スズキ ジムニー▲「遊び道具であるジムニーは走らせてナンボ」というモットーから、保管されている多くのモデルが、実際に走行可能だという

歴代のジムニーがずらりと並ぶ館内

2019年のカーセンサー・カー・オブ・ザ・イヤーを受賞したスズキ ジムニー。

趣味性が高く、それでいて軽自動車という特異な車に、なぜ人はここまで魅せられるのだろうか。

その魅力を探るべくジムニーについて調べていると、神奈川県藤沢市に「ジムニー歴史館」なるものがあることを知った。

特定のメーカーの車を集めた博物館ならいざ知らず、1モデルのみを対象にした博物館というのは聞いたことがない。

早速、話を聞きに行った。

尾上さん

ジムニー歴史館館長

尾上 茂さん

ファンの間で広く知られている、ジムニー専用のパーツショップ「アピオ」の創業者。現在は社長を退き、私費で建てたジムニー歴史館の館長を務める。

今泉翔太

インタビュアー

カーセンサー編集部 今泉翔太

東京生まれだが、実は細い道で結構ドキドキしてしまう34歳。3人の子供たちにワイルドなパパであることをアピールするため3列シートのSUV購入を画策しているが、そのサイズ感にビビり二の足を踏んでいる。

今泉
今泉

今日はよろしくお願いいたします。ものすごくきれいな建物ですね。なんだかジムニーがもつアウトドアの雰囲気とはかけ離れているというか……。

尾上さん
尾上さん

どうせ造るなら、来た人が喜んでもらえる場所にしたい。そう思ってあれもこれもってやっていったら、こんなになっちゃいました(笑)。めちゃめちゃお金がかかりましたよ。でも自分の好きなように造って、好きなものを見てもらいたかったから全部自費です。

今泉
今泉

自費!? てっきりメーカーさんとかからお金が出ているものと思っていました。では中にある車も、館長の私物ですか?

尾上さん
尾上さん

僕のもあるし、大切に乗られていたオーナーさんから寄贈いただいたものもあります。アピオというジムニー専用のパーツショップを経営していたのですが、そのころから集めていたものもあります。

スズキ ジムニー▲中には写真のようにボディが腐食した状態で引き取る車もあるという。そこから館長が中心となり時間をかけて蘇らせていく

今泉
今泉

この博物館ができるまで、その車たちはどうしていたんですか?

尾上さん
尾上さん

広い倉庫に入れていました。そのうちにどんどん台数が増えていって、だったらファンの人たちに見ていただこうと思って。

今泉
今泉

それにしてもジムニー1車種だけで、さらに自費というのがすごすぎます……。ジムニー以外の車は置かないんですか?

尾上さん
尾上さん

ライバル車として紹介するために三菱 パジェロミニや、ジムニーの祖先になったホープ自動車 ホープスターという車を展示していますが、それ以外はすべてジムニーです。

ホープスター▲かつて軽自動車を製造していたホープ自動車のホープスターというモデル。量産には至らず、その後製造権利がスズキに譲渡され、ジムニーの誕生につながる

最初の印象は「正直微妙な車」

今泉
今泉

もともとジムニーの販売などをされていたのでしょうか?

尾上さん
尾上さん

いえ、ジムニーとの出会いは仕事ではなく、人に勧められて購入をしたのが始まりです。オフロードを走るのが好きで、軽いし楽しそうな車だからということで、仲間うちの何人かで買おうという話になったんです。もう50年以上前の話です。

今泉
今泉

それで、すぐに虜になった?

尾上さん
尾上さん

いや、その逆でした。購入したのはSJ30型というモデルだったんですが、パワーがないし遅い。すぐに売ろうと思ったのですが、その下取り額が冗談のように低くて、だったら自分でいじって速くしてやろうと思ったんです。

今泉
今泉

そこで売らなかったからこそ、尾上さんとジムニーの関係は続いているんですね。

尾上さん
尾上さん

自分でパーツを作ってレースなどに出て、ジムニーより排気量の大きい車に勝ったりして。それでそのパーツが評判になり、量産して販売するようになったんです。自分で走っては作りというのを繰り返しているうちに、支持をいただけるようになりました。

今泉
今泉

お仕事にまでしてしまったジムニーという車。その魅力はどんなところにあるのでしょうか?

尾上さん
尾上さん

年齢も性別も関係なく人を惹きつける車だと思います。見た目の愛くるしさもあるけれど、乗っている人の気持ちを和らげてくれる、小さいし周りを威圧するような雰囲気も全くないでしょ?

今泉
今泉

確かに。どの世代のモデルでも、共通してそんな雰囲気があります。

尾上さん
尾上さん

僕のようにオフロードやレースを楽しむように改造しても楽しいんだけど、現行型はオンロードも快適。だからジムニーに初めて乗るという人でも、普段乗りの車として楽しめる。ジムニーなら今まで味わったことがないカーライフが待っていると思いますよ!

スズキ ジムニー▲尾上さんがレースで使用していたモデルも飾られている
写真:三浦孝明▲来館者が残した寄せ書きにはジムニー愛が込められていた

ジムニーはコアなファンばかりで、ちょっととっつきにくいイメージもあった。

だがここに行けば、この丸目の愛らしい車に親近感を抱くだろう。

車ばかりが並ぶ実直なミュージアムではあったが、外に出たときには何だか温かい気持ちになっていた。 ジムニー乗りでなくても、車への愛をもつ人であれば必見だ。

文/今泉翔太(編集部) 写真/三浦孝明

【施設情報】
●ジムニー歴史館
【住所】神奈川県藤沢市用田2140
【開館時間】10:00~17:00
【休館日】月~水曜日、年末年始
【問い合わせ】電話番号0466-90-3011