超レア物! 「左ハンのエルグランド」こと逆輸入車・日産 クエストが放つゆるやかなバイブズ
2020/01/05
車の数だけ存在する「車を囲むオーナーのドラマ」を紹介するインタビュー連載。あなたは、どんなクルマと、どんな時間を?
アメリカが好きなのではなく「アメ車の乗り味」が好きだった
波乗り歴25年でアメリカ製のフルサイズバンが好き――と聞くと、多くの人は「ああ、典型的なアメリカンカルチャーかぶれのアレですか(笑)」と早合点するかもしれない。
だが、栃木県宇都宮市在住の加藤哲也さんの場合は、実はそうでもない。
自分の使い方と感性に合う乗り物が「たまたまアメリカ製の大きめな車だった」というだけのことで、決してアメ車のマニアではない。
またいわゆる古き良きアメリカンカルチャーも、嫌いではないが「特別に興味があるわけでもない」という。
18歳で免許を取って最初に買った車はトヨタ ソアラだったが、19歳でシボレー アストロに乗り替えると「アメリカ製のゆったりした車」特有の魅力に気づき、22歳でマーキュリー コロニーパーク(フォードの大型ステーションワゴン。ボディサイドにはウッドが張られている)に乗り替えてみるとさらに気に入り、それには約6年間乗った。
諸事情あって28歳のときにトヨタ ハイエースのスーパーロングに乗り替えたが、「理由はわからないのですが、なぜか自分にはしっくりこなかった」ということで2~3ヵ月乗っただけで売却。
そしてまたもやアメリカ車に戻った。今度はフォード エコノライン。ちょっとファニーな造形のフォード製フルサイズバンだ。
フォード エコノラインについてもこれまた大いに気に入った加藤さんだったが、31歳で子供が生まれると「今後はカネも貯めなくちゃならないし、子供にいろいろなことを経験させてやりたいし」ということでトヨタ グランドハイエースの特装車に乗り替え。
これをキャンピングカー仕様にして約9年間乗った。子供たちや妻と、あちこちへ出かけた。そしてもちろんライフワークである波乗りにもグランドハイエース特装車にて毎週末、出かけていった。
アメリカ車嫌いの妻を「日本車だから」と騙して(?)購入
だが40歳になったある日、また「虫」がうずき始めた。「アメリカ製の大きな車をゆったり走らせたい!」という虫だ。
だが妻はその「虫」が気に入らなかった。「アメ車なんて壊れるから絶対ダメ!」と。
確かに妻が言うとおり、コロニーパークもエコノラインも「故障とは無縁でした」とはとてもじゃないが言えない車だった。
だが、一度ついた「アメリカ製の大きな車をまたゆったり走らせたい」という欲望の炎は、とてもじゃないが消えそうになかった。
そこで加藤さんはひらめいた。「そうだ、逆輸入車があるじゃないか」と。
現在の加藤さんの愛車である4代目の米国日産 クエスト。現行型日産 エルグランドの北米向けバージョンで、ホイールベースはエルグランドと同寸だが、オーバーハング部分がエルグランドよりずいぶん大きい。
そのため全長はエルグランドより185mm長く、全幅は120mm広い。それに連動してシートサイズも大柄なアメリカ人向けサイズになっており、そしてアメリカ市場向けゆえ当然なのだが「左ハンドル」でもある。
「これならイケるかもしれない……」と考えた加藤さんは、アメリカ車嫌いの妻を説得……というか「騙し」にかかった。
「次の車は日産にしようと思ってるんだ」
クエストはいわゆるアメリカ車だが、「日産車」であることも確か。嘘ではない。
「クエストっていうんだけど、日本の工場で作ってるんだよ」
4代目クエストはいわゆるアメリカ車だが、その生産は福岡県の「日産車体九州」で行われていた。それゆえこれも、決して嘘ではない。
「それならいいんじゃない?」ということで妻からのOKが出た加藤さんは、さっそく業者を通じてアメリカに日産 クエストの新車を発注。そして納車されたのが、今から約7年前のことだった。
当然ながら、自宅に到着したクエストを見れば左側にハンドルが付いているため、「いわゆる日本車ではない」ということはすぐさまバレた。
だが妻は苦笑する程度で、特に文句は言わなかったという。「彼女自身もフォルクスワーゲンとかオペルとかが好きな人ですからね、輸入車が嫌いなわけじゃないんですよ。壊れる輸入車が嫌い、というだけで(笑)」
納車された日産 クエストは、好みを言えば「もう少し乗り心地がフワフワであってほしかった」というのはあるにしても、広さも乗り味もまさに「加藤さん好みのアレ」であり、まごうことなき「アメリカ車」だった。
ゆるやかな車の中に流れる、ゆるやかな時間
サーファーとして朝イチの「良い波」に乗るためには車中泊が欠かせない。
前日の深夜に宇都宮市を出発し、深夜に茨城県の鹿島や大洗などのビーチに到着。そこで数時間の仮眠をとり、朝4時から6時か7時ぐらいまで、ひたすら波乗りを満喫しているのだ。
そのため加藤さんのクエストは完全な車中泊仕様になっており、加藤さんひとりであれば超余裕、家族同伴だったとしても「普通に寝れる」といった感じにカスタマイズされている。
「エルグランドより車内はずいぶん広いですからね、そのあたりは楽勝です」と加藤さんは言う。
家族といえば、現在「思春期真っ只中」と言える中学生の息子さんとの会話にも、クエストは大いに役立っているという。
「まあ微妙な年齢ですからね、家では何か話しかけても『……あっ?』みたいな感じになることも多いですよ。でも、野球部に所属している息子をほぼ毎週末、この車で送迎しているのですが、車の中だとなぜか彼も素直になるんですよね」
なぜだろう?
「……なんでかな? 正面から顔を突き合わせるんじゃなくて、走っている車の中で双方が『前を見ているから』……なんですかね? 家の中では言えないような微妙なあれこれを、男同士として、彼もクエストの車内では話してくれるんです」
アメリカ車であるクエストならではのゆったりとしたリズムと空間が、難しい年齢を生きているご長男の気分を和らげているのだろう……とまとめてしまっては、話を創りすぎだ。
だが「100%クエストのおかげ」ではないにしても、この車が放つゆるやかなバイブズが彼の心を少しだけ変調させている可能性は、割とあるだろうなとも思っている。
加藤哲也さんのマイカーレビュー
米国日産 クエスト(4代目)
●購入金額/約330万円
●年間走行距離/約15000㎞
●マイカーの好きなところ/フロントマスク
●マイカーの愛すべきダメなところ/エルグランドにはアイドリングストップやエコカー減税があるのに、クエストには何も無い
●マイカーはどんな人にオススメしたい?/アメ車に乗りたいけど故障が心配な方。日本で生産してるので心配は少ないですよ!
インタビュアー
伊達軍曹
外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。現在は「手頃なプライスの輸入中古車ネタ」を得意としながらも、ジャンルや車種を問わず、様々な自動車メディアに記事を寄稿している。愛車はスバル XV。
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