「“昔より気持ちよくない”なんてことは絶対にない!」現役社員・新田 亮、廣田光一が語る引き継がれるスバルイズム
2019/03/31
昔から現在の車までを知り尽くすプロの人たちにインタビューし、“名車”というテーマで語ってもらった。すると思想や技術だけではなく、関わる人たちの熱いスピリットが時代を超えて脈々と受け継がれていることが分かった。彼らの言葉や思いを知れば、現在の車に対する見方がガラリと変わるはずだ。

“逆スケールメリット”を最大限に発揮している
長年SUBARUの車作りに携わってきた新田 亮(にったりょう)さんと廣田光一(ひろたこういち)さん。作り手を通して代々受け継がれる“名車のスピリット”について、現SUBARU車オーナーでもある自動車ライターの伊達軍曹が迫ります。


いきなりですが、GC8と現行WRX STIって「地続き」と考えていいのでしょうか?
つまりGC8開発時のスピリットや作り方は今に受け継がれているのか、それともぜんぜん別モノになっているのか? という質問です。

それはもう間違いなく継承されてますね。

ですね。間違いないです。

具体的にはどういう部分が?

小規模なメーカーであることがむしろ強みになる“逆スケールメリット”とでもいうべき開発が、SUBARUの社内では脈々と続いてるんですよ。

車が好きで好きでたまらない社員が、部署の垣根を無視して「自分が本気で乗りたいと思える車を、みんなで開発する」というのが弊社のやり方で、それは昔も今もまったく変わってませんね。


巨大メーカーさんでは許されないことかもしれませんが、ウチの場合は、例えば実験部がテストをしながら議論をしていると、そこに設計部の社員が「何々?」みたいな感じで混ざってきて、さらなる議論と再テストがその場で始まる――なんてことは昔からしばしばです。

大規模メーカーさんがそれをやろうとすると数百人単位の大会議になっちゃうのかもしれませんが、ウチの場合は幸か不幸か十数人とかでやれますから(笑)。
SUBARUでは職種問わずみんながテストドライバー

話の順番が前後して恐縮ですが、おふたりのそもそもの関係性を教えてください。

私は入社3年目から初代インプレッサWRXの操安性開発を担当していました。
その後しばらくするとセールスに出向となり、自分が作った車を自分で売っていた時期もあったのですが(笑)。

私は最初、耐久性を見る部署にいて、3年後に新田と同じ操安性開発の部署に異動しました。
インプレッサでいうとGDB(2代目WRX)の頃から操安性の担当をしています。で、今はVAB(現行WRX)の操安性の確認をやらせてもらってます。

それは「現行WRXのテストドライバーをされてる」という解釈でいいのでしょうか?

弊社には「専門のテストドライバー」という立場の社員はいないんですよ。

そ、そうなんですか!

はい。SUBARUでは設計や実験に携わる全員がいわばテストドライバーで、それどころか製造部門の社員も、ときにはテストドライバーという立場に変身します。

逆に、我々実験部が試作部品の工作をすることもあるんですよ。

そうそう。もちろん本来はしかるべき部署が作るものなんですが、「えーい、まどろっこしい!」みたいな感じで、まずは自分たちが思いついた部品をその場で作り、そしてそのままテストを始めちゃうこともあります。

なので、なぜか実験部の中に溶接室があるという(笑)。



余談ですが、社内には「自動車部」があって、プライベートでも車を楽しんでいるんです。

自動車メーカー内に自動車部があるというのは、「プロ野球球団の中に草野球部がある」みたいな感じで意味不明なんですが(笑)、とにかく昔からあるんです。
ちなみに私はサーキット走行を昔から嗜んでまして、こちらの新田は……。

私はダートラ(ダートトライアル)ですね。「泥の上が大好き系」と言いますか(笑)。

まぁ自動車部はさておき、社内組織は確かに縦割りなんですが、仕事の進め方はかなり横断的です。
そこには「小規模メーカーだから」という単純な理由もあるのですが、でも人が少ないからこそ無駄なフリクション(摩擦)がないですし、部署間の“距離”が近いんですよね。

ライバルがいなくなっても世界を相手に戦っている

そのような小世帯で毎日テストして議論して、そして時には溶接もして(笑)、みなさんはいったい“何”を作ろうとしているのです?

それは昔も今も、「人が感じる動きの気持ちよさ」にほかなりません。
ドライバーの操作に応じて意のままに動く、人の気持ちと完全にリンクした車を作る――という遺伝子は、GC8もWRX STIも実はまったく同じなんですよ。

そして現在は開発や試験などに使う計測機器の性能も格段に進化しています。
GC8の時代は数値化が困難だった「動きの中の過渡的部分の特性」も、今なら数値で把握できます。
そこに、昔から変わらぬスバルイズム――みんなで乗って、みんなで意見を言い、そして“人が感じる気持ちよさを追求する”というやり方が加わっているのですから、「昔より気持ちよくない」なんてことは絶対にないはずだと考えています。

現在のスバルは確かにWRCには参戦してませんし、WRCでライバルだった三菱さんのランエボもなくなってしまいました。
でもその代わり「市販車としての世界的強豪たち」と「本当に気持ちのよい走りを求める」という分野で戦ってるんです。
わたしたちのやり方は、もしかしたら効率的ではないのかもしれません。でも人力の要素が大きい分だけ、お客さまにはきっと何かを感じていただけるはずだと、確信しています。


株式会社SUBARU
新田 亮
株式会社SUBARU 車両研究実験総括部部長。入社当時は、初代インプレッサWRXの開発に携わり、現在は車両のテスト部門を取りまとめている。プライベートでは、愛車でダートトライアルを楽しんでいる。

株式会社SUBARU
廣田光一
株式会社SUBARU 車両研究実験担当。現在は新田氏とともに現行型WRXやインプレッサスポーツなど、多くの新車開発テストに携わっている。休日は、自身の愛車でサーキット走行を楽しむ。

自動車ライター
伊達軍曹
外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。現在は「手頃なプライスの輸入中古車ネタ」を得意としながらも、ジャンルや車種を問わず、様々な自動車メディアに記事を寄稿している。愛車はスバル XV。
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