▲1962年から製造されたジュリア・スプリントGTが大ヒットとなったアルファロメオが、より若者向けの車を必要とし生産したのが1300ジュニアである ▲1962年から製造されたジュリア・スプリントGTが大ヒットとなったアルファロメオが、より若者向けの車を必要とし生産したのが1300ジュニアである

今の時代に足りないものを感じさせてくれるね

2基のツインチョーク・ウェバー付きの1290㏄エンジンを積み、当時としてはまだ珍しい5速MTを採用。最高速度は170㎞/hとアナウンスされていた。当時のアルファロメオがどのような車作りをしていたのかが分かる車であり、その特徴的なデザイン、軽快な乗り味から傑作車として評価する人も多い。生産は66年から77年までで、今回の車両は69年式となる。

松本 今回ですが特集の内容とは少し離れて巨匠もお好きなアルファロメオにしてみました。ちょうど良い個体を見つけましたからなのですが、日本もこのような車の層が厚くなってきたのでしょうか?
徳大寺 この手の車は利益も決して多くはないし、本当に志を立てて商売しているんだろうね。良い個体を扱うお店が少ない訳だよ。今回はアルファロメオのなにを見るんだい?
松本 1300GTJr.です。
徳大寺 ほー、段付きな。あれはベルトーネ時代のジウジアーロの作品だな。ちょうど鬼才フランコ・スカリオーネがベルトーネから抜けたあとの車だね。
松本 スカリオーネといったら巨匠の好きなジュリエッタ・スプリントですよね。あそこまで上品でいてカッコイイ小型のベルリネッタはあれが最初で最後じゃないですか?
徳大寺 ホント、かっこイイよな。スカリオーネがデザインしたベルリネッタがヒットしたおかげで黄金時代のアルファロメオとベルトーネが組むことになったんだが、その勢いを不動のものにしたのがジウジアーロなんだよ。スプリントGTは兄貴分の6気筒モデルであるスプリントを小型にしたモデルなんだが、実にまとまった小気味良いデザインだった。ジウジアーロは歴史に残るカーデザイナーでありインダストリアルデザイナーでもあるから、段付きはその代表車として貴重なモデルだな。
松本 僕も初めて購入したアルファロメオはスプリントGTでしたね。なんだかあの形にやられちゃうんですよね。
徳大寺 分かるな。僕の場合は1750GTVだったんだけど少し大人の雰囲気なんだよ。
松本 エンジンはオイルパンも含めたオールアルミですからね。量産車とは思えない構造をしているのがこの時代のアルファロメオの特徴でもありますよ。
徳大寺 アルファロメオはグランプリカーを作っていたメーカーだからね。60年代までは本当にレーシングカーの技術を量産車にフィードバックして、手を抜いてないんだよ。
松本 到着しましたよ。いい車がたくさんありますね。
徳大寺 あった! あれだ。僕が初めに買った初代ゴルフの色に似てるな。マリブイエロー。こういった色がよく似合う車だよ。
松本 めちゃくちゃキレイですね。レストア済みといっても厚塗りでせっかくのデザインが台無しになっている個体もありますから。
徳大寺 内装もキレイだ。お店の心意気が伝わってくる車だよ。これはメーターナセルが2つ少し出っ張ったタイプだから後期型じゃないかなぁ。
松本 そうです。これは1968年後半から製造された後期型ですね。内装がシンプルになり、メーターも大きくスポーティな雰囲気が増してます。エンジンルームも開けてみましょう。
徳大寺 さすがアルファロメオだな。エンジンは今見てもカッコイイ。凄いのは1300だろうが1750だろうが見た目はほとんど変わらないところだ。マフラーからの音も1300㏄とは思えない野太い音を出す。
松本 イギリス車はラック&ピニオンを使用していましたが、アルファロメオはボールナットのステアリングギアボックスで、グランドツーリングを見越した設計で高級ですよ。
徳大寺 この1300㏄とは思えないエンジン音は凄いね。昔を思い出すよ。このシートもいい。座るとお尻が沈んでフィット感が増すんだ。
松本 バケットシートみたいな座り心地になってる訳ですね。
徳大寺 そうだね。このくらいの大きさだからほんと軽やかに走るよ、1300は。こういうのがスポーツカーなんだよ。やたら大きくするのは好きじゃないな。小型であっても大型の高級車に負けない雰囲気をもってるだろ? これが天才が作ったデザインなんだ。
松本 巨匠がアルファロメオを愛する所以ですね。魅力的な車が多い訳だ。
徳大寺 いろいろな人にこの時代のアルファロメオに乗ってほしいよ。きっと現在の時代に足りないものが感じられると思うよ。1300GTJr.はそういった意味でも希少なモデルなんだ。今号も良い車を見させてもらったよ。

▲308 シフト
▲308 リア
▲308 インパネ
▲308 エンジン
text/松本英雄
photo/岡村昌宏