【功労車のボヤき】「HOT」が「COOL」だった…… そんな時代もあったのに! プジョー 205GTI
2021/02/13
――君には“車の声”が聞こえるか? 中古車販売店で次のオーナーをじっと待ち続けている車の声が。
誕生秘話、武勇伝、自慢、愚痴、妬み……。
耳をすませば聞こえてくる中古車たちのボヤきをお届けするカーセンサーEDGE.netのオリジナル企画。
今回は、ホットハッチ時代のレギュラー選手プジョー 205GTIです。
それじゃ、まるでクール便みたいじゃねぇか!
なにが、クールだよ! ホットだろ! ホット!
いったい、いつからカッコいいのが「COOL!」になったんだ?
昔は、カッコよければ「HOT」と言ったもんだ。だから、当時の若者たちはイカしたオレを「ホットハッチ」と呼んだのさ。
それじゃ、なにかい? 今どきは「クールハッチ」とでも呼ぶのかい? それじゃ、まるでクール便みたいじゃねぇか!
アメリカで「イケてるぜ」「カッコいいぜ」といった意味の俗語として使われていた「COOL」って言葉を、日本も含めた世界中の若者たちが使うようになったのは、どうやら1990年代後半になってからのことらしい。
熱く盛り上がるのがカッコよかった時代から、少し冷めた態度で振る舞う方がカッコいい時代になったってことなのかね?
どおりで……
80年代から90年代にかけて一世を風靡したオレのホットな仲間たちを、今、街で見かけることは、ほとんどない……
あぁ、「HOT」が「COOL」だった、あの時代が懐かしいぜ。
安価で熱い「ホットハッチ」が大人気
ホットハッチとは、大衆車である小型ハッチバックのスポーティモデルのことよ。なんでも、その呼び名は1977年に登場したフォルクスワーゲンのゴルフGTIから始まったらしいな。
初代ゴルフGTIの後を追って、欧州の自動車メーカーもこぞってホットハッチを市場に投入した。もちろん、その盛り上がりはこの日本にも押し寄せたさ。
トヨタ スターレットやらホンダ シビックやら、若者たちは思い思いにチューンナップした国産ホットハッチで峠を駆け回ったもんだ。車が安価で、走りは熱いんだから、そりゃ人気も出るわな。
そんな時代にオレが登場するわけだが、まずはベースとなったプジョー 205を紹介しておこう。
1983年に発売された205(1998年生産終了)は、「猫足」とも呼ばれたしなやかな足回りと、イタリアのカロッツェリア、ピニンファリーナの手も入った洗練されたデザインで、世界中で大ヒットしたんだ。
205の大成功によって、今に続くプジョーの軽やかでスポーティなブランドイメージがつくられたといえるかもしれないな。そして205のヒットがあったからこそ、日本でもプジョーの名が広く知られるようになったというわけさ。
当時の205のライバルはフォルクスワーゲンのゴルフ2だった。
そのゴルフ2のGTIが「史上最速のフォルクスワーゲン」という謳い文句で人気を集めたもんだから、負けじとプジョーも205GTI、つまり、より走りを楽しめるホットなオレを登場させたってわけだ。
おっと、オレのかわいい妹分のカブリオレ、205CTIの存在も忘れないでくれよ。
こっちはフランス車らしい小粋さで雑誌やテレビなどにも数多く登場させてもらって、ファッショナブルなお嬢さんたちにも人気を博したものさ。
走り好きにはホットハッチのGTI、ちょっと軟派な車好きはお洒落なCTIと、80年代後半から始まるバブル景気の波にも乗って、205は日本の若者たちのハートをがっちりつかんでいった。
オレ、205GTIが日本にやって来たのは1986年のこと。当初は1.6Lの左ハンドル5MTのみの設定だったが、88年には1.9Lとなり右ハンドルが登場。さらに、翌年にはAT車も追加するなど、選択肢を増やしていったのよ。
1.6Lエンジン搭載の前期型GTI(通称、テンロクGTI)の軽量・軽快な走りは超魅力的だったけど、四輪ディスクブレーキや15インチホイールを装備した1.9Lの5MT車も走り屋連中の人気を集めたな。
ちなみに、プジョーが世界ラリー選手権(WRC)に参戦するために開発した、ミッドシップの「205ターボ16」なんてモンスターマシンも存在したんだぜ。
こうしたラリーシーンでの活躍もまた、車好きな若者たちのハートを熱くさせたのさ。
若者よ、クールを気取ってる場合じゃないぜ
オレたちホットハッチが輝いていた時代から、もう30年か……。
今じゃカーセンサーnetで検索しても、ヒットするのは素の205が2台に、カブリオレのCTIが1台だけ。GTIにいたっては1台も見当たらないじゃないか!(2021年2月原稿執筆現在)
プジョーを代表する、世界的なベストセラーカーにしてロングセラーカーだったのに、いったいどこに姿を消してしまったのか?
オレが思うに、もしかしたら、たくさん売れすぎちゃったのかもしれない。
つまり、プジョー205がもう少しレアな存在で、一部の車好きな連中だけに愛されるような存在だったら、もっと永く生き残れたんじゃないかな。
わっと盛り上がった熱は、冷めてしまうのも早かった。そして、冷めた熱が再び沸騰することはなかった。なんたって、その間に「HOT」は「COOL」じゃなくなってしまったんだから。
もはや、「ホットハッチ」なんて言葉は死語なのか。
ならば……
あの頃、小さくて軽量なボディで元気に走り回るオレたちのもうひとつの呼び名だった「ボーイズレーサー」って言葉を復活させたらどうよ?
ミニバンやラグジュアリーカーでCOOLを気取っている場合じゃない!
明るい話題の少ない今だからこそ、ボーイズレーサーで熱く元気に走り出そうじゃないか、若者よ!
いや、今の時代は「ボーイズ&ガールズレーサー」か……。
なんてこった……。「ボーイズレーサー」もまた死語になってたんかい(泣)。
ライター
夢野忠則
自他ともに認める車馬鹿であり、「座右の銘は、夢のタダ乗り」と語る謎のエッセイスト兼自動車ロマン文筆家。 現在の愛車は2008年式トヨタ プロボックスのGT仕様と、数台の国産ヴィンテージバイク(自転車)。
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