▲施主であるK夫妻の第一希望は“カニ目のためのガレージ”ということ。自邸の中にピットを作るという事について自動車の専門家に相談したという。第二希望は“愛車を眺められるように”ということ。当初はコンプレッサーやチェーンブロックなどもガレージ内に設置することを希望したが、予算やスペースなどを考慮してミニマム化していったそう▲施主であるK夫妻の第一希望は“カニ目のためのガレージ”ということ。自邸の中にピットを作るという事について自動車の専門家に相談したという。第二希望は“愛車を眺められるように”ということ。当初はコンプレッサーやチェーンブロックなどもガレージ内に設置することを希望したが、予算やスペースなどを考慮してミニマム化していったそう

高尾町の高台にあるプチイングリッシュガーデン

東京都八王子市高尾町。東京都のほぼ西端に位置するこの町は、奥多摩を中心とした山岳地帯と、その奥に秩父山系が連なる自然豊かな土地だ。高尾山は東京近郊で気軽な登山が楽しめることでも有名で、昨年圏央道が開通したことにより、従来以上に観光客が訪れるようになり賑わいをみせている。

その高尾の高台にある住宅地、そこが今回の目的地だ。正面から観察すると、明らかに周囲の住宅とは趣が異なっている。建物まで大きくセットバックしており、その十分な空間には2台分のガレージとエントランス、前庭などが設けられているのだが、それはまさにプチ・イングリッシュガーデンといえるような佇まいだ。

外ガレージに収まる2台はクラシックレンジとクラシックミニ。どちらも“クラシック”と形容されるモデルだ。「新しいモノにはあまり食指が動かない」という、オーナーであるK夫妻のコダワリが窺える。ちなみにレンジローバーはご主人、ミニは奥様専用車だ。また、一見伸び放題にも見える前庭のバラやハーブだが、じつはK夫人の計算によりデザインされていることがわかる。つまり、インナーガレージに向かって一直線に向かう動線に両側から伸びている木々は、ガレージに収まるモデルの全幅にピタリ合わせたサイズだったのだ。

正面から見るとわからないが、この土地の裏手は急峻な傾斜地。K夫妻は、初めて土地を見たときに、ひと目で気に入ったという。近くには枝垂れ桜の名所がありそれを見下ろすことができるなど眺望がすばらしいのだ。また、友人を集めてバーベキューパーティをひらく際にも隣家との距離が十分にあるためストレスなくできそう……といった部分も気に入った理由だ。

そんなK夫妻の希望がみごとに叶えられていることは、邸内に入り2階に上がった瞬間に理解できる。階段を上りきると、開けたテラスが現れ、目の前に高尾の山並みが望めるのだ。そのまま進むと、K邸裏側の急斜面の真上に位置するため、周辺の風景が俯瞰できる。有名な枝垂れ桜は右手前方にあり、桜の季節には、テラスで過ごす時間が長くなりそうだ。

肝心のガレージが後回しになってしまったが、階段の途中に設けられている小窓からチラリと顔を覗かせていたのは「カニ目」ことオースチン・ヒーレー・スプライト。しかも、最大の特徴である目の部分が覗き見できるように窓がレイアウトされているところがポイントだ。外ガレージの2台と同様、カニ目もグリーンのボディカラーをまとう。

おもてなしの心に満ちたバックヤードビルダー

ガレージへの動線は3パターン。車を出し入れするシャッターと、玄関脇のドア、そして地下室と繋がっているピットだ。掃除が行き届き清潔感あふれるガレージにはいくつもの窓が設けられ、日中は自然光がたっぷり注ぎ込む。また、工具やメンテナンス用品、趣味性の高いグッズなどが整然と並べられていることから、Kさんの几帳面な性格や愛車への深い愛情が感じられる。

いずれにせよ、じつに居心地のよさそうな雰囲気をもったガレージだ。メンテナンス時には、正面のシャッターと玄関脇のドアを両方とも開放し、明るく気持ちいい中で作業ができるそうだ。まるでイギリスのバックヤードビルダーのような、カーガイのためのガレージ……といったところだろうか。

ピットと繋がる地下室へは、エレベーターによるアクセスも可能。「サンダーバードの基地みたいなガレージ……」というイメージをもっていたKさんは、この地下室もお気に入りのひとつ。「ミニ用のパーツなら、ほぼ1台分揃っています」というほどさまざまなパーツが並び、3台分のスペアタイヤなども含めるとかなりのボリュームだ。

