メルセデス・ベンツ ミディアムクラス

【連載:どんなクルマと、どんな時間を。】
車の数だけ存在する「車を囲むオーナーのドラマ」を紹介するインタビュー連載。あなたは、どんなクルマと、どんな時間を?
 

東京暮らしで目に焼き付いたクラシック・メルセデス

「昔、東京の環七通りを自転車で走っていたとき、ある芸能人の男性がW123に乗ってレストランに入っていくのを見かけたことがあります。“ああ、なんてかっこいいんだろう”。以来、自分でもいつかはW123に乗りたいと思うようになりました」

清水隆司さんが語るW123とは、メルセデス・ベンツが1970年代から80年代半ばにかけて製造していた車のことで、現在のEクラスにあたる。ちなみにひとまわり小さなCクラスの始祖、190シリーズが登場したのは1982年で、それまでW123が(最上位モデルのSクラスに対して)コンパクトクラスという立ち位置だった。

メルセデス・ベンツ ミディアムクラス

清水さんの職業はグラフィックデザイナー。出身地にして現在の生活拠点である鹿児島で、店舗の内装(下の写真もそのひとつで、2024年に鹿児島市にオープンした「仁田尾の知覧茶園」が運営するお茶カフェ)や商品のロゴなどのデザインを手がける他、クリエイティブな活動の一環としてフリーペーパーの発行にも携わっている。

「高校を卒業して東京のデザイン事務所に入社したのですが、当時はよく社長の車を洗っていました。しかも事務所の下が車屋さん。見ているだけでも楽しかったですね。ただ、東京では自転車があればなんとかなったので、自分で乗るようになったのは30代になり、鹿児島へ戻ってからです」

メルセデス・ベンツ ミディアムクラス▲お茶カフェ「GREEN TEA ROOM CHIRANCHAEN」では、知覧茶・鹿児島茶などを使用した味わい深いドリンクやスイーツをいただける

細部にいたるまでデザインに理由があって、しかも美しい

仕事柄、荷物を運ぶことが多い清水さんは、取り回しが良くて荷室も広い国産車や輸入車を乗り継いできた。

「実用性は大事ですが、デザインも気になります。他人とかぶりたくない気持ちがあったので、ボルボ V40に乗ったりもしました。それでもいつも心にあったのは、東京で見かけたW123。3年前に神戸に住むオーナーさんからお話をいただいたときには、本当にうれしかったですね」

そうして手に入れた憧れのW123は、モデル最終期・1985年式のディーゼルターボエンジン搭載車。

「神戸から大阪港まで行き、そこからフェリーに乗って鹿児島の志布志港まで運びました。その間はずっと興奮していて、あまり記憶がありません(笑)」

メルセデス・ベンツ ミディアムクラス

W123を所有して改めて感じたのが、高級車だけをてがけてきたメルセデス・ベンツならではの高品質なつくりと、それを体現した気品のあるデザインだった。

「例えば、雨の中を走っているときに、水が視界を妨げずに後ろへ流れていく設計なのですが、凹凸の付いたテールライトのカバーも同様の目的でデザインされています。細部にいたるまで理屈があり、機能的で、優雅なデザインに落とし込んでいるのがW123の魅力です」

メルセデス・ベンツ ミディアムクラス

色あせることのない高級車でカジュアルに遊ぶ喜び

内装も劣化は少なく、握りの細い大径ステアリング(軽い力で動かせ、急ハンドルを切っても挙動が不安定になりにくいといった理由に基づくデザインといわれている)は威厳を保ち、シンプルで見やすいメーターパネルの上から助手席にかけてのダッシュボードには、紫外線による劣化を防ぐためのカバーが前オーナーの手によって敷かれている。

メルセデス・ベンツ ミディアムクラス

「もともと状態は良かった方なので、特に大きな故障には見舞われていません。思ったよりもお金がかからない車、という印象ですね。1人で乗ることが多いですが、だいたい今日のようなラフな服装で運転しています。自分的には違和感はないと思っています。それもきっと、メルセデスのなせる技かと」

メルセデス・ベンツ ミディアムクラス

余裕のあるときに乗る。それ自体がストレスフリー!

ディーゼルエンジンもお気に入りのひとつ。

「これまでにもマツダのCX-5やBMW 218dといったディーゼル車を所有してきて、優れた経済性と低回転からの力強さを実感。W123のディーゼルターボは当時の最新技術であり、鉄の響きとしっとりした走りにいつも魅了されています。明らかにエンジンの調子がいい日などは、うれしくて叫んでしまうほど!」

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東京に暮らしていた頃は自転車で足りていたという清水さんだが、鹿児島では車の移動がもたらす楽しみを実感しているそう。

「友達とラーメンを食べて、温泉に行って……。道の駅に行くのも楽しいですね。そこでは旧車に乗るシニアドライバーとお会いすることも多く、W123の話で盛り上がったり。W123も十分に旧車なので無理はさせず、時間に余裕のあるときに運転することが多いですが、そうして過ごすこと自体が楽しく、ストレスなんて一切感じません。」

W123に代わる車はなさそう。

「もし乗り替えるとしたら、最新の電気自動車にがっつりシフトするくらいの気持ちでいます」

文/櫻井香、写真/村田祐介
メルセデス・ベンツ ミディアムクラス

清水隆司さんのマイカーレビュー

メルセデス・ベンツ ミディアムクラス

●購入金額:約200万円
●走行距離:13万5000km。購入後は約1万5000km
●マイカーの好きなところ:スモーク処理が施されていない、透明感のあるガラス
●マイカーの愛すべきダメなところ:強いて言うなら……ヒューズの交換にコツが要り、面倒
●どんな人にオススメ?:特別な知識や技術がなくてもきちんと整備すれば不安はないので、若い世代や女性にも乗ってほしい。普遍的な美とゆったりとした乗り味を楽しんで!

櫻井 香

フリーエディター

櫻井 香

男性総合誌の編集者を経て、フリーランスに。雑誌メディアを中心に、カルチャー、アウトドア、ファッションなど、様々な企画を編集・執筆。これらのジャンルとクロスオーバーする形で車の楽しみ方を俯瞰し、非マニア層にもわかりやすい企画を得意とする。