【開発者インタビュー】ガチプロもインスタ女子も唸らせるジムニーのシンプルデザインは、飽くなき機能追求から生まれた
2019/12/19
イヤーカーに輝いたジムニーのチーフエンジニアにインタビュー
カーセンサーnetに掲載されているモデルの数は数千種類。
その中から、車を探しているユーザーの動きをデータで分析し、かなりざっくり説明するなら「今、注目度と競争率が高いモデルは果たしてどれなのか?」ということを算出したリアル人気ランキングが「カーセンサー・カー・オブ・ザ・イヤー」です。
その2019年版で、見事「イヤーカー」に輝いた新型スズキ ジムニーのチーフエンジニアの米澤宏之さんに様々な開発秘話を聞いてきました!
スズキ株式会社 四輪商品第二部 チーフエンジニア
米澤宏之さん
1987年の入社以来、開発一筋で多くの車を世に送り出してきた。ジムニーの開発には先代(JB23型)から加わり、新型(JB64型)でもチーフエンジニアを務めた。
インタビュアー
伊達軍曹
外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。現在は「手頃なプライスの輸入中古車ネタ」を得意としながらも、ジャンルや車種を問わず、様々な自動車メディアに記事を寄稿している。愛車はスバル XV。
これまで星の数ほど聞かれたことかとは思いますが、改めて新型ジムニーの開発時における「基本コンセプト」を教えてください。
歴代のジムニーとまったく変わらないのですが、ジムニーという車はいつの時代もプロの道具であるということを念頭に、「プロが使うことを前提とした機能の向上」をまずは第一に――というか、ずっとそこばかりを突き詰めていましたね。
この場合のプロというと、山林で仕事をされている方とか、災害復旧などに携わっている方々……とかですよね?
そうですね。あとは豪雪地帯で新聞配達をされている方々などにも、歴代ジムニーは愛用されています。今回の開発前には日本国内だけでなく、海外でジムニーを業務に使ってらっしゃる人のところへもヒアリングに行き、様々なご要望や改善要求などを調査してきました。
そういった用途に使われることを主眼としたガチな車が、なんでこんなにおしゃれな造形になったのでしょう?
ジムニーがおしゃれかどうかはさておき、車という機械は、機能に特化すると必然的に「シンプル」になるんですよ。あと「直線的」にもなります。
たしかにそうかもしれません。外観デザインは、開発の初期段階からあのように直線的だったのですか?
基本的なフォルムはアイデアスケッチの段階からほとんど変わってませんね。もちろん微修正は行いましたが、基本は、スケッチ段階から完成品に至るまでほぼ不変です。
(スケッチを見ながら)本当だ……。
とにかく新型ジムニーの場合、「直線的」というのはデザイン上の効果を狙ったものではなく、あくまで「機能」のためにああいった造形になりました。ですが、そこが結果として現代のトレンドと合致し、「おしゃれなカタチ」だとご評価いただいた……ということなんだと思います。
しかし新型はプロ向けといいつつ、先代までと違ってオンロードでの乗り心地が格段に良くなりましたし、先進安全装備も充実させましたよね?
それはそうです。というのも、極限状況でも使えるジムニーですが、「極限状況」って常にあるわけではないですよね? 作業なり災害なりの現場に到着するまでは普通の道路を走りますし、トータルの走行時間でいえば圧倒的に「普通の道路>極限状況」ですよね?
たしかに。世界ラリー選手権でも「リエゾン(スペシャルステージとスペシャルステージの間の、通過タイムを気にしながらもごく普通に走る区間)」は長いですしね。
プロの方々からは「極限の現場に入る前の、一般的な道を走る際の走行性能もさらに向上させてほしい」という声が以前からありました。それに応えようとした結果、オンロードでの走行性能や安全性能も格段に向上したのです。
本当に「プロのための車」なんですね……。樹脂パーツのシボ(表面の細かな凹凸)も、よくある革シボ風ではなく、まるで昔のカメラケースみたいで、あれがすっごくおしゃれだなぁと思っていたのですが、あれも?
「機能」のためです。乗降グリップ類のシボはカメラなどに見られるレザートーンの塗装をモチーフに開発したもので、光の反射を抑えるとともにグリップ性を高めることを目的としており、おしゃれを狙ったものではないんです。
ははあ……そうでしたか。とはいえ新型ジムニーは、ハードな山道とかは絶対に走りそうもないユーザーにも大いにウケましたよね? そこについてはどうお考えですか?
率直に言って嬉しいですよ! と言いますのも、あくまでプロ用として開発した新型ジムニーですが、私どもの用語で言う「フォロワー層」の方々にもぜひ乗っていただきたいと考えていましたから。
「フォロワー層」とは?
実際は主に都市で生活しているとしても、「シンプルで高機能なプロの道具」に憧れてらっしゃる人たちのことです。
例えば私なんかは、都内住みなのにパタゴニアのマウンテンパーカーとウェーディングブーツを着用してたりしますが、そんな感じのことですかね?
まさにそれです(笑)。それはある意味「ファッション」なのでしょうが、とはいえ本当に高機能なモノでないと、そういったアパレルも選んではもらえないですよね?
おっしゃるとおりです。パチモノみたいなのは恥ずかしくて嫌ですね。
ジムニーの場合も「機能的で本当にいいモノさえ作ることができれば、そういった方々にも響くに違いない」と思いながら開発したわけですが、結果として、我々が想定していた以上に好意的に受け入れていただけました。
「好意的」なんてレベルじゃないのでは? 私が知る限りでは「爆発的」にウケたと思いますが?
そうかもしれませんね……。本当に多くの方が発売直後からSNSにバンバン写真を上げていただき、皆さんが「これ買った! 本当にカワイイ!」みたいなことを言っていただけたため、それが連鎖しましたね。
しかもこれまでジムニーを買っていただけた方とはまるで違う層に見える方々が、初めてジムニーという車の存在を知り、そして「イイ!」「カワイイ!」とシンプルに盛り上がっていただけた。……本当に嬉しかったですよ。
聞けば、SNSでの盛り上がりもスズキが「仕掛けた」ものではなく、一般ユーザーが自由に発信・拡散してくれたのだという。
「なんちゃらマーケティング」みたいな手法が全盛の現代社会であり、それを特に否定するつもりはない。
だが、ただただ愚直に「いいモノを作る!」と覚悟を決めた仕事人たちによって生まれたプロダクトが、ごく常識的なマーケティングとPRだけでここまでの大ヒット作になったという事実。
それを、ときに表層的な策に溺れてしまいがちな我々現代人は今一度、かみしめてみるべきなのかもしれない。
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