▲「アルファロメオで釣りに」というのはなかなかないスタイルだが、ある種の人には実はオススメ? ▲「アルファロメオで釣りに」というのはなかなかないスタイルだが、ある種の人には実はオススメ?

どうせ遠征するなら運転も楽しまなきゃもったいない

やらない人にはまったく意味不明だとしても、釣りというのはとにかく楽しい。で、釣り人はその楽しさを実現し、増幅させるために「釣り車」を買うわけだが、釣り車を選ぶ際はたいてい「タックル(釣り道具)を乗せやすい」「燃費がいい」「長距離走るのが楽ちん」あたりのポイントを重視する。

……それが間違いとは言わないし、実際筆者もその辺を重視して5MTの旧型ルノー カングーを購入した。しかし「それって、もしかしたら人生の楽しみの半分ぐらいを捨てちゃってる行動なのかもよ?」とは思う。

なぜならば……まぁ車好き限定の話ではあるが、それは「走る楽しさ」という、ある種根源的な何かを(ほぼ)完全に捨てている選択であるからだ。

釣りも楽しいが、活発で俊敏な車を駆って走ることだって同様に楽しい。であるならば、行き帰りの運転自体が死ぬほど楽しくて、なおかつ荷物もしっかり載せられる車を選べば、「釣り人としての人生」と「運転愛好家としての人生」の両方を楽しめる、ある意味「人生まるごとポイント2倍DAY」ということになるのではないだろうか。

まぁ帰り道は釣りで疲れ果てていたり、あるいは坊主(釣果ゼロ)だったため意気消沈し、運転する楽しみうんぬんはどうでもよくなる可能性も高い。しかし少なくとも往路は、せっかくだから運転自体も楽しみたいところである。

そう考えたときに候補となる釣り車(?)のひとつが、アルファロメオのアルファ156スポーツワゴンだ。

▲2000年9月から2006年4月まで日本で販売されたアルファロメオ アルファ156スポーツワゴン ▲2000年9月から2006年4月まで日本で販売されたアルファロメオ アルファ156スポーツワゴン
▲スタイル優先の耽美的ステーションワゴンであるため、荷室の積載量はそこそこ ▲スタイル優先の耽美的ステーションワゴンであるため、荷室の積載量はそこそこ

アルファ156スポーツワゴンは、90年代末から00年代半ばにかけてヒットしたセダン「アルファ156」をベースに作られたやや小ぶりなステーションワゴンで、搭載エンジンは2Lの直列4気筒と2.5LのV6。その他に3.2LのV6を積む「GTA」という化け物グレードもあるが、基本的には前述の2L直4と2.5L V6が中心だ。

往年のアルファロメオを運転した経験がある人には今さら説明不要だろうが、この2種類のエンジンがとにかく素晴らしい。

より素晴らしいのはV6の方なのだが、2L直4であってもその回転感覚と音は(やや大げさに言えば)レーシングマシンだ。ひたすら軽やかに、人間の何らかの本能を直撃する刺激的な音を伴い、ひたすら吹け上がっていく。そしてハンドルを切ろうとすると、切る前から車体が曲がり始める。いやこれは当然事実に反する記述なわけが、あまりにもクイックなハンドリング特性であるため実際そんなノリなのだ。そのため、156スポーツワゴンを運転するというのはほとんど「エンターテインメント体験」である。

▲写真は2.5L V6エンジン。2L直列4気筒のツインスパークエンジンも、V6ほどではないが十分以上に快感たっぷりのエンジンだ。ただし直噴になった後期型JTSエンジンは、快感という面では一歩劣るかも ▲写真は2.5L V6エンジン。2L直列4気筒のツインスパークエンジンも、V6ほどではないが十分以上に快感たっぷりのエンジンだ。ただし直噴になった後期型JTSエンジンは、快感という面では一歩劣るかも

で、いちおうステーションワゴンなので、後席を倒せば荷室にはそれなりの量のタックルを載せることもできる。ということで、釣りだけではなく「往路の運転も楽しみたい」というアングラーにはぜひオススメしたいアルファ156スポーツワゴンなのだが、いくつかの問題がないわけではない。

まず第一に、ハッキリ言って壊れやすい。2.5V6が採用しているトランスミッション「Qシステム」というのは要するに普通のMTモード付きトルコンATなので、これはほとんど問題ない場合が多い。しかし2L直4が採用する「セレスピード」というセミATは難儀なシロモノで、ごく普通に動いていたものが、あるとき突然壊れたりする。壊れないこともある。……何がどうなるか正直予測不能なので、釣り車として使うなら2Lのセレスピードは避け、2.5L V6限定で考えるのが無難だろう。

▲アルファロメオが採用していたセミAT「セレスピード」のシステム図。便利な変速機ではあるのだが…… ▲アルファロメオが採用していたセミAT「セレスピード」のシステム図。便利な変速機ではあるのだが……

そして第二に、V6を選ぶとなるとエンジンオイル交換の頻度が割と半端ない感じになる。筆者はかつて156スポーツワゴンではないV6アルファロメオに乗っていたのだが、このオールドスクールなエンジンは最高に官能的である半面、ちょっとオイル交換をサボるとすぐに調子を崩す傾向がある。交換サイクルは、こういった古めのエンジンだと「5000kmごと」とされる場合が多いが、アルファのV6は「3000kmごと」を目安に交換するのが無難だと、自身の経験と様々な取材により感じている。

さらに言えば、燃費も決して良くはない。「極悪」というほどではないが、リッター15km以上走るのが当たり前となった最近の車と比べると、「おおむねその半分ぐらい」と思っておけば当たらずといえども遠からずだろうか。遠征メインの釣り人にとってはなかなか痛い部分だ。

▲走りもデザインもステキだが、よく考えてみると釣り車には向いてない? ▲走りもデザインもステキだが、よく考えてみると釣り車には向いてない?

「……全然釣り車向きじゃないじゃん!」という意見もあるだろう。おっしゃるとおりだ。基本的には全然向いてない。しかし、それを押してでも自らの人生に「快楽」や「耽美主義」といったものを積極的に取り入れたい、ダサくてのろまな(?)釣り車ではガマンならん! と考えるアートな釣り人に限っては、アルファ156スポーツワゴンの導入を検討してみる価値はある。

「男の一生というものは」「美しさを作るためのものだ、自分の。そう信じている」……あまりにも有名な、新選組副長・土方歳三の言葉である(というか実際は作家・司馬遼太郎が小説『燃えよ剣』の中で歳三に言わせた言葉だが)。この言葉にグッとくる人が、アルファ156スポーツワゴンを探してみるべきなのだろう。

text/伊達軍曹