「きっと、あなたのココロが走り出す。」“Your Heart Will Race.”そんなテーマをもつ東京モーターショー2015の見どころとして各メーカーのコンセプトカーたちは外せない。コンセプトカーは今すぐには手に入らないけれど、今買える車たちだって、その時代時代の人々が考えた素敵な未来を具現化するために生まれてきたのだ。今回は最新のコンセプトカーがもつテーマに通ずる「今、手に入る車たち」をセレクトした。

▲歩行者とともに自在な往来を可能にする「Honda WANDER WALKER CONCEPT(ホンダ ワンダー ウォーカー コンセプト)」 ▲歩行者とともに自在な往来を可能にする「Honda WANDER WALKER CONCEPT(ホンダ ワンダー ウォーカー コンセプト)」

乗ったまま駅の自動改札も通れるニクいやつ

1人乗りの次世代パーソナルモビリティ「WANDER WALKER CONCEPT(ワンダー ウォーカー コンセプト)」は、ホンダが「ワンダー=自由に動き回る」をテーマに開発するモビリティのひとつで、歩行者と同様に屋外と屋内を行き来できるよう、540mmの全幅と1mの回転半径というコンパクトさを実現。駅の自動改札もこれに乗ったままスムーズに通過できるという。走行速度は6km/h。

シルバー世代向けの電動カートであるホンダ「モンパル」やスズキの「セニアカー」とよく似ているが、ワンダー ウォーカー コンセプトは高齢者だけでなく、幅広いユーザー層を想定しているとのこと。ショッピングセンター内での利用を考慮して5箱入りティッシュペーパーを収容可能なスペースが用意される他、Wi-Fiを活用した通信システム「V2X」に対応し、利用者の走行状態をスマートフォンで確認できるシステムも搭載。その他、専用のナビやインターフェースも装備している。

シルバー層向けの乗り物としては「福祉車両」も気になる

さて、以上のとおり「決してシニア専用のカートではない」とされているワンダー ウォーカー コンセプトだが、筆者が思うに「でも結局はシニアの方々が愛用することになるのだろう」というのが正直なところだ。これに乗ったまま自動改札を通れるとか、広大なショッピングセンターでティッシュを5箱収容しながら移動できるといっても、確かに例えば「今ちょうど足を骨折してるんですよ」という若年層やママさん層にとっては朗報だろうが、それはあまりにも限定的だ。

それよりもやはり、加齢によって残念ながら「こちとら年がら年中足と腰が痛いよ!」と嘆かざるを得ないシルバー層にとって、現状すでにあるモンパルやセニアカーよりも(おそらく)使い勝手の良い電動カートとして、市販された際のワンダー ウォーカーは活躍するのだろう。足の悪い母を持ち、そして自身も四十路を迎えてなんとなく足と腰が痛くなってきた者として、こういった製品のありがたみはよくわかる。

しかし、ワンダー ウォーカー コンセプトが市販されるのはおそらくもう少し先のことであろうため、今この瞬間にこういった製品を入手したい場合は、やはり前述のモンパル(ホンダ製の電動カート)やセニアカー(スズキのそれ)を買うのが定石ではある。

だが、その他にも何らかの手段はないだろうか? つまり年老いたわたしの母やあなたの御尊父、御母堂らに「移動の歓び」を味わってもらうための術はないものか。

難しい問題だが、ひとつ考えられるのは「車いす仕様の福祉車両」である。

▲写真はホンダN BOX+の車いす仕様車 ▲写真はホンダ N BOX+の車いす仕様車
▲やや高額にはなってしまうが、車いす仕様の他にこのようなタイプの福祉車両もある。写真はホンダ オデッセイ福祉車両の助手席リフトアップシート車 ▲やや高額にはなってしまうが、車いす仕様のほかにこのようなタイプの福祉車両もある。写真はホンダ オデッセイ福祉車両の助手席リフトアップシート車

「移動する歓び」をすべての人に

ご存じの方、実際使ったことのある人も多いかと思うが、車いす仕様の福祉車両とはワンボックス型乗用車の後部にスロープを収容し、そして車いすを固定するための器具を装備している車である。これにより車いすに乗ったまま車に乗り込むことができ、なおかつ(車種や登録方法にもよるが)助手席側のリアシートが付いているタイプであれば、介助をする者が車いすの方の隣に座ることができるわけだ。

これがあれば、例えば筆者の母がほぼ歩けない状態になったとしても、桜の花や富士山、あるいはその他もろもろの何かを見せてあげることができる。決して完全にではないが、「自由に移動する歓び」を、感じてもらうことができるのだ。

実は筆者は10年ほど前、車いす仕様の福祉車両をレンタカーとして借り、車いす状態だった義理の母を乗せた経験がある。あいにく筆者の不徳のいたすところにより行き先は桜の名所でも富士山でもなく病院だったのだが、かなり久しぶりに「外出」「移動」ができたことに喜んでくれた義母の顔を、彼女が亡くなった今もハッキリ覚えている。

text/伊達軍曹
photo/ホンダ、ゆさお