町屋を意識したシンプルさが魅力

曇りガラス越しにうっすらとフォルクスワーゲンタイプ2が見えるK邸はアットホームな家族のためのに木の素材が生み出す温もりを大切にしている。

ナチュラルな素材で居心地の良い空間を演出

古民家を連想させるようなシンプルな外観。その中に展開する人間味溢れる空間。屋内には1979年式のフォルクスワーゲン・タイプ2が収められていた。今でも根強い人気を誇る“ワーゲンバス”である。このK邸を拝見した第一印象は「施主のKさんは、タイプ2を住宅にしたかったのだな」というもの。機能性と実用性を重視し、乗り手(住まい手)が快適に楽しく、つねに笑顔で過ごせる空間。まさにタイプ2そのものである。

ガレージを覗けば、Kさんがアウトドアフリークであることは明白。タイプ2がキャンパーであることはもちろん、納戸にはキャンプや釣り道具一式、スノーボードなどが格納されている。Kさんのアウトドアスタイルは、事前に綿密な計画を立てるのではなく、思い立ったときに突然出掛けることが多いという。宿泊施設ではなく、道の駅などにタイプ2を駐車して寝ることも少なくないらしい。

そんなKさんのニーズを満たすために、この家は人間の動線とライフスタイルとが巧みにリンクしていることが特徴だ。リビングやキッチン、そしてガレージがひとつの動線として繋がっているため、遊びでも家事でも人間が動きやすい。

設計担当は建築家の若原一貴さん。Kさんとの出会いは「複数の設計事務所にプランを出してもらったところ、若原さんの提案が自分のイメージ通りだったのです」とKさん。その後、邸内のコンセプトなどは打ち合わせを重ねながら構築されていったようだ。設計にあたり若原さんが意識したことは、

「タイプ2は現在の車と違い、鉄の質感が強いので、家も素材感や材料の“素のよさ”を重要視しました。また、Kさんのライフスタイルに合わせて、家も便利にしすぎない、ナチュラルに過ごせることを意識しています」

リビングルームは円形の掘りごたつを中心に、スギやヒノキを多用した和の趣。そこからはシンプルでありながら本物に囲まれた生活と、家族のコミュニケーションを大切にする古き良き日本文化が感じられる。K邸は、どの空間に身を置いてもどこか郷愁にも似た安らぎを覚える。また、タイプ2が建物と一体になっているとともに、Kさんファミリーも建物や車と同化し、空間のひとつとして溶け込んでいる。いずれも、Kさんと若原さんの思いが合致した結果、生まれたものだ。

八王子のガレージハウス
建築家:若原アトリエ

tel.03-3269-4423 http://www.wakahara.com
所在地:東京都八王子市 主要用途:専用住宅
構造:木造 規模:地上2階 敷地面積:104.11㎡ 延床面積:96.88㎡
設計・監理:若原アトリエ/若原一貴
施工・管理:アーキッシュギャラリー/東京ギャラリー

文・菊谷 聡 text / KIKUTANI Satoshi
写真・木村博道 photos / KIMURA Hiromichi

リビングの窓は、掘りごたつに座ったときに隣家の視線と重ならないよう壁の下側に配置している

1ルーム構造の2階は、真ん中の階段が仕切り代わり。手前が子供部屋、奥が寝室となっている

ガレージの入り口は、建物に対して斜に構え、外観上のアクセントとしている。左右どちらにも開くガラス戸とガレージは、玄関へのアプ ローチも兼ねている

キッチンの天井は風が通り抜けるようにルーバーを使う。2階のインナーデッキへ繋がり、子供部屋にいる子供たちと、そのまま会話できる