M・ベンツ Eクラス▲人気絶版モデル「W124型こと5世代前のメルセデス・ベンツ Eクラス(1985年~1995年生産モデル、ちなみにミディアムクラスとしては1993年までの生産)」の専門販売店にて取材した模様をお届けする

雑誌の方の特集では書ききれなかったこと

2020年3月19日発売のカーセンサー5月号では、「絶版厳選6モデルを購入目線で徹底リサーチ 今乗ってもカッコいい!」と題した特集を掲載している。

「何事も流行は20年周期で繰り返される」ということで、最近は自動車の世界でも、20年ほど前のモデルに「今乗りたい!」と考える人が増加中。そんなトレンドを背景に、人気のネオクラシック系6モデルに関する徹底的なバイヤーズガイドを展開している大特集だ。

とはいえ紙の雑誌にはどうしても「紙幅の制限」がある。そしてなおかつビギナー向けに特化した特集内容であったため、取材はしたものの、誌面では紹介できなかったネタも実は山ほど残っている。

そこでここでは、同特集に掲載されたW124こと5世代前のメルセデス・ベンツ Eクラスについての「エディターズカット/完全版」を、非ビギナーな各位に向けてお届けしたいと思う。
 

直せば直る。だからW124は生き残った

いきなり私事となってしまうが、筆者こと伊達は今から15年ほど前、絶版ドイツ車を主に取り扱う月刊誌の編集長をしていた。その関係で週に8日は(?)W124の取材をしたり、あるいは編集部員が取材したW124関係の原稿をチェックしたりしていた。

その後はW124に触れる機会がほとんどなかったため、今回、横浜市の専門店「I’DING(アイディング)」で行った取材は、自分にとっては「約15年ぶりのW124案件」であった。

そこで気がついたのは、その後の15年間で変わってしまったことも多いが、しかし「まったく変わっていないこと」も実はけっこう多いな――ということであった。

まったく変わっていないことのひとつは、まさにこのお店、アイディングである。というか、アイディングに代表される「熱心で良心的な専門店の存在」だ。

15年前の時点ですでに「ちょっと古い車」であったW124型メルセデス・ベンツ Eクラスは、アイディング――だけではないが、アイディングのような「W124をちゃんと直すための知識と技術、そして意欲」をもっている専門店に支えられていた。

その後の15年間で世の中の多くの事象は流転したが、アイディングは今も変わらず繁盛し、今も当時とたぶん変わらない品質のW124を販売している。……15年経っているのに「変わらない品質」というのも、よく考えると機械として凄い話だが。

15年も経っているのになぜ、当時とほぼ変わらぬ品質のW124が販売されているかといえば、理由は2つある。

ひとつは、W124という車が「直そうと思えば直る車だから」だ。

まぁどんな車だって直そうと思えば基本的には直るわけだが、昨今の自動車は部品のモジュラー化や電子制御化が極端に進んだため、「寿命を迎えた機械部品1コを交換すれば直ります」というレベルではなくなっている。率直に言って「新しいのに買い替えちゃった方がラク」みたいな場合も多いのだ。まるでAI家電のように。

しかしW124は、さらに往年のメルセデスと比べてしまえば現代的でコストコンシャスな車ではあるものの、ギリギリ往年系であるため、「部品を替えてやればフツーに生き返る」という最後の世代なのだ。

そしてメルセデスはその純正部品を今なお普通に供給しており、サードパーティなどが作る非純正の代替パーツも、依然として豊富に流通している。その結果としてW124型メルセデス・ベンツ Eクラス(あるいはミディアムクラス)は、いわば「半永久的な命」をもつ車となったのだ。
 

M・ベンツ Eクラス▲こちらは新車発売時の広報写真

「直る車」も、それを直せるお店があってこそ

だが、そこにW124という車があり、修理するための部品類もあったとしても、それだけでは「半永久的な命」は生まれない。

筆者の引退(?)から15年も経っているのに、当時とほぼ変わらぬ品質のW124が販売されている2つめの理由。それは「店」というか「人」というか、とにかく「熱心で良心的な専門店が相変わらず存在しているから」だ。

筆者が現役だった時代からそうだったが、今なお白濱勝秋さん(アイディング代表取締役)のW124に対する熱意というか真面目さというか何というかには、敬服せざるを得ないものがある。
 

アイディング株式会社の代表取締役▲アイディング株式会社の代表取締役、白濱勝秋さん。1995年9月の創業以来約25年にわたり、「ちょっと古いメルセデス」の整備と販売に従事している

