▲筆者が横断歩道を渡ろうとしているのに、お構いなしに突っ込んでくるタクシー。残念ながら日常茶飯事の光景だ ▲筆者が横断歩道を渡ろうとしているのに、お構いなしに突っ込んでくるタクシー。残念ながら日常茶飯事の光景だ

道交法38条をきちんと守っているドライバーは全体の数%?

道路交通法第38条の内容をざっくり言うと、「横断歩道の近くでは、横断しようとする歩行者または自転車が明らかにいない場合以外は徐行。横断しようとしている場合は、横断歩道の手前で一時停止」ということになる。筆者は運転免許を取得して以来、この条項をひたすら愚直に守り続けているが、しかしよく考えてみると、歩行者としての立場で道を歩いている際に、信号機のない横断歩道で車に止まってもらった記憶がほとんどない。ということで、世のドライバーは信号機のない横断歩道手前でどういう行動をとっているのか? を調べてみたわけだが、結果は「調べなきゃよかった……」という残念なものになってしまった。

調査方法は、東京都目黒区の筆者自宅近くにいくつかある「信号機のない横断歩道」数ヵ所をひたすら観察し、とりあえず1ヵ所につき車100台分のデータを取ってみるというもの。まずは、目黒通りの1本裏を平行して走っている2車線道路の横断歩道を観察する。ここは下の写真内に「飛び出し注意」の看板があることからわかるように、2車線道路に対して細い路地が直角に交差している。この路地から横断歩道を渡ろうとして、筆者自身も何回かヒヤッとしたことがある場所だ。

▲見えにくいが自転車が1台、横断しようとしている。しかし通行する車は止まるそぶりすら見せず…… ▲見えにくいが自転車が1台、横断しようとしている。しかし通行する車は止まるそぶりすら見せず……

結果は、きちんと一時停止した車は100台中わずか2台。……たったの2%である。しかも2台のうち1台は警察のパトカーで、もう1台は横断歩道のすぐ近くにある大きな薬品会社の営業車。前者の一時停止はまぁ当たり前で、後者は、たぶんだが、会社の方から「営業所の近くではくれぐれも安全運転と歩行者保護に努めるように」というような指導が入っているのだろう。いずれにせよ、もしもパトカーとその営業車が通らなければ「不停止率」は100%だったかもしれない。

続いて駅前付近にある横断歩道を観察する。ここは駅から数百メートル続く一方通行の道というか商店街があり、夕方や休日は車両進入禁止となる。その商店街の途中に一ヵ所、商店街を左右に横切る車に対しての横断歩道があるのだ。

▲東急東横線・学芸大学駅の商店街途中にある信号機のない横断歩道。ここは果たして? ▲東急東横線・学芸大学駅の商店街途中にある信号機のない横断歩道。ここは果たして?

ここでの「停止率」はさすがに先ほどと比べると高く、100台中9台の車が横断意思者の存在を確認して一時停止した(それでもたった9%だが……)。ここの場合はマナー良く一時停止するというよりも、「強引なオバチャン買い物客が無理やり渡ろうとするので、仕方なく止まった(本当は止まらずに行きたいけど)」というニュアンスのドライバーが多かったようだ。

▲母子が横断歩道を渡ろうとしていますが、誰も止まってくれません ▲母子が横断歩道を渡ろうとしていますが、誰も止まってくれません
▲まだ止まりません。横断待ちの歩行者が増えてきました ▲まだ止まりません。横断待ちの歩行者が増えてきました
▲やっと渡れました…… ▲やっと渡れました……

かわいそうなのは写真下のレクサスRXの運転手さんだ。このドライバーはマナー良く(というか本当はそれが当然なのだが)横断歩道の前で一時停止し、歩きの買い物客を先に通した。が、するとRXのすぐ後ろにいた黒いM・ベンツSクラスのドライバーが「なに止まってんだ! 早く行けよ!」とばかりに、けたたましくクラクションを鳴らし続ける。RX氏はそれでも停止して頑張っていたのだが、黒ベンツのクラクション攻撃があまりにも執拗なため、「遺憾ながら、御免……」といったニュアンスで、まだ歩行者が横断中なのにゆっくりと前進を始めた。下の写真に写っている4人の歩行者全員が画面左の方を見ているのは、そういった理由である。

▲法規どおり停止したところ、後ろの黒いベンツSクラスに警笛を鳴らされまくって困惑するレクサスRX ▲法規どおり停止したところ、後ろの黒いベンツSクラスに警笛を鳴らされまくって困惑するレクサスRX

次に観察した目黒通りと駒沢通りを結ぶ道の途中にある信号機のない横断歩道は、停止率1%。100台中、まともに止まってくれた車は某企業の営業車1台のみだった。

▲傘をさした自転車の女性が横断歩道を渡ろうとしていますが、ほとんどのドライバーは見て見ぬふり ▲傘をさした自転車の女性が横断歩道を渡ろうとしていますが、ほとんどのドライバーは見て見ぬふり

いいかげんウンザリしつつも、次なる観察ポイントへ行く。東急東横線の学芸大学駅から目黒区の五本木交差点へと続く抜け道の途中にある横断歩道だ。

▲黒いTシャツの男性が渡ろうとしています。向こう側のタクシーは止まりましたが、手前の車が…… ▲黒いTシャツの男性が渡ろうとしています。向こう側のタクシーは止まりましたが、手前の車が……
▲と思ったら、向こう側のタクシーはただすれ違えなかっただけ! 結局Tシャツの男性はしばらく渡れず ▲と思ったら、向こう側のタクシーはただすれ違えなかっただけ! 結局Tシャツの男性はしばらく渡れず

ここも停止率は他と同様にかなり低く、100台中、道路交通法第38条をきちんと守ったドライバーは4台だけだった。本当はもう何ヵ所かで観察を重ねるつもりだった筆者だが、「……もういいや」と思い、カメラとメモ帳をしまって帰路についた。この程度の調査で学術的な論文はもちろん書けないが、冒頭で申し上げた「歩行者としての立場で道を歩いている際に、信号機のない横断歩道で車に一時停止してもらった記憶がほとんどない」という記憶の正しさが、個人的には100%証明されたと確信できたからだ。

横断歩道の手前で止まらないドライバーにも、「大変申し訳ないけど仕事で急いでるから……」とか「止まりたいのはやまやまだけど、下手に止まると後ろの車に追突されそうで……」「ボクが止まっても対向車線の車が止まらないと、歩行者がはねられちゃうし……」など、いろいろな言い分はあるのだろう。全員が全員、先ほどの「クラクション攻撃をカマした黒ベンツ」のような問題ドライバーではないことは知っているつもりだ。

しかしそれでも、「国境のない世界」ではないが、「みどりのおばさんが必要ない横断歩道」をイマジンしたいと思うのだ。1人のドライバーとして、人間として。

▲「みどりのおばさん」には申し訳ないですが、彼女らがみんな失職する車社会を目指したいものです ▲「みどりのおばさん」には申し訳ないですが、彼女らがみんな失職する車社会を目指したいものです
text/谷山 雪   photo/編集部