フィアット 500

【連載:どんなクルマと、どんな時間を。】
車の数だけ存在する「車を囲むオーナーのドラマ」を紹介するインタビュー連載。あなたは、どんなクルマと、どんな時間を?

ペーパードライバーから一念発起

カーマニアは、特に男性カーマニアは、ともすれば「車がある人生や、いわゆる自動車文化を楽しんでいるのは男衆だけである!」みたいな錯覚を起こしやすい。

そしてさらには「どうせ女は車のことなんてろくすっぽわかんないんだから、特に運転がド下手な初心者女は引っ込んでろや!」ぐらいのことを(声には出さずとも内心で)思っている人もいるかもしれない。

だがそれは大きな勘違いであると、ここで指摘したい。

小さな車に乗っている、運転がまだぜんぜん上手くない女性であっても、自分の車がそこにあることをとことん愛している人はたくさんいる。

例えばこの人、須賀ローラさんだ。

フィアット500

美容関係の事業を営んでいる須賀ローラさんの愛車は、彼女にとって生まれて初めての自家用車であるイタリア製の小さなオープンカー、フィアット500C。さらに具体的には、2019年2月に発売された限定車「500C Collezione」である。

「オペラ ボルドー」という深みのあるボルドーレッドのボディカラーが素敵な1台だが、須賀さんご自身は長い間ペーパードライバーであったため、はっきり言って運転はうまくない。

「ガソリンスタンドに入って給油するってだけでいまだにドキドキしちゃいますし(笑)、首都高は怖くて乗れません」ぐらいのドライバーだ。

しかし、ローラさんは500Cが納車された瞬間からすっかり500Cの、いや「愛着がもてる小さな車」のとりこになった。

「好きなときに好きな場所へ行ける車があるというのは、まるで自分の身体に翼が生えたみたいです。そんなに長くは乗らないだろうと思って3年間のベーシックな新車保証で買ったのですが、こんなことなら2年間の延長保証を付けて5年保証にしとけばよかった(笑)」

フィアット500

ペーパードライバーだったローラさんが自分の車を買うことになったきっかけは約1年前、知人の女性が運転する大きなジャガーに同乗したことだった。

「その方は私が尊敬している女性で、ものすごいバリバリ働いてらっしゃる人なんです。で、お父さまの形見である大きなジャガーに乗ってらっしゃるんですが、あるとき『今度の週末、御殿場のアウトレットに行こうよ』って誘われて、そのジャガーの助手席に乗って御殿場に向かったんです」

しかし、その週末はいわゆるシルバーウイーク。東名高速は大渋滞していて、「御殿場まで3時間」という表示が出るような状況だった(ちなみに通常なら東京から御殿場へは1時間ぐらいで到着する)。

「すっごい渋滞だったんですが、彼女はものすごく楽しそうなんですよ。『3時間かぁ、大変だね~』とか言いながらニコニコしてる。ものすごいキャリアをもってらっしゃるバリバリのエリートなんですが、そんな彼女がひたすら楽しそうにしているのと、小さな身体でおっきなジャガーを愛おしそうに運転している姿がカッコよくて、わたしも自分の車が欲しいな……って思ったんです」

またローラさんは愛犬チビくん(トイプードル/2歳)を広い公園のドッグランで時おり遊ばせるため、たまにタクシーで公園まで通っていた。しかし成長とともにどんどん元気に(やんちゃに)なっていくチビくんをもっと存分に遊ばせてやりたいと思ったとき、「やっぱり自分の車が欲しい」と思ったそうだ。

フィアット500
フィアット500

そしてそこから、超ペーパードライバーだったローラさんの「運転修業」が始まった。

カーシェアリングの会員になり、まずは小さなトヨタ アクアを借りて、すっかり忘れていた車両感覚をつかむ。そして、メルセデス・ベンツに乗っている旦那さまが「買うならコレにしなよ!」と強烈に推してくるメルセデス・ベンツAクラスのレンタカーを沖縄で借り、3日間運転してみるなどした。

「でも、Aクラスにはときめかなかったんですよね……。とっても高性能でコスパも良いんですが、初心者の私には大きく感じて……」

それでもなぜか猛烈な勢いでAクラスを推してくる旦那さまの意見を振り払い、ローラさんは自分が買うべき「運転しやすい小さな車」を見つけるため「各社コンパクトカーの寸法一覧表」を自分で(しかも手書きで!)作成するなどしていた。

