車イメージ▲自動車・カーライフに関する調査研究機関「リクルート自動車総研」の膨大な統計データを基に、ユーザーの購買行動や世の傾向を勝手に予想したり解説したりするコラム

愛車との思い出が積もり機械以上の存在になる

今年7月にフランスで行われた第74回カンヌ国際映画祭で濱口竜介氏の監督作品『ドライブ・マイ・カー』が、最優秀脚本賞はじめ4つの賞を獲得した。

本作は、村上春樹氏が2014年に発表した短編小説集『女のいない男たち』に収められている同名の短編を軸に、映像化されたものだ。

タイトルからも分かるように、映画でも原作の短編小説でも、主人公の愛車が印象的な役割を果たしている。

ちなみにその愛車とは、今はなきスウェーデンの自動車メーカーであるサーブの900というモデル。原作では黄色いカブリオレ、映画ではサンルーフ付きの赤いクーペとタイプは異なるが、いずれも主人公が新車で購入して以来10年以上乗り続けている設定は同じ。

古くなっても買い替えない理由として、原作には「何よりも彼はその車に個人的な愛着を持っていた。」と書かれている。(村上春樹『女のいない男たち ドライブ・マイ・カー』文藝春秋 2014年、19頁)
 

リクルート自動車総研グラフ

グラフ①をご覧いただきたい。「車はペットと同じように家族の一員である」と思う人が、ここのところ増加傾向にある。

ペットが家族の一員であることに異論はないが、意志や感情のない機械であり、移動や荷物を運ぶための道具という側面の強い車に対しても、そうした感情を抱いているのが面白い。

家族の一員とまではいかずとも、『ドライブ・マイ・カー』の主人公にとってのサーブ 900のように、一緒に過ごした時間の蓄積によって、少なからずの愛着を抱くのは想像に難くない。

そう考えると、結果的に“家族の一員”と思えたかどうかは、車選びの成功度を測るひとつの指標と考えられないだろうか。

もちろん、親から譲り受けたとか、電撃的な一目惚れとか、その車との出会いそのものが愛着の念を起動するケースもあるだろう。逆に何年も所有しながら放置しているなら、愛車に対する関心は薄いはず。

となると、愛車に個人的な愛着を抱いたり、家族の一員に思えたりするかどうかは、必ずしも一緒に過ごした時間の長さだけの問題ではないのかもしれない。
 

リクルート自動車総研グラフ

そこで注目したいのがグラフ②だ。「車はコミュニケーションの場になる」と思う人の割合が年々増えているのが分かる。

車内をパブリックとパーソナルが絶妙にバランスした移動空間と捉えると、他の場所とは異なるコミュニケーションのチャンネルが発生しても不思議ではない。そこで交わされたコミュニケーションが、記憶や思い出に形を変えて、愛車と強く結び付けられる可能性は大いにありそうだ。

また、そうした記憶や思い出の蓄積は、時間と同様、愛車への思い入れを強化するとも考えられる。

グラフ②の設問は愛車に限定されていないため、一度きりのレンタカーも含めて考えるのが妥当だろうが、車を移動の道具としてだけではなく、そこでどのような時間を過ごせるのか、つまり時間の質にも価値を置く傾向の高まりを、この結果から見いだすことができそうだ。

そこで、時間の質が高まりそうな車とはどのようなものか考えてみた。例えば、『ドライブ・マイ・カー』の原作に登場したサーブ 900のように、開放感を味わえるオープンカーなら、移動の時間がアトラクションに乗ったような記憶として刻まれるだろう。

また、レトロな装いの一昔前のモデルであれば、その時代にタイムスリップしたような体験を同乗者と共有できそうだ。

いずれにしても、車とともに印象的な時間を重ねることで、より愛着が湧いた1台は、機械以上の感情や格段の愛着をもって付き合える家族のような存在に近づきやすいに違いない。
 

予算100万円で愛着爆上がり!? 会話も盛り上がる個性派モデル3選

1:マツダ ロードスター(3代目)
 

マツダ ロードスター ▲屋根を開けて走り出せば気軽に非日常を楽しめる2シーターオープン。同乗者との会話はもちろん、ドライバーがマシンと対話するように操れる人馬一体の走りも魅力
 

2:ローバー ミニ(初代)
 

ローバー ミニ ▲生産終了から20年が経過したローバーミニ。愛らしいレトロなデザインはもちろん、親密な雰囲気漂う室内空間やクセの強い独特の操作性など、愛着をくすぐる要素が満載!
 

3:トヨタ ヴォクシー トランスX(2代目)
 

トヨタ ヴォクシー トランスX ▲3列目シートを省き荷室空間を広げたトランスX。荷物を積んで仲間と出かけるのにピッタリなモデル。あえて2列シート車を選ぶ時点ですでにワクワクの時間は始まっている!
 
文/編集部、写真/マツダ、ローバー、トヨタ、photo AC