半導体イメージ ▲昨今の「半導体不足」は自動車メーカーも新車生産に深刻な影響を与えている。コロナ禍で先が見えないこともあり、しばらくは半導体の不足は続くであろう。ならば、新車ではなく状態の良い中古車を「欲しい時」に買うというのも賢い選択ではないだろうか

そもそも半導体不足って何が問題なのか?

新型コロナウイルス感染症の世界的流行により、自動車産業は非常に厳しい状況に追い込まれているのは周知のことだ。

連日のように報道される「半導体不足」はもはやキーワードとしても定着しているほどだが、そもそも「半導体不足」とはどういうことなのだろうか。また、それによって産業全体にどのような影響が出ているのだろうか。

まず、ひと言で半導体と言っても種類はかなり多い。車においてはエンジンの電子系を制御するECU(Electronic Control Unit、Engine Control Unitと呼ぶ場合もある)に内蔵されたマイクロコントローラ、略して「マイコン」が代表的なものだ。

ECU自体はエンジンやハイブリッドシステムなどの各種制御の他、昨今ではADAS(先進運転支援システム)の領域でも活用されており、まさに頭脳として半導体は現在の車に欠かせないものになっている。また車両だけではなく、カーオーディオやカーナビゲーションなどの回路にも当然使われており、システムの制御だけでなくパワーアンプにも専用の半導体が使われている。

「そんなことは知っているよ」という声も聞こえてきそうだが、実際パンデミックが起こる前に半導体を製造するメーカーの工場が火災になったことで、とある音響メーカーはカーAVシステムの生産(前述したパワーアンプ部の半導体)に大きな打撃を受け、主力商品の販売商戦に乗り遅れた現実もある。

そしてコロナである。この原稿を書く前に半導体関連の専門家に話を聞く機会を得たのだが、今回の半導体不足の原因が数多くある中、大きかったのは「需給の読み違い」であったという。これに関しては米中摩擦による経済制裁など語り始めるといくらページがあっても足りないので割愛するが、コロナの影響で需要は落ち込むと予想していたのに対し、実際は世界の市場に大きな影響力を持つ中国が予想以上に早くコロナ禍からの回復を果たし、自動車需要が急速に回復したことが大きい。

しかし、需要が回復したからハイそうですか、と生産力を上げることは簡単なことではない。ましてや、昨今のテレワーク需要によるパソコンやスマホをはじめとした民生用機器の需要拡大が優先されたこともあり、自動車メーカーは大打撃を受けてしまったとのことだ。
 

各自動車メーカーの新車生産の遅れは深刻

“トヨタ高岡工場” ▲トヨタの国内工場のひとつである、高岡工場。2020年6月の様子で、ラインではハリアーが生産されている

半導体不足だけがすべてというわけではないが、やはり実際の生産に遅れが生じているのは間違いないだろう。一例だが、8月2日に発売を開始したトヨタの新型ランドクルーザーだが、前評判も極めて高いこともあり、納期に関してはかなりかかるであることは事前に予想されていた。

これも実際トヨタのセールスマンに確認したのだが、受注開始日(これは秘密)の午前10時10秒に端末操作を行い、その時はオーダーが入れられたが、その数分後には早くもオーダーストップ状態になったとのこと。そして現在は、1年以上という待ち状態が続いている。

他メーカーも同様で、海外でもサプライヤーとの強い関係を築いているといわれるBMWですら、販売台数に影響が出ると報道されている。
 

“トヨタ ▲2021年に14年ぶりのフルモデルチェンジを果たしたトヨタ ランドクルーザー300。現時点で注文すると、納期は1年以上先となる見込みとのことだ

では今後はどうなるのか?

半導体の増産は簡単なものではないことは予想できるが、問題は「需給バランスの崩れ」による半導体自体の値上げが今後起きる可能性が高いということ。少しでも多くの半導体を(安く)欲しい自動車メーカーと、急増する需要に応じて生産力を上げるためのコストがより多く発生する半導体メーカーとで、しのぎを削ることになるという。

当然半導体の価格が上がれば、すぐにというわけではなくても、いずれはエンドユーザーに転嫁され、製品価格が上昇することも予想できる。

前述した専門家によると、いずれにせよ、コロナ禍における先の見えない中、半導体メーカーが増産を加速させても2022年末までは厳しい状況は続くだろうとのことだ。
 

そこで中古車販売はどうなるのか?

“トヨタランドクルーザー200” ▲2007年に登場した、先代のトヨタ ランドクルーザー200。以前より中古車市場では人気が高く、相場が下がりにくいモデルではあったが、新型登場により相場が高止まりしている

新車と中古車の販売は表裏一体の関係である。新車が売れなければ中古車市場には車は流通してこないという当たり前の理屈だが、過去にも双方の需要バランスが崩れたことはある。ただ、今回のような半導体不足により、自動車メーカーが新車を製造したくてもできないという現実により、中古車の販売台数を加速させると見ている。

例えば、前述したランドクルーザーなどは元々中古車市場でも極めて人気が高いが、新型が欲しくても手に入らなければ、中古車の状態の良いもの(非常に表現が曖昧だが)を求める層は一定数いる。実際、販売店に話を聞くと、先代の200系の中古車、特に2015年8月のマイナーチェンジ以降の物件は売れる動きが早いとのことだ。元々、新車を購入するつもりで予算には余裕があったこともあり、1年以上待たされるならば先進安全装備も充実したこの世代のモデルでも良い、という顧客も実際いたそうだ。

すべてのユーザーがそうではないし、本当に新型車が欲しいならば、かなり早くからディーラーと商談をしているはずだ。ただ、筆者も車購入の相談に乗ることが非常に多いのだが、納期についてディーラーに確認してもらうと「そんなにかかるのか」と驚くことが多い。車検のタイミングやライフスタイルの変化で、一定の期間内に次の車に乗り替えたいと思うのは当たり前だ。ゆえに当初は予定のなかった中古車を勧めてみると、これが意外とハマる。というか、「欲しい時が買い時」であることがよくわかる。

欲しい車がまったく新しいモデルなら、中古車へのシフトはイメージしづらいが、先代が存在するモデルであれば価格も抑えつつ、状態の良い中古車をセレクトすることは賢い買い方のひとつとも言える。
 

文/高山正寛 写真/トヨタ、アウディAG.

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