▲油圧を用いた独特なサスペンション「ハイドラクティブIIIプラス」を採用する最後のシトロエンとなったC5セダンおよびC5ツアラーが今、実はかなりお手頃な相場になってます ▲油圧を用いた独特なサスペンション「ハイドラクティブIIIプラス」を採用する最後のシトロエンとなったC5セダンおよびC5ツアラーが今、実はかなりお手頃な相場になってます

年齢相応の上質な輸入車はたいてい高額だが

輸入中古車評論家を自称するわたしだが、自慢じゃないがカネはない。いや日々の食事に困窮するほど貧乏しているわけではないが、「車を買う際の予算上限はせいぜい100万円台まで!」と自分に言い聞かせながら、ニッポンの中流ド真ん中を生きている。

だがそんなわたしも昔風に数えれば齢四十九。いわゆるアラフィフであり、そろそろ上質で落ち着いた感のある、そしてアラフィフの腰とお尻にやさしい乗り味の輸入車が欲しいところだ。

しかしそういった「上質で落ち着いた感のある、腰とお尻にやさしい乗り味の輸入車」というのは高額であるのが一般的だ。例えば現行メルセデス・ベンツ Eクラスステーションワゴンの後期型(これがまた素晴らしい車だ)を買おうとすると、比較的安価な物件でも車両価格390万円以上。……中流ド真ん中を自負する筆者にとっては、なかなかアレな金額である。

となれば「上質で落ち着いた感のある、腰とお尻にやさしい乗り味の輸入車」への乗り替えは今後いっさいあきらめるしかないのか……と歯噛みしていたとき、ひとつの選択肢に思い至った。

「そうだ、最終型のシトロエン C5があるじゃないか」と。

最終型のシトロエン C5セダンおよびC5ツアラーは08年10月から販売され、現在は最終限定車の在庫のみが売られているシトロエンのアッパーミドル。そして同社伝統のハイドロニューマチック・サスペンションの進化版である「ハイドラクティブIIIプラス」を搭載した最後のモデルだ。

ちなみに、ハイドロニューマチックというのは金属バネとショックアブソーバーの代わりにエアスプリングと油圧を使ったシステムで、雲上感あふれる超絶スムーズな乗り味が特徴。それゆえ中高年の腰とお尻には最高に優しいのである。

▲手前がシトロエン C5セダンで、奥が同C5ツアラー。写真は最終限定車の「FINAL EDITION」 ▲手前がシトロエン C5セダンで、奥が同C5ツアラー。写真は最終限定車の「FINAL EDITION」
▲細部はシトロエンらしい独特のセンスも炸裂しているが、基本的には上質なアッパーミドルにふさわしい落ち着いたデザインセンスとなる最終C5の室内空間。写真は前期3.0エクスクルーシブ ▲細部はシトロエンらしい独特のセンスも炸裂しているが、基本的には上質なアッパーミドルにふさわしい落ち着いたデザインセンスとなる最終C5の室内空間。写真は前期3.0エクスクルーシブ

ハイドロへの恐怖ゆえ(?)中古車相場は格安傾向

セダンおよびツアラーのグレード体系はそれぞれ前期型と後期型に分けることができ、10年4月までの前期型は2L直4エンジン+4速ATの「2.0」と、3L V6+6速ATの「3.0エクスクルーシブ」の2グレード。10年5月からの後期型は1.6L直噴ターボ+6速ATのみとなり、装備の違いでベーシックな「セダクション」と豪華な「エクスクルーシブ」とに分かれている。

その新車価格はグレードや時期により様々だが、あえてざっくり言ってしまうとベーシック系が400万円前後で、ゴージャス系が500万円前後といったところ。「超高級車」とは言えないまでも、「なかなかの高級車」であることは間違いない。アラフォーやアラフィフの男性・女性にはかなりピタリとハマる上質でシャレオツなサルーンおよびステーションワゴンなのだ。そして独創の油圧サスペンションであるハイドラクティブIIIプラスによるなめらかな乗り心地も、この年代の腰やお尻にとっては最高すぎるほど最高である。

