからガレージでの佇まいを眺められるようにしました」

ガレージ内のライティングは4台いずれも、妖艶なきらめきや、美しいボディラインが映えるように計算し尽くされている。

数々の名ガレージハウスを手がけている藤原さんだからこそ、たとえ施主に明言されなくても、こうした愛車へのさりげない配慮が、そこかしこに施される。藤原さんの経験値は、オーバースライダーの床の収まり方にも表れている。

オーバースライダーと接触する床は、ガレージ側よりも道路側がわずかに低い。「車で乗り越える際にガタンと音がしない程度で、閉めた際に外のホコリや雨水がガレージに入ってこない」という絶妙な高低差で設計されている。

また、目の前の道路が少し傾斜しているため、車高の低いフェラーリなどの腹を擦らないようにセットバックされ、なるべく広く平らなスペースがとられるなどの工夫が凝らされている。
 

house 159 ▲フェラーリの奥に見えるのは、排気ガス排出システム。本来車種ごとに対応する製品だが、一機で多様な車種に使用できるよう特注した
house 159 ▲玄関のドアを開けると一脚のイスが出迎えてくれる。左の壁はサンゴや貝殻などの蓄積で生まれた、自然の風合いが美しい琉球石灰岩
house 159 ▲ガレージ奥に設けられた趣味部屋。愛車を愛でながら一杯を楽しめる他、映画鑑賞もできる。気分転換にはもってこいのスペースだ
house 159 ▲ボディラインやきらめきなど、美の競演が催される夜のガレージ。4台ともボディカラーが異なるからこそ、眺めがさらに楽しくなる
house 159 ▲玄関ホールには2階へと続くシンプルでモダンな階段が備わる。帰宅時、または外出時に大きなガラス窓越しに愛車を眺めることもできる

室内へ入れば、2つの中庭がリビングやダイニングへ光や風を届けている。外からの視界を遮断しつつ開放的な空間を生んでくれる中庭はよく見かけるが、たいていは1つだ。

しかし「2つに分けた方が、1つより適切な採光と風の通り道を作りやすいのです」と藤原さん。しかも2つの中庭は、それぞれに個性が与えられている。

ダイニング側は"食を楽しむ庭"、リビング側は"くつろぎを与えてくれる庭"だ。"食を楽しむ庭"には例えばレモンを採取して料理に加える、といったふるまいも自然とできるように、植える樹木から計算されている。

趣味部屋から4台の愛車を眺め、ダイニングテーブルに向かって食事をしながら、日の差す庭の方を見れば、果実が実ったことで季節を知る。大阪のガレージハウスは、暮らす人々の豊かな毎日を育んでいる。
 

house 159 ▲写真左に見えるのが玄関。アプローチの階段を上ると、天井のガラス越しに青空と日差しが両側にある壁に梁の影をつくり来訪者を迎える
house 159 ▲南国のリゾートホテルをテーマにしているが、家具はモダンなもので揃えるなど、南国には寄せすぎず、程よい南国テイストに
house 159 ▲リビング側の中庭は、玄関と同じ琉球凝灰岩の壁を背景にした樹形や、ゆれる木漏れ日、木の陰が見る者の気持ちを安らかにさせてくれる
house 159 ▲リビングのソファに座ってくつろぐときは、テレビの収まる収納台が、その裏にあるワークスペースとピアノを視界から外してくれる
house 159 ▲ダイニング側の中庭にはテーブルとイスがある。ここで紅茶を飲む際は、木からレモンをとってレモンティーに、なんてことも楽しめる

■所在地:大阪府枚方市
■主要用途:専用住宅
■構造:木造特殊金物構法
■敷地面積:416.2 ㎡
■建築面積:208.1 ㎡
■延床面積:227.5 ㎡
■設計:藤原誠司(フジハラアーキテクツ)
■TEL:078-599-6105
■プロデュース:ザウス
■TEL:0120-054-354(関東)、0120-360-354(関西)

※カーセンサーEDGE 2021年5月号(2021年3月27日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています
 

文/籠島康弘、写真/平野和司