弱冠28歳で「前澤友作スーパーカープロジェクト」のマネージャーを務め、997 GT3 RSを操る「やまけん HOC」の野望
2020/04/19
車の数だけ存在する「車を囲むオーナーのドラマ」を紹介するインタビュー連載。あなたは、どんなクルマと、どんな時間を?
やまけん HOCは一体何物なのか?
弱冠28歳にしてシグナルグリーンの2007年式ポルシェ 911 GT3 RSに乗る男、やまけんさん。
「やまけん HOC」というツイッターアカウントはフォロワー数1万人以上であるため、あなたも、やまけんさんの911 GT3 RSを画面の中で見たことがあるかもしれない。
で、28歳にしてGT3 RSに乗っているという話を聞くと、まず思い浮かぶのは「……若いのに、なんでそんなカネ持ってるんだ? 御曹司なのか? それとも株式投資の達人とかなのか?」ということではないかと推測する。
結論から申し上げると、やまけんさんこと山田 健さんは御曹司でなければ株名人でもない、いわゆる会社員である(とはいえ、ちょっと特殊な会社の、ちょっと特殊な社員ではあるのだが)。
986型ポルシェ ボクスターSから始まり、フェラーリ 360モデナなどを経て現在のポルシェ 911 GT3 RSに至るまでのすべての愛車は、ご本人いわく「普通にローンで買っている」とのこと。
「……そもそもなぜ、まるで取り憑かれたかのように高い車ばかりバンバン買ってるの?」
これについて詳細は後述するが、まず結論部分だけを述べると、やまけんさんは「一途な絶倫男」なのだ。
一途なのは、タイプ964という空冷ポルシェ 911に対して。次から次へと高額な車を買い替える彼の心の中心には、実は常に「964」がある。
だが、それと同時に「車に対しては絶倫男」であるがゆえに、他の車種もバンバン買わざるを得ないのだ。やまけんさん的には。
きっかけは父
自動車趣味に目覚めたきっかけは「父」だった。
高校卒業の直前に1974年式のポルシェ 911Sを買ったというほど車好きだった父の影響を受け、やまけんさんも中学生の頃には、当時流行った電車男ならぬ「車男」と周囲の友人から呼ばれるタイプの少年になっていた。
大学1年生のときに運転免許を取得したが、実家暮らしとはいえ大学生にとって、自分の車を持つというのはなかなかハードルが高い所業。それゆえ初めて車を買ったのは社会人1年目の夏。
初代ポルシェ ボクスターSの後期型で、中古車とはいえ決して安い買い物ではなかったが、「就職先が一部上場企業だったからということもあって、すんなりローンが通ってしまいました」という。
「初めての愛車」である「初めてのポルシェ」を、やまけんさんは大いに気に入っていた。
だがある雨の日、高速道路のインターチェンジで「まったく飛ばしていたわけではなかったのですが、何かの継ぎ目でツルッといってしまい」、ボクスターSはあえなく廃車に。
その代わりに購入したのが、1992年式の964型ポルシェ 911 カレラ2だった。
「予算不足で難しいだろうと思ってたのですが、見に行った物件の車検証を見てみると、初度登録年月日が、僕の誕生年日とわずか3日違いだったんですよ。それで『そうかぁ、このポルシェはオレとほぼ同じ時間を地上で過ごしてきたんだなぁ……』なんて思ったら、もう買わずにはいられなくなってしまい(笑)、お金もないのに『コレ買います!』って言っちゃったんです」
ボクスターSのローンも残っていたため、964型とのダブルローン状態になったわけである。大丈夫だったのか? とご本人に尋ねると、「気合でなんとか乗り切りました!」とのこと。
そして、走行13万kmで購入した964型カレラ2は走行16万kmに達し、そのまま「一生モノ」として長く所有し続けるためには、けっこうな整備費用がかかるタイミングになっていた。
「で、結局は乗り替えることを決意しまして、本当は930型の911ターボにしようと思ったんですが、当時すでに930ターボのいいやつは1500万円ぐらいになっちゃってましたので、とてもじゃないけど手が出ずで……」
そして「男なら一度は夢のフェラーリを!」ということでF355を探したのだが、良質な物件はあまりにも高額。そこで、ボディカラーが気に入った2003年式のフェラーリ 360モデナを購入。総額は1200万円弱で、これもフルローンに近い形での超長期払い。その支払いも、「気合でなんとかしました」と。
360モデナにするも何か違う
だがフェラーリ 360モデナは、乗ってるうちに「何か違う……」と思うに至り、比較的早々に売却。
その後、「やっぱ空冷911を語るには、水冷911のことも知ってないとダメでしょ!」ということで、大好きだったシグナルグリーンの997型911 GT3 RSを探し始めたが、あまりに希少な選択肢だったため、物件探しは難航をきわめた。
その結果、3ヵ月以上にわたって車がない状態が続いたそうだが、車に関しては絶倫男であるやまけんさんが、3ヵ月も車なしで生きていると頭と身体がおかしくなってしまう……のかどうかは知らないが、ある日、某販売店から紹介された「緑のマクラーレン」の契約書に、思わずハンコを押してしまった。
マクラーレンオーナーになって嬉しいような微妙なような、なんともいえない心持ちで帰宅したやまけんさん。
そして翌日、もはや日課となっているカーセンサーnet参りをしてみると、あれだけ探しても探しても出てこなかった「シグナルグリーンの911 GT3 RS」が、そこにポツンと載っているではないか。
大あわてでマクラーレンの販売店に電話をかけ、「アレ、まだ止められますか?」と聞くと「大丈夫です」とのこと。
そのうえで911GT3 RSの掲載店に電話をかけ、翌日、試乗させてもらった。
「……コレだ!」という感覚が、体全体を貫いた。
このGT3 RSについても、購入方法はオートローンだ。
「普通のカレラPDKとかだと話は違いますが、GT3 RSみたいな“役物”は、数年乗ってもたぶん大きくは下がらないだろうから、まぁローンを組んでも大丈夫かな、と」
将来はF40が買いたい
そしてやまけんさんは言う。
この911 GT3 RSにはあと数年は乗るつもりだが、その次は、前々から自分の心の中心にある「964型ポルシェ 911」に、しかもその“役物”であるRSまたはカップカーを買うつもりだ――と。
「や、もしかしたらその前にマクラーレンやフェラーリ、ランボルギーニなどのスーパーカーに寄り道する可能性もありますが!」と、“車絶倫男”として笑いながら。
……なぜ、そこまでして「車」というものに大金を投じ続けるのだろうか?
