不利な立地条件をクリアし巧みな動線を確保

人気の高級住宅街。少し奥まった一角に、ポルシェ911を格納する素敵なビルトインガレージがあった。長いアプローチを必要とする立地を生かした動線とは?

2台の動線がカブらないように
緻密なシミュレーションを実施

横浜市青葉区は、都心近郊でも人気の高い住宅地だ。整備された街並みには、オーナーの趣味が生かされた住宅が並ぶ。今回訪れたS邸は1軒分奥に入った、いわゆる「旗竿敷地」と呼ばれる立地にある。表の通りから観察すると、長いアプローチの奥に広い面積のルーバーを備えたベランダが大きく張り出していることがわかる。白い壁面とウッド素材との色のマッチングが、落ち着いた雰囲気を醸し出す。


設計は建築家の黒崎敏さん。設計にあたり施主であるSさん夫妻から出されたオーダーは、①広がりのある空間が欲しい ②光と風が抜ける家にして欲しい ③2台分の駐車場を確保し、愛車のポルシェ911はビルトインにしたい ④小さくても書斎が欲しい ⑤全方向を見渡せるコックピットのようなキッチンにしたい…などが代表的なもの。

クルマの環境としては、S夫妻の希望どおり911はビルトインガレージに格納され、奥様の愛車であるVW トゥアレグの大型サイズでも余裕で格納できるピロティガレージが、アプローチの突き当たりに用意されている(取材時はサービス入庫中のため代車のBMWを使用中)。木製のオーバースライダーを開けると、白で統一された壁面にブラックボディの911が映える。白い壁とガラスで構築された空間はクールで静謐な空気に満たされ、911に相応しい。

Sさんの希望にあった書斎は、ガレージから廊下を隔てて存在する。わずか2畳にも満たない広さだが、デスクで読書やPCでの作業をするには十分。しかも廊下との壁面はガレージ同様にガラス製だから、書斎のデスクに座ったまま愛車を眺められるというわけだ。これらの造形について黒崎さんは、

「愛車のフォルムを内部からも楽しむために透明ガラスを使用するアイディアや、ガレージサイドに書斎を設ける案には私も共感しました」
とのこと。施主のアイディアを建築家が具現化した好例といえるだろう。また、ガレージ周辺の設計で苦心した点は、
「バックで直角に曲りながら入れるため、ガレージドア面のセットバック寸法を最小限にとどめながら細かくシミュレーションしました」
と、黒崎さん。

Sさんの希望にもあるように、2台のクルマの動線がカブらないように設計されている点も見逃せない。敬遠されがちな不利な立地条件でも、かえって新しい発見を生み出す素材になるということを学ばせてもらった。

S邸・旗竿敷地の家
建築家・黒崎 敏

tel.03-6272-5828
所在地:神奈川県横浜市 主要用途:専用住宅
構造:木造 敷地面積:157.31㎡ 建築面積:62.84㎡ 延床面積:104.19㎡
設計・監理:黒崎 敏/株式会社APOLLO 一級建築士事務所

文・菊谷 聡 text / KIKUTANI Satoshi
写真・木村博道 photos / KIMURA Hiromichi

子供部屋や寝室、書斎とつながる中庭。すべての部屋へ自然光をたっぷりともたらす空間だ

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911に似合うクールな雰囲気だが、木製スライダーによって柔らかみが出ている

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2階のリビング&ダイニングルームの天井に傾斜をもたせることで広がり感を強調する。両側に設けられた窓からも十分すぎるほどの自然光が降り注ぐ

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小さくてもクルマの雰囲気が感じられるようにしたいという施主の希望を実現した書斎からの視界

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