スクリーンを飾ったあの名車、少ししか映らなかったけれど忘れがたい車…
そんな映画に登場した“気になる車”をカーセンサーnetで見つけよう!

ハリウッドリメイクも来年公開。日本が誇るロードムービーの傑作!

幸福の黄色いハンカチ|映画の名車
(C)1977松竹株式会社
DVD『幸福の黄色いハンカチ』(発売中)1977年・日 監督:山田洋次 出演:高倉健/倍賞千恵子/武田鉄也/桃井かおり/渥美清/たこ八郎ほか 販売元:松竹ホームビデオ ¥2,800 (税込)
車しかり映画しかり、定番には定番のよさがある。いつの時代でも変わらずに人々に訴求し続ける商品や作品は、飽きのこない優れたサムシングを秘めているのだ。今回紹介するのは、そんな定番中の定番映画、山田洋次監督の『幸福の黄色いハンカチ』である。あーハイハイ、刑務所から出てきた高倉健が奥さんのもとに戻るのにハンカチを吊るしてくれとかいう、泣ける映画でしょ!? 」と、観たこともないのに観た気になっている誰かさんの声が聞こえてくるようだが、この作品を単なるお涙頂戴の人情劇だと勘違いしてもらっては困る。「もちろん人情劇であることは間違いないのだが、日本を代表する優れたロードムービーであり、コメディ映画であり、青春映画でもあるのだ。

物語は武田鉄也演じる欽也が失恋をしてヤケになって会社を辞め、退職金で真っ赤なファミリアを購入するところから始まる。失恋旅行よろしく北海道までファミリアで乗り入れた欽也は、ヘタな鉄砲数撃ちゃ当たるとばかりにナンパをしまくるうちに、同じように失恋旅行で一人網走まで来ていた朱美(桃井かおり)を引っ掛けることに成功。2人でドライブに出かけた先で、ツーショットを撮るためにシャッターを切ってもらった中年男(高倉健)と知り合い、珍道中がスタートする。

そのあとは皆さんご存じの通りの展開。中年男=勇作が実は出所したばかりの元殺人犯で、夕張に別れた女房がいること。未練があって、「まだ一人身ならば黄色いハンカチを家の前にさげて目印にしてほしい」と手紙を書いて出したこと、などが徐々に明らかになっていき、ラストは3人で勇作と妻が暮らしていた夕張まで向かう、というのがあらすじだ。

長身で無骨な中年男の高倉健と、おちゃらけた短足の若者・武田鉄矢という両極端な男性キャラと、アンニュイな雰囲気のヒロイン・桃井かおりという3人の織り成すアンサンブルが素晴らしい。広大な北海道を駆け抜ける真っ赤なファミリアの車内でかわされる軽妙な会話の数々、昨日まで赤の他人だった3人がさまざまな気持ちを交錯させながらアテもない旅は進んでいく。その距離を積み重ねていくほどに、互いのことを理解し、かけがえのない濃密な時間を共有していることに気づいていくのだ。

どうかストーリーをかいつまんだだけで観たつもりにならずに、2時間弱の名作を堪能してほしい。欽也が新車のファミリアを買ってニヤけた顔をした瞬間からググーッと引き込まれ、出所直後の勇作がラーメンをすするシーンで腹を鳴らし、桃井かおりのキュートネスにメロメロになることを請け合い。勇作の回想シーンが始まるころにはアナタも立派に旅の一員になっているはずだ。こうなったらどれだけあらすじを熟知していようと、ラストは目からあふれ出るものを止められないだろう。

来年にはいよいよハリウッドリメイク作『The Yellow Handkerchief』が公開される(主演はオスカー俳優のウィリアム・ハート)。ドーンの名曲「幸せの黄色いリボン」がモチーフのこの作品を、いわば本家アメリカがどのような解釈で映画にしたのか、非常に楽しみである。

映画に登場する車たち

マツダ ファミリア 323(5ドア)

マツダ ファミリア 323(5ドア)|映画の名車
※写真はグレードが異なります。
本作で俳優デビューとなった武田鉄也演じる欽也が退職金をはたいて買った新車が、当時発売間もなかった4代目ファミリアの5ドア・スーパーカスタム。公開年の1977年は空前のスーパーカーブームで、欽也の部屋にも真っ赤なカウンタックのポスターが貼ってある。さしずめ真っ赤なファミリアはカウンタックの代わりだったのだろう。ちなみに撮影当時、武田鉄也は普通免許を取得しておらず、運転シーンはすべてトレーラーでのけん引だったそうだ。

Text/伊熊恒介