2人だけの夫婦旅行は久しぶり。妻との関係の変化に「来てよかった」
2016/03/29
いつかの“憧れ”以上を手に入れて
夫婦での旅行なんていつ以来か。結婚生活29年目。今年で57歳になるが、2人で向かう箱根に胸の高鳴りを感じる。家族では、あんなに行き慣れた場所なのに、だ。
きっかけは、数日前に納車されたアウディ A6だった。クルマの買い替えがなんとも気分を高揚させ、妻を誘って旅行に出かけることにしたのだ。
家族をもってからは“便利な道具”になっていたクルマだが、若い頃はとても興味があった。社会に出てすぐ、心を打たれたのが「いつかはクラウン」というキャッチフレーズ。当時はクルマがステータスシンボルで、買えるわけもないクルマに憧れた。
子どもたちが独立し肩の荷が下りた私は“憧れ”を思い出した。これまで自分自身あまり意識していなかったが、私たちの世代にとってクルマとは、やはり特別な存在なのだ。
初めは新車でトヨタ クラウンアスリートを買おうと思った。しかし、私が想像もしていなかったことを妻は言った。
「でも、せっかくなら当時の自分に自慢できるモノがいいんじゃない? 憧れ以上のクルマ。例えば、アウディやベンツなんてどうかしら」
庶民ゆえの固定観念からか輸入車なんて自分には分不相応だと感じたが、乗る自分を想像すると笑みがこぼれる。さらに妻は「アウディがあなたに似合うと思うわ」と自分の好みを乗せつつも、コーディネイトまでしてくれた。
妻に背中を押され、アウディの購入を決意した。私の世代はクルマと言えばセダンだ。買うなら立派なサイズがいい。それでいて新車のクラウンと同じくらいの予算ということでA6を中古車で購入した。
当然というべきか、A6は素晴らしかった。アクセルを開ければどこまででもスムーズ。週末ドライバーの私ですらわかるほど、その違いは明白。運転が上手になった気すらする。
その走りは若い頃を思い出させてくれた。忘れていた滾り。男は“相棒”と呼べる乗り物を手に入れると滾るのだ。
そうして愛車を本日の宿「箱根 金乃竹」に乗り付ける。妻は普段の私からこの宿をチョイスする想像ができなかったのだろう。驚きと喜びが入り混じった声でこう言った。
「この後が怖いわ(笑)」
エントランスを抜け、部屋へと案内された。リビングとベッドルームを、真ん中に配置される部屋付き露天風呂がセパレートする斬新なレイアウトだ。
それほど疲れは感じていなかったが、私と妻、2人きりの旅行だ。思えば社会人として、父親として、慌ただしく過ごしてきた。そろそろ、のんびりと過ごすのもいいのかもしれない。そういう思いが、自然と湧いてくる。
出発前はいつもどおりだったが、車内から宿、そして風呂から食事へと時間を経るにつれ、普段と少し異なる会話をしていた。
開放的な部屋、窓から見える眺望、そして2人だけの空間。すべてがそうさせるのか。私がこれまで見たこと、聞いたこと、そして自分自身のこと……。いつになく多弁になる。
妻と会話するのが楽しい。話題が止めどなく溢れてくる。来てよかった。これだけでも、そう思える。
まだまだ話し足りず、宿併設のバーラウンジへ足を運ぶ。妻をバーへ誘うなど何年ぶりのことだろう。
私はすっかりその気になっていた。18年もののザ・マッカランを頼む。普段は高いウイスキーなど口にしないが、ムードも相まってとても旨い。……気がする。
調子に乗って「次はフェラーリでも買うか」と言い、妻にたしなめられる。だが、実は本気だ。クルマがこんなにも良いものとは思わなかった。スーパーカーに乗ったらどうなってしまうのか。諦めきれず「じゃあランボルギーニならいいか?」と続けてみた。
「あなた、ランボルギーニはフェラーリよりも高いのよ」
……知らなかった。耳たぶまで赤くなる。この恥はかき捨てよう。酔ったのをいいことにごまかす。
アルコールも手伝って部屋に戻るなり早々に寝入った。目が覚めると隣に妻の姿はない。ドレッサーへ目をやると髪を上げる彼女。久々に妻の美しさへ意識が傾く。
そうだ。昨日は照れくささから別々に入った風呂だったが、今日は一緒に入ろうと誘ってみよう。驚くだろうなと思い、同時に妻の反応を楽しみにしている自分に気づいた。
正直に言うと、夫婦だけでの生活に少しだけ不安を感じていた。離れていたとは思わないが、生活をともにするうち2人の距離がコリ固まっている気がしたのだ。
だが、それは杞憂だった。この箱根の名湯で体だけでなく、互いの思いもほぐれたように思う。
チェックアウトの後、彼女は笑顔だった。
「こういうのは一度きりじゃ効果がないのよ? これからは2人でちょこちょこ出かけましょう。来年は結婚30年よ」
やはり妻にはかなわないようだ。
憧れ以上のクルマを“相棒”にする
かつて憧れたトヨタ クラウン以上のクルマとなると、私たちの世代にとっては、やはりメルセデス・ベンツなどのドイツ車。結果アウディ A6を買ったが、購入を検討した高級車がどれも目移りするくらい素晴らしかった。
CREDIT
MAN:ジャケット16万円、ニット3万円、パンツ2万9000円/以上すべてポール・スチュアート(ポール・スチュアート 青山店03-3406-8121)、ベルト2万8000円、チーフ6500円、バッグ5万5000円/ともにポール・スチュアート(SANYO SHOKAI C.R.室0120-340-460)、シャツ9000円/アダム エ ロペ、時計1万9800円/テクネ(ともにアダム エロペ0120-298-133)、シューズ7万8000円/サントーニ(リエート03-5413-5333)、他私物
WOMAN:ニット2万4000円、カットソー7000円、ネックレス1万1000円、バッグ1万8000円/以上すべてエヴェックス バイ クリツィア(SANYO SHOKAI C.R.室0120-340-460)シューズ1万8000円/アグ(デッカーズ ジャパン0120-710-844)、他私物
LOCATION:金乃竹
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