“フォルクスワーゲン

■これから価値が上がっていくだろうネオクラシックカーの魅力に迫るカーセンサーEDGEの企画【名車への道】
クラシックカー予備軍モデルたちの登場背景、歴史的価値、製法や素材の素晴らしさを自動車テクノロジーライター・松本英雄さんと探っていく!

松本英雄(まつもとひでお)

自動車テクノロジーライター

松本英雄

自動車テクノロジーライター。かつて自動車メーカー系のワークスチームで、競技車両の開発・製作に携わっていたことから技術分野に造詣が深く、現在も多くの新型車に試乗する。「クルマは50万円以下で買いなさい」など著書も多数。趣味は乗馬。

"内燃機関の国"の名エンジンを積む2代目スポーツハッチ

——今回の車なんですけど、すでに完全な名車なのにまだ取り上げていないモデルにしました。

松本 名車なのに知られていないモデルも多いからね。もう一度、諦めてた車の中から候補を洗い直してみようか。

——オリジナル度、程度の良い名車を探すのはなかなか難しいです……。

松本 そうだね。難しいのは「中古車としてまだ流通している」っていう部分だよね。知識が浅いと名車も見逃しちゃうことがあるよね。

——分かりやすい名車はなんとかなりますが、知る人ぞ知る系の名車は……見逃してますね。でも、今回は絶対大丈夫です。フォルクスワーゲンの名車です。

松本 前々から言ってるゴルフ R32の3ドアのMT車?

——それはまだ見つかってません! 古い方です。

松本 じゃあゴルフⅡのGTIは? 確かゴルフⅡのベースモデルはやったよね?

——そうです。GTIはやってなかったので今回はそれにしました。

松本 R32も素晴らしいモデルだけど、それもこれもGTIというフォルクスワーゲンのスポーツハッチバックのもとがあってのことだからね。良いと思うよ。

 

フォルクスワーゲン ゴルフGTI
フォルクスワーゲン ゴルフGTI

——そもそもなんですが、ゴルフⅠにもGTIってあると思うのですが、ゴルフⅡのGTIで良かったですか? やっぱり初代こそが名車の始まりという感じがするんですが……。

松本 確かに名車と名乗るのはファーストモデルが多いと思うんだけど、最初に言ったとおり、現在でも流通しているかどうかが大事だよね。でもね、キミの言うとおりゴルフⅠのGTIは確かに貴重だよ。日本には正規で入っていないしね。

——そうか。ⅠとⅡではそこが違うんですね。

松本 そうだよ。初代のGTIが有名になったのは、当時最先端だったインジェクションを小型車に採用したことでGTに"I"を、インジェクションからの意を込めてつけた点なんだ。さらにメカチューニングを行って当時75ps のノーマルユニットから110psまで高めたんだ。すごい進化だよね?

——その年代にメカチューンでその内容は凄まじいですね。

松本 アウトバーンを180km/hで疾走できたという逸話は有名だよね。もちろん、日本ではなかなか目にすることはできないね。

 

フォルクスワーゲン ゴルフGTI

——今日の車両はこちらですね。早速ですが基本から教えてください。

松本 ゴルフⅡ GTIは発売された当時はSOHCエンジンで、1985年の4バルブ版から登場したんだけど、日本では1987年から販売開始されたんだ。初めは2ドアのみの設定だったんだけど、1988年から4ドアHB(日本での呼び名は5ドア)も選べるようになったんだ。

——やっぱりそのエンジンが凄かったわけですか?

松本 そうだね。4バルブのシリンダーヘッドを搭載していて、しっかりと馬力アップが果たされていたんだ。この当時のゴルフはカウンターフローと言ってUターンするような燃焼室が特徴だったんだよ。これはエンジンルームをコンパクト化できるし、直動式でバルブを開閉することなどで燃焼効率を上げたエンジンだったんだ。確かフォルクスワーゲンでは初めてのDOHCだったと思うよ。鋳鉄製のブロックはEA827型という名機中の名機で、1972年にアウディに搭載されていたユニットなんだ。

——そんなに古いってことは元は排気量が小さかったんですか?

松本 初めは1.3Lユニットだね。そこからボアストロークを変更して2Lまで拡張したんだ。まだVW の16V が世に出る数年前に、エッティンガーというチューナーが、16Vヘッドを取り付けて、しかもターボまで付けてレースに出場していてね。それもインターナショナルなレースね。結構いい成績までいったんだよ。このエッティンガーチューンのエンジンをイベントで見たことがあるんだけど、バルブの挟み角が狭くて後に登場するゴルフの16Vにすごく似ていたんだよ。挟み角のバルブレイアウトはその後主流になっていったんだけど、コンパクトな燃焼室でピックアップがよく、低中速トルクを重視したエンジンなんだ。とても扱いやすいDOHCらしい走りと言っていいんじゃないかなぁ。ちなみにインテーク側が寝ているレイアウトでね。エグゾースト側は立ったレイアウトのバルブなんだよ。シンメトリーじゃないところに内燃機関の哲学を感じるよね。

——日本ではハイメカツインカムと言われたトヨタのDOHCもバルブの挟み角が狭くてコンパクトさを売りにしていましたよね?

松本 そうなんだよ。よく知っているね。コンパクト、高性能、低燃費を狙ったユニットなんだよね。ゴルフGTIの16バルブはドライバビリティと最高出力を考えて作られた名エンジンなんだ。30年近く第一線でこのE827は使われたんだよ。BMWもそうだけど、内燃機関の国であるドイツが作るエンジンはやっぱり違うんだよね。

——やっぱり有名なエンジニアが関わってるんですか?

松本 E827の基礎を作ったのはルートヴィヒ・クラウスというエンジニアなんだけど伝説的な人物だね。メルセデスW196などの純レーシングエンジンを設計した人なんだよ。そのクラウスが晩年作ったエンジンがこのE827。このエンジンを作ることができたから、フォルクスワーゲンは空冷から水冷にシフトできたといってもいいだろうね。ブランドを支えた一人だと思うよ。

ちなみにゴルフⅡってⅠに比べるとデザイン的に評価が分かれるんだけど、デザインしたのはハーバート・シェーファーっていうデザイナー。板金工からの叩き上げで、その腕はマイスターの称号が与えられていた人なんだよ。立体的な部分を理解したデザイナーで、板金技術に秀でているから生産性にも明るかった。フォルクスワーゲンはゴルフⅡを境に近代化に入っていくことになる。この人もルートヴィヒ・クラウス同様ダイムラーとアウトユニオンで腕を鳴らしてフォルクスワーゲンに貢献した人だね。ゴルフⅡのGTI 16Vは近代化を目指して成功したモデル。まさに名車の裏に天才あり、だね。

 

フォルクスワーゲン ゴルフGTI

大人気を博した初代ゴルフGTIの正常進化版として1984年に登場した"コンパクトスポーツ"の2世代目。当初は触媒コンバーターの導入により最高出力は107psであったが、1986年に新たな16バルブエンジンを搭載することで129psに。俊敏な走りを復活させている。

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フォルクスワーゲン ゴルフGTI
フォルクスワーゲン ゴルフGTI

※カーセンサーEDGE 2022年5月号(2022年3月26日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています

文/松本英雄、写真/岡村昌宏