フォルクスワーゲン タイプ2

【連載:どんなクルマと、どんな時間を。】
車の数だけ存在する「車を囲むオーナーのドラマ」を紹介するインタビュー連載。あなたは、どんなクルマと、どんな時間を?

運命の出会い、父親からのLINE

閑静な住宅街の一軒家。そこの庭に建てられたガレージにひっそりと佇む、“ワーゲンバス”ことフォルクスワーゲン タイプII。

映画やアニメのワンシーンのような光景である。

まさかこの車のオーナーが、まだあどけなさが残る25歳の青年だとは思わないだろう。
 

フォルクスワーゲン タイプ2

加藤祐馬さんがタイプIIを手に入れたのは2018年2月。“アーリー”と呼ばれる1967年以前の年式にこだわった。

見つけるのが大変だったのでは? と聞くと

「実はこの車は父が見つけてきたんです。ある日、『こんなのがあったぞ』と連絡が来て、実際にお店に見に行ったらすごくきれいだし、調子も良さそうだったので、思い切って買おうと」

1964年式、走行距離は不明、ドイツ→アメリカ→日本へと渡ってきた車らしい。

聞けば、加藤さんもお父さんもカーセンサーで珍しい中古車、おもしろい中古車を探すのが趣味で、「おっ!?」と思うものを探し出しては、LINEでURLを送り、「この車、知ってる?」「知ってるよ」というやりとりをしているという。

中古車を介した親子のほのぼのとするようなコミュニケーション、カーセンサーがその一助になっているというのは嬉しい限り。
 

フォルクスワーゲン タイプ2

ところで、加藤さんのような今の20代はミレニアル世代と称され、新しいモノ、機能を求めがちである。そんな彼が自分の父親と同じ年ほどのビンテージモデルを選んだのはなぜか。

その理由を聞いてみると、やはりお父さんの影響が大きいという。

物心ついたときから自宅には車雑誌があふれていて、加藤さんは絵本代わりにそれらを眺めていた。

「街を走る車は丸みを帯びたものが多いのに、僕は“ザ・四角”という形の車が好きで、気づいたら古い車ばかり見ていました」
 

周囲を笑顔にさせる不思議な車

フォルクスワーゲン タイプ2
▲フォルクスワーゲン タイプ2▲フロントウインドウが2枚に分かれているのがアーリーの特徴。塗装状態でもよく、前オーナーから加藤さんへ、車愛が受け継がれていることが伺える

彼の愛車遍歴は、運転免許を取得し初めて購入したポルシェ 914から始まる。この車によって、空冷エンジンのバタバタバタ……という音と乗り味のとりこになり、次に乗る車も絶対に空冷エンジンにしようと決めたそうだ。

そうして2台目の車に、空冷エンジンの音とファンタジーな空間を併せ持つ、タイプIIを購入することになった。

新宿や渋谷に乗って出かけると、外国人ツーリストや子供たちが手を振ってくれる。すれ違う人々を笑顔にするこの車に、どんどん愛着が湧いていったそうだ。

とくに気に入っているところを尋ねると、「室内空間」という答えが返ってきた。

このタイプIIは、1844年創業のウェストファリアが手がけたキャンパーモデル。運転席を反転させるとコの字ソファになり車体後方はベッドにもなる。

「どこを切り取っても非日常で、まるでファンタジーの世界から飛び出してきたみたい。外装もかわいく、内装は秘密基地のような雰囲気が好きで、友人と遊ぶと意味もなく車の中で過ごしたりしています」

存在自体がクラシカルかつファンタジーだからこそ、タイプIIは昔から多くの映画やミュージックビデオにも登場してきた。しかもそれらは大抵“ポンコツ”で、車が動かなくなるところからドラマが始まる……古い車である故、加藤さんのタイプIIは実際の走行はいかがなものだろうか?

「僕も購入時はある程度覚悟していたのですが、燃料ポンプのアースが外れたくらいであとは驚くほど快調です。 車検も今どきの車と、それほど変わらないくらいの値段で通せますし」

フォルクスワーゲン タイプ2
▲フォルクスワーゲン タイプ2 ▲非日常感にあふれたキャンピング仕様の室内。ここで仲間と話していたら、あっという間に時間が過ぎていくだろう

乗り込んだ瞬間から始まる非日常

とは言っても、トラブルがないわけでない。

以前、タイプIIに仲間3人を乗せ、千葉までキャンプに行く道中のこと。路肩に寄せてしばらく休んだ後、再びエンジンをかけようとしたが……うんともすんとも言わない。どうやらスターターが壊れてしまったらしい。

