▲ファンの間では「R56」という型式名で呼ばれることが多い旧型ミニ。写真はクーパー ▲ファンの間では「R56」という型式名で呼ばれることが多い旧型ミニ。写真はクーパー

「大御所」になると人間はエラソーになり、車は大型化するのが常だが

テレビの画面から矢野顕子さんが唄う某社のCMソング(ネコの母子が出てくるやつ)が流れてくるたびに、「あぁ、矢野さんっていうのはなんて軽やかでステキな人なんだろう」と思う。

言わずと知れた大御所天才音楽家である。青山学院高等部在学中からジャズクラブでの演奏を始め、17歳のときには細野晴臣らが在籍した伝説のロックバンド「ティン・パン・アレー」のセッションメンバーに。その後若くしてソロデビューも果たし、1979~1980年にかけてはYMO(イエロー・マジック・オーケストラ)のワールドツアーにサポートメンバーとして同行。現在はニューヨークを拠点にさまざまな音楽活動を行い、世界的ジャズギタリストであるパット・メセニーなどとも共演……と、その華々しいプロフィールを挙げていけばキリがないほどだ。

▲数々の世界的ミュージシャンと共演している矢野顕子さん。写真はすみませんが単なるイメージで、筆者が所有するフェンダー・カスタムショップのテレキャスター ▲数々の世界的ミュージシャンと共演している矢野顕子さん。写真はすみませんが単なるイメージで、筆者が所有するフェンダー・カスタムショップのテレキャスター

そんな大御所である矢野さんだが、依頼があれば「ポニャラ~」と企業の商品CMで唄うし、自身のコンサートでは「わたしは今すぐラーメンが食べたいのだ」あるいは「ごはんができました」という意味合いの歌をコミカルに(よく聴くと全然コミカルな歌ではないのだが)、唄う。

なかなかできることではない。

なぜならば、たいていの人間は大御所的ポジションになるにつれ、どうしても「妙にシリアス」だったり「しかめっ面」だったりという、要するに「なんとなく偉い感じ」になりがちだからだ。大御所になった後も軽やかでいるというのはどうやら難しいことなのだろう。笑いを取ってナンボだったはずの芸人は難しい顔つきで日本画(のようなもの)を描きはじめ、ホレたハレたの素敵なポップセンスが持ち味だった若手ロックバンドもそのうち「空よ大地よ、あぁ生きとし生けるものよ!」的なことを、眉を逆ハの字にしながら世界に向けて熱唱しはじめる。

こういった「妙なシリアス志向」は人間の一側面として致し方ないことなのかもしれないが、まぁなんとなく残念ではある。そしてそういった残念さは、車においてもしばしば起こる。

コンパクトで軽やかである点こそが魅力で、いわゆる押し出し感やらデラックス感などとは無縁だったはずのモデルも、代を重ねるにつれどんどん大柄になり、そしてゴージャスになっていく。「大柄になり」という部分については衝突安全性の面で致し方ない話ではあるのだが、それにしても小柄でシンプルな点が魅力だった車が、ちょっと見ない間に「20kg太って年収も1000万円ぐらい増えた人」みたいになっているのを見ると、いろいろ考えさせられるものだ。

▲そういえば忘れていたが現在のアルファロメオ ジュリエッタはアルファ145の系譜に連なるモデル。ジュリエッタが「20kg太った車」だとは全然思いませんが、とにかく145は小さかったんだなあ…… ▲そういえば忘れていたが現在のアルファロメオ ジュリエッタはアルファ145の系譜に連なるモデル。ジュリエッタが「20kg太った車」だとは全然思いませんが、とにかく145は小さかったんだなあ……

ドイツのBMW AGが製造する「ミニ」も、ある意味そうだ。

BMW製の初代ミニ(R50系)も英国の元祖ミニと比べると「大きすぎる!」という批判を受けたものだが、3代目の現行ミニ(F56系)はそれに輪をかけてデカくなっており、初代と比べて全長で185mm、全幅は35mm拡大されている(※クーパー3ドアの場合)。幸いにしてというか何というか、3代目になっても全体の雰囲気はミニならではのポップ感が継承されており、今にも妙な日本画を描きだしそうなシリアス顔になっていない点は高く評価したい。そしてもちろん、3代目は車としての出来もすこぶる良い。

が、全長3835mm×全幅1725mmの車って果たして「ミニ」なのか? と問われれば、判断は分かれるところだろう。

▲奥の黒いミニが現行F56(3ドア)で、手前は「F55」という型式名になる現行5ドアモデル。全幅は3ドア版と同一だが、全長は5ドアのクーパーが4000mmで、クーパーSは4015mm ▲奥の黒いミニが現行F56(3ドア)で、手前は「F55」という型式名になる現行5ドアモデル。全幅は3ドア版と同一だが、全長は5ドアのクーパーが4000mmで、クーパーSは4015mm

しかし、これについては過剰に案ずる必要もないのだろう。なぜならば、我々には「中古車」なる心強い味方というか、ステキなタイムマシンがあるからだ。

もしも世の中に「車は新車しか買っちゃいけません」という法律があったなら、ミニが欲しい人は、人によっては複雑な思いを抱えながら現行F56系を買うほかない。しかし当然そんな法律はないので、もしも「F56はデカいなぁ……」と思うなら、程度の良い旧世代を見つけて手に入れれば良いだけの話なのだ。

その際、「あくまでも小柄であること重視!」で臨むなら初代R50系が一番だが、最末期でも8年落ちとなるR50系のなかからグッドコンディションな1台を探すのは、もしかしたら簡単ではないかもしれない。しかしその場合も、2代目ミニ(R56系)で良しと考えれば問題はほぼ解決する。

もちろん中古車のコンディションというのは1台ごとに千差万別だが、つい先日(14年3月)まで新車が販売されていたR56系にはグッドコンディションな個体も多い。そして初代と比べて大きくなっているとはいえ全長と全高が少々サイズアップしただけで、全幅は逆に5mm細くなった堂々の(?)5ナンバーサイズ、1685mmである。

▲向かって一番右が元祖ミニで、そこから順に初代BMW製ミニ、2代目、現行と並ぶ。こうして見ると「初代」と「2代目」のサイズ差はさほどでもないことがわかる ▲向かって一番右が元祖ミニで、そこから順に初代BMW製ミニ、2代目、現行と並ぶ。こうして見ると「初代」と「2代目」のサイズ差はさほどでもないことがわかる

もっと言ってしまえば英国の元祖ミニこそが究極の「小柄で軽やかな車」なわけだが、メンテナンスの問題等々から見て、あれは今や誰でも気軽に乗れるものではなく、ある程度の覚悟をもって乗るべきディープなマニア車とみなすべきだろう。そう考えるとBMW製の2代目ミニというのは、「ステキな普段使いCAR」としてはなかなかの落とし所だと思うのだが、どうだろうか。

ということで今回のわたくしからのオススメはずばり「2代目ミニ(のハッチバック)」だ。

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  • Car:ミニ ミニ(BMW製の2代目)
  • Conditions:修復歴なし&走行距離3万km以下&総額250万円以下(※総額250万円を超えるプランが用意されている場合があります)
text/伊達軍曹