プジョー309GTI
写真は、日本では1989年から1993年まで販売されたプジョー309GTI。人気モデルとなったプジョー205GTIのノッチバック版である。フロントマスクは205GTIとほとんど同じだが、Cピラーから後ろのこのビミョーすぎる形状、なんと評していいものやら…。が、この「ちょっとヘンな感じ」こそが、慣れるとクセになる往年のフランス車の魅力。中古車でしか味わえない貴重な珍味だ。
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最近のフランス車は男前すぎる?

何をもって「本格」とするかは議論の分かれるところだろうが、不肖わたしに言わせれば、最近のフランス車は若干「本格感」に欠けるような気がする。

いやもちろん車の出来でいえば、ここ最近の新鋭フランス車各モデルはどれもすばらしい。同クラスのアウディに勝るとも劣らない硬質な男前感ただよう中に、いかにもフランス車らしいソフトな感触も絶妙に残すプジョーRCZ。それとほぼ同じ形容ができるDS3やC5などの現行シトロエン勢。いわずと知れたルノーメガーヌRSの超絶運動性能…。それらすべては本当にステキな味わいに満ちている。

しかし、なんつーかこう「男前すぎる」感覚というか、「これならドイツ車でよくね?」感というかが、微妙に引っかかるのである。

日仏のセンスの違いこそを丸ごと楽しみたい

フランス車による、フランス車のための、フランス車にしか出せない個性とは何か? それは思うに「謎すぎるデザイン」である。

近年のRCZなどはおそらく、フランス人が見てもアメリカ人が見てもジンバブエ人が見ても、そして我ら日本に住まう者が見ても、8割方の者は「あぁ、カッコイイじゃないですか」と評価するだろうデザインだ。

が、往年のフランス車はかなり趣が異なった。往年とまではいかずとも、例えば2代目ルノー ルーテシア後期型のフロントマスク。あれはいったい何だったのでしょう? ほとんど昆虫のような形のヘッドライトで、デザイナー氏は我々に何を訴えたかったのか? それは非フランス人にとってあまりに謎で、サッカー日本代表の元監督フィリップ・トルシエ氏の冗談のように難解だった。推測だが、2代目ルーテシア後期のデザインとトルシエ氏の冗談は、全日本人のおよそ1割しかその真意を理解できなかったのではないか。「古い文化と美味いメシを愛する」という部分ではよく似ている日仏両国民だが、こと車のデザインとジョークについては、どうやらまるで異なる感受性を備えているようだ。

が、その「まるで異なる」という部分こそが実は、ここ日本でわざわざ異国の車に乗る醍醐味でもある。「日本的なヨーロッパ車」に乗ってもあまり意味がないのは明白だが、近年顕著な「汎ヨーロッパ的、っつーかもはや汎地球的な価値基準で作られたヨーロッパ車」もまた、積極的に選ぶ価値大であるかどうかは微妙であるだろう。

そう考えたとき、往年の理解不能系デザインまとったフランス車は本当にステキな選択に成り得る。前述のルーテシアの謎すぎるフロントマスク然り、往年のハイドロシトロエンの「なんでこうなるの!?」と欽ちゃんのように叫びたくなるデザイン然り。それら謎系フランス車に乗る毎日とは、謎解きを通じた「発見」の連続であり、「多様性」の価値みたいなものを考える瞬間の連続でもある。で、その乗り味も近年の男前系フランス車とはずいぶん異なる、ソフトなのに妙な芯がある摩訶不思議系。そこもまた本当にすばらしい。

ということで、今回の伊達セレクションは・・・
「日本人には謎なデザインの、2000年までのフランス各車」物件一覧を見る

文・伊達軍曹 text/Sergeant DATE