※徳大寺有恒氏は2014年11月7日に他界されました。日本の自動車業界へ多大な貢献をされた氏の功績を記録し、その知見を後世に伝えるべく、この記事は、約5年にわたり氏に監修いただいた連載「VINTAGE EDGE」をWEB用に再構成し掲載したものです。

▲「レースにそのまま出られる市販車」というコンセプトでフェラーリ創始者のエンツォ・フェラーリが生涯最後に手がけたスペチアーレモデル。当時現役F1ドライバーだったゲルハルト・ベルガーが「雨の日には絶対に乗りたくない」と話したというのは有名な逸話。それほどまでに過激なパワーが与えられ、最高速度は324km/h。新車価格は日本のディーラーで4650万円。生産台数は1311台、日本へは59台正規輸入されたといわれている 「レースにそのまま出られる市販車」というコンセプトでフェラーリ創始者のエンツォ・フェラーリが生涯最後に手がけたスペチアーレモデル。当時現役F1ドライバーだったゲルハルト・ベルガーが「雨の日には絶対に乗りたくない」と話したというのは有名な逸話。それほどまでに過激なパワーが与えられ、最高速度は324km/h。新車価格は日本のディーラーで4650万円。生産台数は1311台、日本へは59台正規輸入されたといわれている

エンツォの息がかかった最後のモデル

松本 今回のエッジの特集はV8フェラーリだそうですよ。
徳大寺 それで“F40”か。あれはフェラーリでは最高のチューニングをしたV型8気筒だから、外すわけにはいかないだろう。
松本 そうですね。ところで今乗っているのは“マセラティ・グランカブリオ”ですが、現在のフェラーリの8気筒エンジンと同様のブロックを使用しています。エキゾチックカーとしてはマセラティの方が先にV8を使ってましたよね。
徳大寺 60年代からレーシングエンジン直系のユニットを量産に使っていたからな。このV8はフェラーリで設計しているんだからマセラティといっても心臓はフェラーリなんだよ。音のチューニングもさすがだ。
松本 フェラーリよりもラグジュアリーな立ち位置のブランドを目指してますからエンジンフィールは低音で大人の感じですね。
徳大寺 だいぶ違うな。そもそもフェラーリは本物志向のブランドだ。だから小手先だけの車作りはしない。専用のチューニングや仕様変更さえすればレースにもたえられる車を作ってきたんだ。
松本 今日見に行くF40はまさにそういうモデルですね。
徳大寺 そうだな。もっともF40はスポーツカーと言うよりもレーシングカーと言って良いモデルだろう。87年にマラネロでエンツォ自ら出席してF40のお披露目をおこなったんだ。エンツォの息がかかった最後のモデルなんだよ。
松本 エンツォはフェラーリの伝統に倣ってそのままレースに出られるモデルを作ったんですよね。
徳大寺 当時90年代からはスポーツカーでもハイテクの時代が到来すると言われていた。でもフェラーリは素材などには新しいモノを取り入れたが、構造はアナログな車作りをしていたんだ。この辺りもポルシェとは一線を画している。
松本 乗り手を選ぶスポーツカーを作ったということですね。
徳大寺 そう。誰でも扱うことができる車はエンツォの考えではもはやスポーツカーじゃなかったんだろう。F40も当時は選ばれた人だけが買うことができたんだ。
松本 僕も聞いたことがあります。日本で購入する人がシートを合わせにわざわざマラネロまで行ったって。巨匠は乗ったことはあるのですか?
徳大寺 少し乗ったよ。480馬力近い出力に車重が1100kgしかないんだ。気を抜いたらすっ飛ばされちゃうような車だな。よほどの腕がないと乗りこなせないよ。クラッチが重かったのも印象的だった。もちろんブレーキサーボやABSなんか付いてやしない。
松本 F40はストラダーレでは478馬力ですが、オプションの大型タービンとハイカムを組み合わせたレース仕様は680馬力を容易に発生することができたらしいです。V型8気筒3Lツインターボで過給係数1.7を換算すると5Lクラスにエントリーすることができる訳です。
徳大寺 デザインも美しいな。基本はフェラーリ308系を踏襲してるけどまったくの別物だ。カーボンを使ったり、ロールケージで剛性と安全性を高めたりして、当時は本国価格4000万円を切ってアナウンスされたんだから、お買い得だった。もっとも選ばれればの話だが。
松本 プレキシガラス越しに見えるスリットの入ったBEHR製のインタークーラーとマニホールドはまさに見せるためのエンジンルームですね。デザインは365BBのデザインでもお馴染みのフィオラヴァンティですから美しいはずです。
徳大寺 そうか。フィオラヴァンティさんには3週間ばかり前にお会いしたけど、相変わらず格好がいいな。デザインの仕事をする人はぜひ見習ってほしいよ。
松本 僕は初めてお会いしましたが穏やかな方でびっくりしました。
徳大寺 ところで、F40はコンペティティブなモデルだけに程度が良いのが少ないらしいね。
松本 カーボンやファイバーを使ったモデルは程度が良いのは少ないと言われていますからね。でも今回の車は素晴らしい状態ですね。
徳大寺 確かに程度が良いな。外にも1台止まっていたが……。
松本 外に出ているのは修理を待っている車だそうです。2台同時に見るなんてなかなかないですよね。今日のお目当てはこのショールームのF40です。コンディションは相当良い車両ですね。
徳大寺 これだけのコンディションを保つのは人が快適な温度で同じように扱わないと保てないだろう。お店が大事に扱っていることが分かるね。エンジンも調子が良さそうだ。
松本 乗り手もそうですが、保管する場所でも人を選ぶ車と言えますね。屋根があるだけでなく、いろいろ気を使って保管しなくてはならないでしょうから。
徳大寺 F40はフェラーリ史において重要な車だから、このように大切に扱わなければいけないんだ。今回のお店はそのお手本になる保管の仕方だな。本当の意味でフェラーリ最後の血統。手に入れられる人は幸せものだよ。

フェラーリ F40 リア
フェラーリ F40 シート
フェラーリ F40 運転席周り
フェラーリ F40 エンジン

【SPECIFICATIONS】
■全長×全幅×全高:4430×1980×1130(mm)
■車両重量:1100kg
■ホイールベース:2450mm
■エンジン:V型8気筒DOHC TURBO
■総排気量:2936cc
■最高出力:478ps/7000rpm
■最高トルク:58.8kg-m/4000rpm

tefxt/松本英雄
photo/岡村昌宏


※カーセンサーEDGE 2010年10月号(2010年9月10日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています