マセラティ グレカーレ▲2022年に発表されたマセラティの新型SUV「グレカーレ」。新車価格は800万円前後のDセグメントで、サイズとしてはレヴァンテの弟分にあたる。1年後にはBEVモデルも登場予定だ

半導体不足などで新車のデリバリーが大幅に遅れているメーカーが多い中、イタリアの高級ブランドは軒並み絶好調である。フェラーリ、ランボルギーニ、マセラティといった高級車、スーパーカービジネスを展開する各社の今、そしてビジネス成功の鍵を探る。
 

スーパーカービジネスは「車」と「夢」を売るもの

先日、筆者は取材のためイタリアン・スーパーカーの聖地たるモデナ地区を訪れたのだが、その活況ぶりは想像以上のものであった。どの製造部門もフル稼働の大忙し状態で、街中にはカモフラージュカーがうようよしていたのだ。半導体供給の問題で生産スケジュールが大荒れの自動車業界であるが、これら少量生産メーカーにおいては、さほど大きな問題ではないようだ。

フェラーリのアッセンブリーラインでは、200万ユーロ(約2.7億円)の限定モデル「デイトナSP3」の生産が既に始まっていた。599台限定といえども、販売価格も恐ろしく高価であるからフェラーリの収益には大きく寄与するであろう。フェラーリの2021年の売り上げは前年比23%増の48億ドルを達成し、年間販売台数も過去最高の1万1155台と発表されている。

ランボルギーニを訪問すると、本社工場の敷地がさらに拡大していることに気づく。1963年創業当時から使われているメインアッセンブリーライン内も大改装中だ。それは、新型V12エンジン搭載のPHEVである次期アヴェンタドールの生産に向けてのモノなのだ。ランボルギーニの2021年売上高は、過去最高の19億5000万ユーロと発表されており、販売台数8405台は同じく過去最高である。

ステランティスグループの一員となったマセラティも大忙しだ。ちょうど現地滞在中に新SUVモデルであるグレカーレが発表された。最量販モデルとして社運を賭けたモデルでもある。また、続く次期グラントゥーリスモやMC20のBEVモデルなど、電動化へ向けて多額の投資が行われているのだ。訪問した本社モデナ工場では、発表を控えたMC20コンバーチブルの生産準備中。市街地では、グラントゥーリスモBEVのカモフラージュモデルが疾走していた。前述の2ブランドとは少し異なった中規模の生産台数メーカーとしての道を選んだマセラティだが、2021年の売り上げは20億2100万ユーロと発表され、前年比41%増の2万4269台もの年間販売台数を記録した。
 

フェラーリ SP3▲フェラーリビジネスの象徴が、このSP3をはじめとする限定特別モデルたち。圧倒的な商品力とオーナーの所有欲を絶妙にくすぐる戦略で、世界トップのブランド力を維持し続けている
ランボルギーニ ウルス▲登場と同時に、ランボルギーニの主力モデルとなったウルス。3000万円オーバーの新車価格、最高出力650HP、最大トルク850N・mというモンスターSUVだが、いま社の売り上げを支える孝行息子となっている

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マセラティ MC20▲マセラティも、積極的にハイパフォーマンスのカテゴリーに新モデルを投入。2020年から発売されたMC20には、V6ツインターボエンジンを搭載。オープンモデルやBEVモデルの追加も発表されている

つまり、現在のスーパーカービジネスはきわめて順調と言ってよい。1973年に突如世界を襲ったオイルショックで壊滅的なダメージを受けたこれらのメーカーは、アジア通貨危機やリーマンショックも何とかやり過ごし、業績は大きな上昇基調にある。単にアイコニックな存在であるだけでなく、十分に儲かるビジネスとして花開いている訳だ。

その地位を確立するために、これまで十分に知恵を絞ったり、あるときはじっと耐え忍んできたこともあった。これらスーパーカーブランドは、なによりも顧客に夢を与えなければならない。だからこそ限られた数の顧客の属性や、彼らが何を求めているかを理解していなければならない。そこがこのビジネスの最重要ポイントである。

例えば、ランボルギーニ ミウラのエピソードを挙げてみよう。ミウラはその発表とともに、世界のセレブリティたちがこぞってオーダーを入れ、ランボルギーニの名を世界に知らしめることとなったモデルだ。まだ、発表当時はプロトタイプのようなものであったが、デリバリーを求める強い声にあらがうことはできず、いわば未完成のままに出荷せざるを得ないことにもなった。開発エンジニアであったジャンパオロ・ダラーラやパオロ・スタンツァーニはその対応のために翻弄されたという。結果、改良モデルであるS、そしてSVがラインナップされるころにはミウラは大きく進化していた。初期モデルとは別モノといっても過言でないクオリティになっていたのだ。しかし、満を持して発表したSVは全く売れなかったという。

当時、チーフエンジニアであり、ランボルギーニ全体のマネージメントも担当していたパオロ・スタンツァーニはこう語ってくれた。「ランボルギーニは、当時ディーラーをコントロールする力がなかった。本当は初期モデルを買い戻して、その顧客にSVを買ってもらわなければならなかった。しかし、それができなかったのです。初期モデルはあまりイメージの芳しくない、いわゆる裏稼業の人々の手に渡ってしまったケースが散見された。そんな彼らがミウラを得意げに乗りまわした訳です。だから、当初ミウラを応援してくれたような富裕顧客は一気に離れていってしまったのです」。

ブランドの価値とは、それを作りあげるメーカーと顧客の両者が揃って初めて成立するものなのだ。前述のフェラーリ デイトナSP3も、それまでフェラーリブランドに貢献してくれた顧客だけに案内される。そして、一般にデイトナSP3が発表される時には完売とアナウンスされる訳だ。売れる時に最大限売ってしまおう、そして売ってしまえばあとは関係がない……。そういうポリシーとは正反対のところにスーパーカービジネスはあるということなのだ。
 

ランボルギーニ カウンタック▲ブランドの絶対的なアイコンであるLP400を現代に復活させ、LPI 800-4として販売するランボルギーニ。ビジネスとして絶対に失敗できないビッグプロジェクトであり、今後の展開、評価に注目が集まる
ランボルギーニ ミウラ▲伝説スーパーカーであるランボルギーニ ミウラ。2006年には、新世代ミウラとしてヴァルター・デ・シルバが手がけたコンセプトモデルも発売されている。カウンタックに続く復活はあるのだろうか

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文/越湖信一、写真/マセラティ、フェラーリ、ランボルギーニ
越湖信一

自動車ジャーナリスト

越湖信一

新型コロナがまん延する前は、年間の大半をイタリアで過ごしていた自動車ジャーナリスト。モデナ、トリノの多くの自動車関係者と深いつながりを持つ。マセラティ・クラブ・オブ・ジャパンの代表を務め、現在は会長職に。著書に「フェラーリ・ランボルギーニ・マセラティ 伝説を生み出すブランディング」「Maserati Complete Guide Ⅱ」などがある。