Photo:篠原晃一

【連載:どんなクルマと、どんな時間を。】
車の数だけ存在する「車を囲むオーナーのドラマ」を紹介するインタビュー連載。あなたは、どんなクルマと、どんな時間を?

プライベート使いだけで年間3万km

弱冠26歳にして、アウディ S5というV8エンジンを搭載する高性能欧州車のオーナーとなった森田智樹さん。

いや、認定中古車として購入したのは約2年前の2017年9月ということなので、弱冠26歳というよりは「弱冠24歳のS5オーナーだった」と言う方が、物事はより正確だろう。

だが何歳の人間がどんな車種を買おうが、人それぞれのご勝手である。そのため、そこについての意見や質問は特にない。

思わずいろいろ聞いてみたくなるのは、S5の「走行距離」についてだ。

Photo:篠原晃一

2017年の購入時に3.8万kmだった09年式アウディ S5の走行距離は、現在9.7万km。1年あたり3万km弱は走った計算になる。いったいどこをどんなふうに、何のために走れば、そこまで距離が延びるものだろうか?

「うーん……ごく普通に車を使っていれば、そのぐらいの距離にはなると思うのですが……違いますかね?」

筆者などは「距離が延びすぎるとリセール価格の面で不利になるからなあ」などというショボいことを、ついつい考えてしまう。

だが森田さんは違った。

彼は横浜市在住だが、ふと「餃子が食べたいなぁ……」と思えば、距離も時間も気にせずに、約170km離れた餃子の本場・栃木県宇都宮市までS5を走らせる。

また、連休になれば、まずは静岡県の富士スピードウェイで知人が参戦しているレースの手伝いをしにいく。

そしてそのまま福岡県に住まう友人宅まで足を延ばし、そして関西にある実家に寄って両親の顔を見てから、また横浜に返ってくる。

……手元でざっと計算した限りでは、その行程だけでアウディS5の走行距離は2500kmは確実に増加する。そしてあえて下世話な話をするならば、リセール価格も(基本的には)その分だけ低下する。

「うーん……でも僕はリセール価格を気にして車を買ったり乗ったりしたことがないので、なんとも(笑)。……車は走るためのものですし、走ればオドメーターの数字が増えるのは仕方のない話じゃないですか。だからそこを気にするのはナンセンスかな、って」

Photo:篠原晃一

次に欲しいと思っている車はメルセデスの旧型C63 AMG。旧型ゆえ、これから買うなら中古車ということになるが、それでも決して安い車ではない。買うにあたっては、現在乗っているアウディ S5の売却益をアテにしたいところではあるはず。

だがそのS5は、森田さんがC63 AMGを買う頃には確実に10万kmを、いや11万kmまたは12万kmのラインすら越えているかもしれない。ということはつまり、基本的には高値にはならない。だが、森田さんは平然と言い切る。

「まぁその分だけ頑張って仕事をしたり、頑張って貯金すればいいだけなので、特に問題はないですよ」

なぜ車に乗るのか? 車というもののどんな部分が好きなのか? そして森田さんがアウディ S5の車内で過ごす時間とはいったいどんなものなのか……といったことを問うと、答えは非常にシンプルなひと言だった。

「圧倒的な自由、ということなんでしょうね」

どこかの誰かが設定した電車のダイヤグラムという制約や、森田さんが「キライ」だという“人混み”から完全に離れ、自分のタイミングで自由気ままに、自在に移動する。そしてそれを通じて、人生全体を堪能する。

そのためには、アウディ S5に限った話ではないが「高性能な車」が必要であり、「走行距離の増加」という一般的にはネガティブに思われる点も、いわば攻撃的に受け入れていく必要がある……ということなのだろう。

「最初に買った車は初代ホンダ シビック タイプRの競技車仕様で、その次が今のコレです。で、車一辺倒の趣味生活も正直どうなのか……と思う部分もあって、一眼レフのカメラを買い、写真を趣味にしてみようとしたんです。

でも、結局撮っているのはサーキットで走ってる友人の車が中心で、自分でも早くC63 AMGが欲しいとか言ってますし(笑)。いい車、つまり疲れずに長距離を走れるという意味での高性能車がある生活は、やっぱりなかなかやめられませんね……」

Photo:篠原晃一

「あ、でも僕は“性能そのもの”に拘泥してるわけではないんです。車って、それ単体ではなく常にドライバーとセットになってる存在じゃないですか?

きちんと運転ができるドライバーと一体になって初めて、高性能車というのは“カッコいい存在”になれると思うんです。だから僕も、そういうドライバーでありたいと思ってますね」

S5のオドメーターは、この記事が公開になる頃には軽く10万kmのラインを越えているだろう。人はそれを「過走行」と呼ぶのかもしれない。

だが森田さんにとってみれば、そして、乗られる側の車にしてみても、それは過走行でもなんでもなく「当たり前」であり、そして「しあわせなこと」でもあるのだろう。

Photo:篠原晃一
文/伊達軍曹、写真/篠原晃一

ダイハツ ミラココア

森田智樹さんのマイカーレビュー

アウディ S5(初代)

●購入金額/約350万円
●年間走行距離/約25000㎞
●マイカーの好きなところ/横からのスタイル
●マイカーの愛すべきダメなところ/結構な頻度でトラブルが起きるところ
●マイカーはどんな人にオススメしたい?/長距離を楽に移動したい方に

伊達軍曹(だてぐんそう)

インタビュアー

伊達軍曹

外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。現在は「手頃なプライスの輸入中古車ネタ」を得意としながらも、ジャンルや車種を問わず、様々な自動車メディアに記事を寄稿している。愛車はスバル XV。