例えば「I’DING(アイディング)」のこちらの物件、90年式の260Eだ。

パッと見だけでも「あ、これはたぶん悪くない1台だな」という雰囲気をもっているミディアムクラスだが、整備履歴を見れば、その予感は確信に変わる。
 

M・ベンツ Eクラス▲非常に珍しい「赤いファブリック内装のディーラー車」である90年式260E。走行8.2万kmのワンオーナー車で、整備データは計35枚が揃っている

メンテナンスについてはかなり神経質だったと推察される前オーナーが入庫させた点検整備の伝票が12枚残っており、その内容というか深度もかなりのもの。おそらくだが、そこから特に整備をプラスせずとも、この90年式260Eはごく普通に動くは動くだろう。

だがアイディング白濱氏は「や、それだけでは足りぬ!」と叫んだかどうかは知らないが、とにかく徹底的な、ここでは書ききれないほどの点検および必要な部品交換をプラスした。

そこまでしているのに車両価格はまずまず安価に抑え、そのうえで「ま、それでも乗ってるうちに要交換となる部品は“必ず”出てきますから、半年に一度はオイル交換がてら、ウチで下まわりをチェックさせてくださいね」とお客に伝えながら、この種のW124を販売している。

販売先も決まっていない車両の整備にそこまでのコストをかけてしまうと、初回販売時にはさほどの利益が出ず、下手をすれば赤字になってしまうようにも思える。だが白濱さんは――赤字かどうから知らないが――笑顔で「ま、それでいいんですよ」と言い切る。

おそらくそれは、「良い素材に圧倒的な点検と整備を施し、それを比較的安価なプライスで正直に販売すれば、それを買ったお客はきっと『長く太いお客』になってくれる――つまり、後の整備や“次の1台”で必ずまたウチを使ってくれる」という自信と確信の現れなのだと推測する。

まぁそのあたりの胸の内はご本人のみぞ知るところだが、いずれにせよこういった専門店の存在と、そういった専門店が世に送り出したW124の素晴らしさに心を打たれたユーザーの存在が、筆者が現役だった15年前も、そして今も、W124という車の「半永久的な命」を支え続けているのだ。
 

W124のバトンは若い世代にも受け渡された?

以上がW124という車にまつわる「今も昔も変わらない部分」なわけだが、とはいえ15年も時間が経過すると、さすがにいろいろな変化も生まれている。

例えば、エンジンハーネス(エンジンルーム内の配線を束ねた太いコード)だ。

以前は中古W124の定番ウイークポイントとされていた部分で、筆者は数年前、どこかで「W124を買うならエンジンハーネスを新品に替えるか、または直近に交換されているかどうかを記録簿で確認しましょう!」みたいなことを書いた記憶がある。

だがアイディングによればその情報はもはや古く、「最近のほとんどのW124はエンジンハーネスがすでに一度交換されています」とのこと。……情報のアップデートができていなかった自身の不明と怠慢を恥じたい。

逆に最近は、経年によりディファレンシャルギアのシールが劣化し、デフ内部のオイルが漏れ出てしまっている個体が増加中だという。

これは素人が展示場で「見てわかる」という部分ではなく、なおかつ異音の有無で判定することもできない(デフから異音が出る頃には、すでにオイル漏れの段階を越えて「危険水域」にまで達している)。
 

M・ベンツ Eクラス▲こちらの写真はデフではなくアッパーマウントだが
M・ベンツ Eクラス▲つや出し剤などが塗られてテカテカになっているエンジンルームもしばしば見かけるが、このようなナチュラル系の方が「最近交換された箇所」や「ゴムのひび割れ」などを判別しやすいため、基本的には望ましい

それゆえ「展示場でしっかり確認しましょう!」みたいなありがちアドバイスは、この場合は無意味。ここについてはもう「そういうとこまでしっかり点検している販売店を選びましょう!」ということしか、具体的な解決方法はない。

また、筆者が現役だった頃は「主におじさんが好む車」だったと言えるW124だが、最近は――まあ相変わらずおじさん比率も高いが――比較的若い世代が、そのクラシカルなビジュアルや「本物っぽさ」に憧れ、ネットでこまごまと調べたうえで買いに来るケースも増えているという。

そういった若い世代が、今から15年後あるいは20年後も、W124という「直せばいつまでも乗れる車」の命をしっかりつないでいてくれることを、おじさんの一人である筆者は草葉の陰から願っている……って、まだ死んではいませんが!
 

文/伊達軍曹、写真/篠原晃一、ダイムラー

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伊達軍曹

自動車ライター

伊達軍曹

外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。現在は「手頃なプライスの輸入中古車ネタ」を得意としながらも、ジャンルや車種を問わず、様々な自動車メディアに記事を寄稿している。愛車はスバル XV。