500C Collezioneとの出合い

そんなある日、都内にあるローラさんが営むお店の前に「アバルト695エディツィオーネ マセラティ」がたまたま止まっていた。ボディカラーは、500C Collezioneのオペラ ボルドーによく似たボルドーレッドだった。

「カッコいい! いい色! アレに乗りたい! と思って、後日アバルトのディーラーに行って試乗してみたんですが……アバルト695ってエンジン音とかがすごく大きいじゃないですか? あれがちょっと怖くて嫌だな……と思っちゃいまして」

アバルト695のいわゆるレーシーな排気音やエンジン音を「無理!」と感じてしまったローラさんだったが、アバルト695や、そのベース車両であるフィアット500のデザイン自体は「とっても可愛い」と感じた。

そんなあるとき、その後購入することになる限定車「フィアット500C Collezione」が発売され、ローラさんはそのデザインと色にひとめぼれした。

「屋根がある500のCollezioneは限定160台でしたが、わたしが欲しいと思った屋根なし(500C)の方は限定40台しかないということで、今年の5月にディーラーへ行って、さっそく試乗してみたんです」

その際、ローラさんは不思議な感覚を得た。

「わたしはこんな感じで運転が下手なんで、『周りの車に迷惑かけちゃいけない!』みたいな感じで運転中はいつもビビってるし気が小さくなってるんです。でも、フィアット500Cに乗っているとなぜか、周囲の車が車線変更とかの際、スムーズに譲ってくれたんですよね……気のせいかもしれませんが」

この車なら、駐車場で他の車を待たせたり、合流で少しまごついても許されるのでは? と思ったローラさんは「フィアット500Cなら、20年近くペーパードライバーだった私でも安心して車社会という大海原に漕ぎ出せる!」と確信し、40台の限定車である500C Collezioneをディーラーに「キープ」してもらうことにした。

その場ですぐ購入! というわけにはいかなかったのは、なぜか猛烈に現行型メルセデス・ベンツAクラスを推してくる旦那さまを説得するというか、平和裏に撃退する必要があったからだ。

「まあ彼があそこまで強固にAクラスを勧めてきたのは、わたしの身体を心配してくれたからなんだとは思います。Aクラスだったら安全装備とか駐車支援システムとか、いっぱい付いてるじゃないですか? でもフィアット500Cはそういうの、何も付いてないですから(笑)。心配だったんでしょうね」

猛烈に、強烈にメルセデス・ベンツAクラスを推していた旦那さまだったが、ローラさんが500Cにどんどん傾倒していくにつれ、いつしか旦那さまも(ローラさんいわく)洗脳され、「さっきネイビーの500Cを見かけたよ! アレは君に似合うかもね!」みたいな話をするようになっていった。

フィアット500

そのようなあれこれを経て今年8月31日にやっとこさ無事納車されたのが、こちらのフィアット500C Collezione。ペーパードライバーだった須賀ローラさんに「翼」を与えた小さな車だ。

長々と述べてきたが、言いたいことはこうである。

「なんかお前ら、この500Cを見て『都会に住んでるチャラチャラした美人の奥さまが、テキトーにフィアットに乗ってやがるな』とか思ってねえか? そんなことねえぞ! どんな車にもな、美人な奥さまが乗ってる500Cにもな、これだけのドラマがあったりもするんだよ! そこんとこ、覚えとけや!!!」ということだ。

ご清聴、ありがとうございました。

文/伊達軍曹、写真/稲葉真
撮影協力/BONDI CAFE YOYOGI BEACH PARK(東京都渋谷区富ヶ谷1-15-2 Barbizon55 1F)

トヨタ C-HR

須賀ローラさんのマイカーレビュー

フィアット 500C(初代・現行型)

●購入金額/約350万円
●年間走行距離/約6000㎞
●購入する際に比較した車/BMW i3
●マイカーの好きなところ/チョロQのようなコロンとしたフォルム、ボルドーとブロンズのエレガントな配色、ピラー(ウィンドウ)を残したまま開く幌(しかも開閉幅を好きに調整できるところ)
●マイカーの愛すべきダメなところ/スロースターターで出足が一歩遅いところ
●マイカーはどんな人にオススメしたい?/愛犬や小さな子供のいる初心者ドライバーさん。休日の過ごしかたが更に充実しますよ!

伊達軍曹(だてぐんそう)

インタビュアー

伊達軍曹

外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。現在は「手頃なプライスの輸入中古車ネタ」を得意としながらも、ジャンルや車種を問わず、様々な自動車メディアに記事を寄稿している。愛車はスバル XV。