これから起こる渋滞を「運転のクセ」で予測する手法が開発された!?
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2015/04/24
インフラに頼らない渋滞予測方法とは?
車を運転する人なら、誰しも一度は、いや、一度と言わずいくども渋滞でイライラといった経験があるだろう。一説には、交通渋滞による損失時間は国民1人当たり年間約30時間、経済損失は11.6兆円ともいわれており、イライラどころか、経済活動にも大きな影響を与えている。
現状、渋滞情報の提供や予測は、道路上に設けられたカメラなどによって定点観測し得られた渋滞情報を集約して車両に通知する「VICS」や、実際に道路を走っている車の位置情報や交通情報などを元にした「プローブ交通情報」などを活用して行われている。
以前に比べると予測精度は上がっているが、「VICS」は一部の主要幹線道路や高速道路の設置が主で、「プローブ交通情報」は渋滞を知りたい道路をプローブ情報に対応した車が一定数走っているといった条件がある。
そんな中、他のインフラに頼らず、自分の運転の癖から渋滞を予測する手法が考案されたという。「運転の癖で渋滞を予測」とは一体どういうことなのか。考案者である芝浦工業大学の伊東敏夫教授を訪ねた。
「誰しも運転中に、この道路はこれから渋滞が始まりそうだな、と感じることはありますよね。私もあります。そして、そういったときは、往々にして実際に渋滞することが多い。もしかすると、ドライバーは無意識のうちに周囲の車の動きを察知して渋滞を予測し、自分の運転自体も変化させているのではないか、と仮説を立てたんです」と伊東教授は語る。認知科学でいう、「人間は外部環境が変化したとき、無意識に行動を変化させる」という考えを車に当てはめたのだ。
まず注目したのが渋滞発生のメカニズムだった。伊東教授は渋滞に至るまでの過程を、運転手の意思だけで自由に運転できる「自由走行相」、1kmに20台以上の車がいて車間密度が増大している「メタ安定相」、そして渋滞が発生する「渋滞相」に分類した。ここで重要なのが「メタ安定相」だ。この状態でブレーキなどをきっかけとした減速が起こると、渋滞が発生していく。わかりやすくいうと、「メタ安定相」は今後渋滞が発生する前段階。これを察知できれば、渋滞を予測できるということだ。
では、「メタ安定相」に入ったかどうかどう判断するのか。そこで活用するのが、前述したドライバー自身でも気づかない運転の変化だ。ドライビングシミュレーターを用いた模擬走行実験により、「メタ安定相」に入ったドライバーに、どのような運転動作の変化・特徴が現れるのか、データを収集した。
「検証の結果、個人差はありますが、メタ安定相に入ると、速度の変動が大きくなったり、直線のハンドル操作が小さくなったりするなど、なにかしらの変化が生じることがわかりました。周囲の車の状況にあわせて、自分の車をコントロールする必要が出てきたんですね」
これらの収集されたデータを元に、運転動作を解析するアルゴリズムを開発。このアルゴリズムを搭載した装置を車両情報をつかさどるCAN(コントロールエリアネットワーク)上に取り付ければ、ハンドル操作やアクセルの開閉、速度の増減などから「メタ走行相」の運転かどうかを分析・判断でき、今後の渋滞を予測することができるという。
現在は研究段階で、より精度を高める必要があるが、伊東教授は「この手法の最大のメリットは、ローコストでの導入が可能ということ。VICSなどのように新たに道路インフラを整備する必要がなく、車に高価なセンサーなどを搭載する必要もありません」と語る。また、将来的には、渋滞予測だけでない進化も見据えているというのだ。
自分でも気がつかない体調の変化を車が教えてくれる!?
「体調やその日の気分によっても、運転の仕方は微妙に変化するはず。そのアルゴリズムを分析すれば、自分でも気づいていない体の変化を、車が教えてくれるなんて未来がくるかもしれません」
伊東教授は、その究極の形を馬に例える。
「賢い馬は、乗り手の気持ちまでも理解する。車もそんな人馬一体が可能になればいいですね」
自動運転が究極まで実現した将来、ともすれば車は公共交通機関のような“ただの移動手段”になるかもしれない。そうならないためにも「ドライバーの意志をくみ取り、よりパーソナライズされた車の必要性が高まる」と伊東教授は考える。
スタンドアローンで渋滞の予測ができるようになる今回の手法だが、より進化をすると、個人の気持ちに寄り添って体調や気分まで考慮しながらコミュニケーションを取ってくれる、ドラマ「ナイトライダー」に出てくるような車が生まれる種になるのかもしれない。