「……なんででしょうねぇ? 本当になんでオレ、こんなに取り憑かれてるんだろう? 自分でもよくわ分からないのですが、とにかく“好き”なんですよ、ポルシェが。というか、車というものが」
車にけっこうな金額を投入している生活ではあるが、仕事も頑張っているので、おかげさまで決して「ギリギリの生活」ではないというやまけんさん。そして将来は、できることなら911 GT3 RSを売却して964型の役物を買うのではなく、それら2台を同時所有できるぐらいの人間になりたい、とも言う。
「ていうか、もっと言うと将来はフェラーリ F40を買いたいと思ってますので、964の役物も僕にとっては通過点にすぎません(笑)」
車との対話も人との対話もどちらも好き
なぜそこまで取り憑かれてるのかは、本人も分からないという。それでは、いったい何が彼を突き動かしているのだろうか?
「自分ひとりで黙々と運転しながら――言い方はカッコ良すぎるかもしれませんが、『車と対話する』というのも本当に好き。でもそれ以上に、仲間と集まって一緒に走るというのがとても好きなんですよね。車趣味を通じてできる友人は価値観が近いゆえに、一生モノの友だと感じていますし」
今後はどんな形でカーライフを楽しんでいきたいかと聞くと、
「車と対話して道を駆け抜ける、車を通してできた友達と一緒に車趣味を楽しむ――といった感じで、とにかく僕は車とも人とも“コミュニケーション”を取るのが大好きなんです。もっともっと車を通してできる繋がりを楽しみたい。もっといろいろな人と仲良くなって、どんどん新しい世界に飛び込んでいきたい!」と返すやまけんさん。
そういった気持ちの表れだろうか、彼は「HOC(平成オーナーズクラブ」というグループを創設。平成生まれの車好きをわざわざ集め車趣味をみんなで和気あいあいと楽しむ場を自ら作っている。
またプライベートの活動だけでなく「前澤友作スーパーカープロジェクト」のマネージャーとしても、子供から大人まで、第二次スーパーカーブームを、いや文化として「車」が根付くよう活動していきたいのだと言う。
これほどまでの偏愛ぶりが良いことなのかどうか、筆者には分からない。
だがとにかく、ひとりの人間をここまで熱狂させ、熱狂の中に人との繋がりも生み出す「車」というのは、やはりきわめて特殊な機械製品なのだとあらためて気づかされた、やまけんさんへのインタビューであった。
やまけんさんのマイカーレビュー
ポルシェ 911(997型)
●購入金額/約1300万円
●年間走行距離/2台で約3万km(編注:VW ゴルフRも所有中)
●購入する際に比較した車/マクラーレン 570S 650S
●マイカーの好きなところ/ガチガチのロールバー、ボディカラー
●マイカーの愛すべきダメなところ/乗りづらい。助手席の人と話しづらい
●マイカーはどんな人にオススメしたい?/走りを楽しみたい人
インタビュアー
伊達軍曹
外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。現在は「手頃なプライスの輸入中古車ネタ」を得意としながらも、ジャンルや車種を問わず、様々な自動車メディアに記事を寄稿している。愛車はスバル XV。
【関連リンク】
日刊カーセンサーの厳選情報をSNSで受け取る
あわせて読みたい
- 植田圭輔さんが、真っ赤なポルシェで緑の中を駆け抜ける!
- ドア開閉音からも分かる卓越したビルドクオリティ、空冷時代だからこそ生きたポルシェの技術力
- 手にするものはすべてがアート。自然を愛するアーティストは世界で1台だけのメルセデス・ベンツ Gクラスに乗る
- アルピナ B8 4.6リムジン。それはある意味「永遠の命」をもつ希少名車だった。【NEXT EDGE CAR】
- おでかけは、あえて2台で。家族のようなランドローバー ディフェンダー90とルノー カングー
- 「燃費」から「愛着」へ。エコ視点で選んだのは、中古のボルボ XC60だった
- 【松岡充さんと行く!】ヘリテージカーの祭典「オートモビルカウンシル2021」レポート(後編)
- 【松岡充さんと行く!】ヘリテージカーの祭典「オートモビルカウンシル2021」レポート(中編)
- 【松岡充さんと行く!】ヘリテージカーの祭典「オートモビルカウンシル2021」レポート(前編)
- 04 Limited Sazabys GENさんが、二輪から四輪に乗り替え!? 新型ディフェンダーでオフロード走行