販売店に電話で教えてもらいながら、4人でエンジンの再始動を人力のみの押しがけで行うことに。

「上り坂だったのですが、販売店に電話で教えてもらいながら、ギアをリバースに入れ、押しがけを試みました。 何度も車を押して、下ってを、繰り返して、やっとエンジンがかかって。かかった瞬間はみんなで映画のようにハイタッチしましたね(笑)」

帰り道もエンジンがいつ止まるかヒヤヒヤした状態で運転したこと。今でも鮮明に覚えているという。

きっと同乗していた3人の仲間にとっても、利便性が極めて高められた現代の日常生活では体験できない“何か”があったであろう。

加藤さん自身も、これが一番の思い出だったと話す。
 

▲フォルクスワーゲン タイプ2▲こちらは石川県の「千里浜なぎさドライブウェイ」を訪れたときの1枚。タイプIIに乗ってから車の撮影が楽しくなったという

仲間らとともに本を出版、その思い

実は加藤さんには「編集長」という肩書きもある。出版業界で仕事をしているわけではない。車が好きな同年代でつくった「平成カーラバーズ」という団体で、雑誌を作るプロジェクトを立ち上げ、見事、出版に至ったのだ。

ちなみに、編集や取材、ライティングなどの専門知識や経験はゼロ。全くの素人だったが、気合いと根性と情熱、それから、同じ志をもつ仲間たちの協力で立派な雑誌を完成させた。

そして、この出版に終わらず、イベントやWebメディアなど、今後も様々な活動を企画しているそうだ。

「車好きかいわいって愛車のマウンティング論争とか、いがみ合いとか、そういうことが多いと思うんです。趣味って仲間がいてこそ成り立つもので、せっかくの“車好き”という共通項なのに。もっと大切にしてほしいなと。そして、その楽しい空間がずっと続いてほしいなと思って、この活動をしています」

自分の時間やお金を使ってでも、SNSやクラウドファンディングで声を上げてでも実現したいのは、彼の愛車が醸し出すオーラのようなピースフルな世界なのだ。

加えて、“もっと多くの人に車に興味をもってもらいたい!”という思いもあるので、個人的に、車以外のイベントへ展示協力をしたりもするそうだ。

その行動力に、彼の“本気”を感じる。

▲フォルクスワーゲン タイプ2▲加藤さんが仲間と発行した「平成カーラーバーズ」。この本の取材を通して多くの車好きの個性豊かな価値観にふれあったそうだ

30年後もタイプIIに乗り続けたい

タイプIIは、すでに50年前の車だが、加藤さんは、ずっと乗り続けるつもりだという。

「年上の車好きの方々に“若い頃乗っていた車に数十年後、もう一度乗りたくなった”という話をたくさん聞きました。僕も今手離したらきっと、もう一度乗りたくなると思うんです」

加藤さんがその諸先輩方と同年代になった頃「タイプIIに乗りたい」と思っても、乗れない可能性の方が高いだろう。今でさえ貴重な車だ。そもそも、ガソリン車に乗れる未来かもわからない。

それならこのまま人生をともにしよう。だからとりあえずは可能な限り“ずっと”、タイプIIは加藤さんの愛車であり続ける。

ガレージ▲この素敵なガレージはほとんどお父さんの趣味。好きなものに囲まれながら、息子と車の話に明け暮れる。想像しただけで心地いい時間だ
▲フォルクスワーゲン タイプ2▲お父さんのメルセデス・ベンツ 500Eと一緒に
▲フォルクスワーゲン タイプ2▲ドライブレコーダーの周囲に花を飾るというアンニュイ感もまた面白い
▲フォルクスワーゲン タイプ2▲シンプルなインテリアを黄色い花で彩る。青いチェックのシートもいい雰囲気
文/高橋 満(BRIDGE MAN)、写真/柳田由人
フォルクスワーゲン タイプII

加藤祐馬さんのマイカーレビュー

フォルクスワーゲン タイプII

●購入金額/約400万円
●年間走行距離/約2000㎞
●購入する際に比較した車/ポルシェ 911(タイプ930)
●マイカーの好きなところ/車とは思えない、ファンタジー感あふれるインテリア
●マイカーの愛すべきダメなところ/パワステが付いてないので駐車がいちいち大変(笑)
●マイカーはどんな人にオススメしたい?/運転していてもしていなくてもワクワクする車なので、ファンタジーな時間を過ごしたい人にオススメ

高橋満(たかはしみつる)

自動車ライター

高橋満(BRIDGE MAN)

求人誌編集部、カーセンサー編集部を経てエディター/ライターとして1999年に独立。独立後は自動車の他、 音楽、アウトドアなどをテーマに執筆。得意としているのは人物インタビュー。著名人から一般の方まで、 心の中に深く潜り込んでその人自身も気づいていなかった本音を引き出すことを心がけている。 愛車はフィアット500C by DIESEL