設計を担当したのは、建築家の大塚聡さん。K夫妻は大塚さんが設計した家を見て歩いたり、大塚さんの自邸を訪れたりと、大塚さんとK夫妻はともに約1年かけてプランを練っていった。

もともと車の運転はせず、車自体にあまり興味がないという大塚さんだが、だからこそKさんのガレージへの想いを時間をかけて熱心に受け止め、いかにしてそれを具現化するかに注力したそうだ。

Kさんの人柄の良さやK夫人のおもてなし、そして四季を通じて居心地のいい空間。つねに来客が絶えないということもうなずける。桜の季節にはぜひとも再訪をさせていただきたい。

▲クラシックレンジとミニも、オースチン・ヒーレー・スプライト同様にグリーンのボディカラーで統一。奥様の趣味であるガーデニングにも映え、イギリスの住宅街に迷い込んだような錯覚を覚える▲クラシックレンジとミニも、オースチン・ヒーレー・スプライト同様にグリーンのボディカラーで統一。奥様の趣味であるガーデニングにも映え、イギリスの住宅街に迷い込んだような錯覚を覚える
▲ガレージ自体の広さは十分だが、手前の植木はオースチン・ヒーレー・スプライトの車幅ギリギリ▲ガレージ自体の広さは十分だが、手前の植木はオースチン・ヒーレー・スプライトの車幅ギリギリ
▲「つねに愛車の気配が感じられるように」というKさんの希望は、階段わきの小窓にも反映されている▲「つねに愛車の気配が感じられるように」というKさんの希望は、階段わきの小窓にも反映されている
▲玄関を入って右手の壁面にも、オースチン・ヒーレー・スプライトの気配を感じられる小窓が設けられている▲玄関を入って右手の壁面にも、オースチン・ヒーレー・スプライトの気配を感じられる小窓が設けられている
▲ガレージには自然光がタップリと入るように窓が多く、実際のサイズ以上に広く感じる。また、メンテナンス関連のグッズや、ミニチュアカーをはじめとしたさまざまなアイテムが几帳面に並べられている▲ガレージには自然光がタップリと入るように窓が多く、実際のサイズ以上に広く感じる。また、メンテナンス関連のグッズや、ミニチュアカーをはじめとしたさまざまなアイテムが几帳面に並べられている
▲Kさんご自慢の2階のテラス。階段を上ると正面に遠景が広がり、バツグンの開放感が味わえる▲Kさんご自慢の2階のテラス。階段を上ると正面に遠景が広がり、バツグンの開放感が味わえる
▲カニ目のトレッドに合わせ、長さは「できるだけ!」長くとった。ガレージからはハシゴで、邸内からはエレベーターと階段でアクセスできる▲カニ目のトレッドに合わせ、長さは「できるだけ!」長くとった。ガレージからはハシゴで、邸内からはエレベーターと階段でアクセスできる
▲2階リビングルーム。広いガラスエリアにより、その開放感は隣接するテラスに匹敵するほど。正面の薪ストーブは、煙突が吹き抜けの3階天井まで続く。左上に見えるのは3階にあるKさんの仕事場▲2階リビングルーム。広いガラスエリアにより、その開放感は隣接するテラスに匹敵するほど。正面の薪ストーブは、煙突が吹き抜けの3階天井まで続く。左上に見えるのは3階にあるKさんの仕事場

【崖の上に建つカニ目の家 設計・監理:大塚 聡】
■今回のこだわり:ガレージやピットの作りなどはKさんからイメージを伝えてもらい、それが建築的に可能か否かを判断しながら進めた。とくに苦労した点は、土地が急斜面にあることで、施主の要望である“屋外に2台駐車したい”と“ガーデニングをやりたい”ということを汲むと、擁壁(ようへき)を越えないとスペースが取れないことになり、結果ガケから飛び出すような作りになってしまうことでした
■主要用途:専用住宅
■構造:RC造地下1階+鉄骨造3階建
■敷地面積:515.06平米
■建築面積:120.69平米
■延床面積:289.30平米
■設計・監理:大塚 聡アトリエ一級建築士事務所
■TEL:03-6913-5410

text/菊谷聡 photo/木村博道


※カーセンサーEDGE 2015年12月号(2015年10月27日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています