▲いきなり海釣りに目覚めた中古車評論家の伊達軍曹。写真は千葉県内房の某漁港にて ▲いきなり海釣りに目覚めた中古車評論家の伊達軍曹。写真は千葉県内房の某漁港にて

道具車にとって一番重要なのは「適度なボロさ」

中古車評論家の伊達軍曹であります。普段はカーセンサーEDGE net内の「EDGE JOURNAL」で輸入車に関するウンチクをいろいろと述べておりますが、今後は「日刊カーセンサー」でもウンチクを述べさせていただくことになりました。以後よろしくお願い申し上げます。

何に関するウンチクかと申しますと、ずばり「釣り」について。いや釣りそのものではなく、釣り活動に伴う車のあれこれについてであります。

といいますのも小生、昨年12月に釣りというものを始めてみたのですが、これが実に面白い。そして同時に様々な「発見」がある。犬も歩けば棒に当たるではありませんが、四十数年間完全インドア派だった人間が釣り竿片手に車で外に出てみたことで発見したモロモロを、こちらにて共有させていただく所存であります。

で、釣りを始めていきなり発見したのは「中古車の素晴らしさ」でした。

あなたが「釣り車」というか「道具車」を買う場合、どういったポイントに着目して車種を決めるでしょうか? 荷室の容量や形状? 4WDであること? 最低地上高? 車中泊のしやすさ?

▲ちなみに筆者が釣り車として使っているのは現行ルノー メガーヌRS。四駆でもなく荷室も広くはありませんが、なんとかなります。しかし釣り車選びには、そういったこと以上に重要なポイントがあります ▲ちなみに筆者が釣り車として使っているのは現行ルノー メガーヌRS。四駆でもなく荷室も広くはありませんが、なんとかなります。しかし釣り車選びには、そういったこと以上に重要なポイントがあります

……もちろんそれらはすべて重要な検討項目でしょう。しかし、それらだけを検討し、そして重要視するだけではド素人です。本当の趣味人は以下の点にも着目します。

「その車が、全体としてどれくらい(適度に)ボロいか?」

これです。これこそが、真の釣り車(あるいは道具車)を選ぶ際にはかなり重要となるポイントなのです。

いや、わたくしも実際に釣りを始める前はいろいろ考えました。「まだ日本に入ってきてないけどシトロエンのC4カクタスみたいなおしゃれクロスオーバーの新車がいいなあ」とか、「今乗っているルノーの現行メガーヌRSでも十分イケるだろう」とか。しかし実際の「現場」は、わたくしの甘い見積もりを軽く吹っ飛ばす破壊力でした。

まず、業界では「サーフ」と呼ばれる砂浜での釣りを行うと、履いているウェーダー(腰まである長靴)や道具類はベトついた砂まみれになります。そういったベトベト砂を、買ったばかりのシトロエン C4カクタスに持ち込んでしまったらバチが当たりそうです。来世はゴカイに生まれ変わるとか(ゴカイというのは餌になる虫です)。

▲危険なのでズッポリ海には入りませんが、波打ち際に立ってヒラメやシーバス(スズキ)などを狙います ▲危険なのでズッポリ海には入りませんが、波打ち際に立ってヒラメやシーバス(スズキ)などを狙います

消波ブロックや堤防の上でやる分にはベトベトにはなりませんが、そういったところ(の近くの駐車スペース)に到達する直近の道は未舗装な場合も多く、道路表面は結構ボコボコです。晴れや曇りの日なら愛車が泥まみれ、砂まみれになる程度で済みますが、強い雨が降るとボコボコ道が「超ボコボコ道」に変化し、わたしのメガーヌRSみたいな車は下回りをぶつけてしまうでしょう。そうでなくても、ピカピカの新車やそれに近い愛車をドロドロのボコボコ道に突入させる気にはなれないのが人間というものです。

▲写真は神奈川県大磯の某所。こういった場所では必ずライフジャケットを着用します ▲写真は神奈川県大磯の某所。こういった場所では必ずライフジャケットを着用します

また細かいことですが、食べられるお魚さんが釣れるのは嬉しくもありがたいことですが、正直生臭いです。クーラーボックスに入れておけば大丈夫ですが、何かの拍子に荷室内でボックスが倒れた日には大変な騒ぎになります。

▲過日筆者が釣ったトラウト(ニジマス)。塩焼きにてありがたくいただきました ▲過日筆者が釣ったトラウト(ニジマス)。塩焼きにてありがたくいただきました

このように車にとっては最悪ともいえる状況と対峙するのが釣り車です。そこでは、やれパワーウェイトレシオがどうしたとか、フランスのエスプリを感じさせるデザインがこうしたとかは完全に無意味。大切なのはただひとつ、「必要な荷物を載せたうえで、快適かつ確実に現場にたどり着く能力」なのです。

そしてそこで、冒頭の「中古車の素晴らしさ」というものが光り輝くのです。

新車の高級感、ピカピカ感が釣り人の自由を奪う

例えばわたくしがシトロエン C4カクタスを買えば、現車はまだ見てませんが荷物もたくさん積めるでしょう。最低地上高がそれなりにあるので悪路も問題なく走破できるはず。しかし積む気にも走破する気にもなれないのが、ビカビカな新車あるいはそれに準ずる車の問題点なのです。

どんなに設計上の悪路走破性能が抜群に高かったとしても、買ったばかりのメルセデス・ベンツG65 AMG(新車の車両価格が3342万8000円)で悪路を行く人はいません。や、いるかもしれませんが、その人は“偉人”です。偉人というのはそうめったにいるものではありません。

▲メルセデス・ベンツ G65 AMG。確かに悪路走破性能は世界的にもピカイチなんでしょうが…… ▲メルセデス・ベンツ G65 AMG。確かに悪路走破性能は世界的にもピカイチなんでしょうが……

しかし「中古車」であればどうでしょうか?

程度の良い中古車であっても、どこかしらにヤレのようなものはあります。しかしそうであるがゆえ、「ま、いいか」という気楽なニュアンスで、どこへでも突撃することができるわけです。

それはすなわち「自由」です。

我々は中古車を選ぶことで、ピカピカなボディの代わりに「行動の自由」という尊いものを獲得するのです。新車と比べて多少はヤレているかもしれませんが、得られるモノの大きさを考えれば、そんなのは瑣末なことです。

長くなってしまい恐縮ですが、そろそろ終わります。以上のように、わたくしがオススメしたい釣り車(道具車)とは、まず第一に「中古車」であること。で、そのうえで各自が各自の使用目的や予算などに合わせて、ボディ形状や荷室の容量、駆動方式などを選べば良いのではないでしょうか。まぁ完全にわたくしの好みだけで選ぶとすれば、旧型のルノー カングーでしょうか。

▲荷物が積めて可愛くて、そして実は走りも絶品な旧型ルノー カングー ▲荷物が積めて可愛くて、そして実は走りも絶品な旧型ルノー カングー

走行距離5万km前後の05~07年式が今、支払総額おおむね100万円ぐらいです。……現行メガーヌRSを売却してコレにしようかな?

text/伊達軍曹 photo/伊達軍曹、メルセデス・ベンツ、ルノー