そんなステキな最終型シトロエン C5であり、なおかつ「最後のハイドロ・シトロエン!」という付加価値もあるだけに、中古車ジャーナリストとしての筆者は「中古車相場は高値をキープするだろう」と予想していた。……プロとしての完璧すぎるほど完璧な予想である。

しかしその予想はあっけなくはずれ、今、市場には車両価格100万円台のシトロエン C5セダンならびにC5ツアラーがゴロゴロしている。それも走行距離1万km台からせいぜい4万km台までの、まずまず低走行といえる個体が100万円台でイケるのだ。

ここまでの安値となった理由は、筆者が推測するに「過剰なほどのハイドロ・シトロエンへの恐怖」なのではないかと思う。

▲ハイドラクティブは油圧とガス圧を組み合わせたサスペンションで、コイルスプリングとショックアブソーバーの代わりに、オイルと窒素が詰められた「スフィア」が付いている。その最終進化形である「ハイドラクティブIIIプラス」はブレーキサーボとパワーステアリング系統を分離し、スフィアを合計7個装備している ▲ハイドラクティブは油圧とガス圧を組み合わせたサスペンションで、コイルスプリングとショックアブソーバーの代わりに、オイルと窒素が詰められた「スフィア」が付いている。その最終進化形である「ハイドラクティブIIIプラス」はブレーキサーボとパワーステアリング系統を分離し、スフィアを合計7個装備している

「ハイドロ・シトロエン=壊れやすい」というのはもはや都市伝説

たしかに80年代にシトロエン BXの正規輸入が始まった頃は、筆者独自取材によればハイドロニューマチックについての正しい整備技術が当時のディーラーに伝わっていなかったため、結果として緑色の液体を下血させながら道端で息絶えるハイドロ・シトロエンが続出したと聞く。

しかしハイドロニューマチックというのはそもそも脆弱なシステムではなく、正しく整備すれば正しく頑丈に作動するものであることが、後の世の専門店などにより実証された。そして最終型シトロエン C5が採用したハイドラクティブIIIプラスはさらに不安が少ないシステムである。なぜならば、往年のハイドロニューマチックはブレーキやパワーステアリングにもハイドロ系の油圧を使っていたが、ハイドラクティブIIIプラスはサスペンションのみにその油圧を使っているからだ。意外というか、特に不安視することもない割とフツーのシステムなのである。

しかしそれでいてやはり、ハイドラクティブIIIプラスがもたらす独特の乗り味、雲上感は全然フツーじゃない。高速道路を快走しているときは超上質なウオーターベッドであり、峠の山坂道にさしかかるとなぜかシュアなスポーツサスペンションに豹変するという無双っぷりだ。

▲雲上感が強い乗り心地のハイドロ・シトロエンは「コーナリングが苦手」と誤解されがちだが、実際は山坂道でのハイスピード走行もまったく苦にしない車だ。特にハイドラクティブIIIプラスを採用した最終C5はその傾向が強い ▲雲上感が強い乗り心地のハイドロ・シトロエンは「コーナリングが苦手」と誤解されがちだが、実際は山坂道でのハイスピード走行もまったく苦にしない車だ。特にハイドラクティブIIIプラスを採用した最終C5はその傾向が強い

そんな素晴らしいサスペンションを今後新車では味わうことができないというのは残念な話だが、中古車であれがいつでも買える。いや、とはいえ状態良好な中古車が市場にまだ多数残っているうちに手に入れるべきではあるのだろう。

後期型6速ATの信頼性は非常に高く、前期型2Lに採用された4速ATも、ネットで噂されているように「必ず壊れる」というものでは決してない。……上質で、そして年齢的にややキツくなってきた腰やお尻にやさしい1台を100万円台ぐらいの予算感で探しているアラフォーおよびアラフィフのご同輩にとって、これ以上の選択はそうそうないと思うのだが、いかがだろうか。

text/伊達軍曹
photo/プジョー・シトロエン