アウディ A4オールロードクワトロ ▲先代アウディ A4アバントをベースに作られた先代アウディ A4オールロードクワトロ。写真はT.U.C. GROUP 輸入車専門 横浜港南店が販売する走行3.5万kmの2012年式で、車両本体価格は205万円

素敵だがやや希少な存在といえる輸入クロスオーバー

こちらは、雑誌「カーセンサーEDGE」で8年以上続いている自動車評論家MJブロンディさんの長寿連載「EDGEセカンドライン」のB面である。すなわち、なぜかその取材現場に同席している自動車ライター伊達から見た「同じ車の別側面」だ。

第9回目となる今回は、2020年1月27日発売のカーセンサーEDGE 3月号で取材した2012年式アウディ A4オールロードクワトロのB面をお届けする。

本編に進む前に、先代アウディ A4オールロードクワトロという車に関するごく簡単な解説を。

先代アウディ A4オールロードクワトロは、先代のアウディ A4アバント(2008年8月~2016年3月)をベースに作られたクロスオーバーモデル。

まず2009年2月に欧州で発売されたそれは、先代A4アバントの最低地上高を180mm上げ、ボディ前後のステンレス製アンダーガードや樹脂製のオーバーフェンダーなどにより、実際の悪路走破性と「SUV風味」を強めたモデルだった。

日本市場では2010年11月、まずは250台が限定発売。こちらの搭載エンジンは最高出力211psの2L直噴ターボで、トランスミッションは7速のSトロニック(DCT)。駆動方式は当然ながらクワトロシステム(フルタイム4WD)だ。

このモデルは翌2011年8月にも300台が限定発売され、さらに2012年8月にはA4アバントのマイナーチェンジに伴ってA4オールロードクワトロの方も後期型となり、外観デザインを変更するとともにリアビューカメラを標準装備。これも200台限定で発売され、今回の取材車両はこのとき販売された1台である。

このように限定車として小刻みに販売されてきた先代アウディ A4オールロードクワトロは、2013年10月にも小変更(2L直噴ターボエンジンが211psから224psに)を受けた世代が250台限定で発売。そして2014年8月にようやくカタログモデルになったと思ったら、2016年9月にはフルモデルチェンジによりお役御免となった。

以上が、先代アウディ A4オールロードクワトロのざっくりとした概略およびヒストリーである。

現在、中古車の流通量は全国30台とやや希少で、モデル全体の相場は100万~300万円付近。今や少々古く見える前期型の相場は100万~170万円といったところで、まだまだシュッとして見える後期型は170万~300万円あたりだ。
 

アウディ A4オールロードクワトロ▲専用サスペンションの採用により、ベースとなった先代A4アバントと比べて最低地上高は160mmにかさ上げされており、その他SUVらしい無塗装のオーバーフェンダーなどが採用されている

先代と現行型の形の違いは「間違い探し」レベル?

で、このB面にて筆者が考えたいのは「先代と現行型の違い」についてである。

というのも、先代A4オールロードクワトロ(の後期型)と現行型A4オールロードクワトロのビジュアルは、筆者の目には「ほとんど同じ」に見えるからだ。

「それはお前の目が節穴だからだろ!」という意見もあるかと思う。まあ筆者の目が節穴であることは特に否定しないが、それでも、下記2枚の写真をとりあえず見ていただきたい。
 

アウディ A4オールロードクワトロ▲こちらが先代アウディ A4オールロードクワトロの後期型
アウディ A4オールロードクワトロ▲そしてこちらが現行型

……いかがだろうか? 「もちろん違うっちゃ違うんだけど、おおむね似たようなモノ」と考えることもできるのではないか――と思っている。

「であるならば、車両価格だけで670万円もして、その他オプション装備代とかもいろいろかかる新車より、総額200万円台前半ぐらいでも狙えちゃう“先代後期の中古車”で十分なんじゃね?」というのが、ここで筆者が提案したい内容の骨子である。
 

当然ながら総合力は現行型の方が断然上だが

だがもちろん、似たようにも見える両者の細部はいろいろ異なっている。

まずは車としての基本部分がそもそも大きく違う。現行型の方は、その車台がMLB Evo(モジュラーロンギチューディナルマトリックスエボ)という、舌を噛みそうな名前の新世代プラットフォームに変更された。これがもたらす乗り味は、すさまじいまでにスムーズである。

さらに現行型は4WDのクワトロシステムも新開発のものとなり、後輪への動力伝達を完全にカットする機構が備わった。つまり現行型は「完全なFF車としても走れる4WD車」になったわけで、都市部で普段づかいする際には燃費等の面でかなり重宝することは間違いない。

またいわゆる先進安全装備の類も現行型はかなり充実している。

2014年8月にカタログモデルとなった先代にも15万円のオプションである「アシスタンスパッケージ」というのはあった。これはアダプティブクルーズコントロールやアクティブレーンアシストなどがセットになっていたものだ。

しかし現行型はそんなレベルではない。

カメラと複数のセンサーを用いた衝突予防システムや、衝突時の乗員保護能力を高めるシステム、あるいは車線逸脱予防システムなどが標準装備となり、さらにアダプティブ・クルーズ・コントロールには渋滞時のドライバーの負担を軽減する「トラフィックジャムアシスト」機能も備わった。

また身も蓋もないことを言ってしまえば、両者は「エンジンの力強さ」も大きく異なる。

先代A4オールロードクワトロの2L直噴ターボエンジンの最高出力は211psまたは224psで(※時期によって異なる)、これはこれで十分パワフルなエンジンではあった。

しかし現行型の2L直噴ターボは最高出力252ps。……これは2.7LのV6ツインターボだった2代目S4(アウディのけっこう強力なスポーツセダン)に近い数字であり、高速道路における「余裕」みたいなものは、先代と現行型ではずいぶん異なるのだ。
 

アウディ A4オールロードクワトロ▲2012年8月発売のモデルまで搭載された最高出力211psの2L直4直噴ターボエンジン。もちろん、これはこれで十分以上にパワフルかつトルクフルなエンジンではある
アウディ A4オールロードクワトロ▲最新世代アウディ車のインテリアデザインと比べてしまうとやや「時代」を感じるが、それでもまずまずシュッとしてる感は強い取材車両のコックピット

特上寿司はうまい。でも「上」だって十分うまいじゃないか!

以上のとおり羅列した先代と現行型の違いから導き出される合理的な結論は、さしあたって下記となるのが道理であろう。

「似たようなビジュアルではあるけれど、中身的には、どう考えても現行型の方がぜんぜんいい」

これに関しては筆者も基本的には完全アグリーだ。もしもカネが潤沢にあるのであれば、どう考えても現行型の新車や高年式中古車を買った方がいい。

だが、ここであえて議題として挙げたいのは「お寿司の特上問題」についてだ。

……少しの間だけ車の話題から逸れるが、どうか付いてきてほしい。

ご承知のとおり、寿司には一般的に「並・上・特上」がある。場合によっては松・竹・梅と呼称されているかもしれないが、とにかく、ある。

どうせ寿司を食うのであれば並より上、いやできれば特上を食いたい! と思うのが人情であろう。それはわかる。

だが同時に忘れてはならないのは、「特上がおいしいのは言わずもがなだけど、上だって十分以上におしいんだから、上寿司でも十分シアワセじゃね?」という感覚だ。

これを「庶民感覚」と呼ぶか「足るを知る」等と呼ぶかは各位に任せるが、超大金持ちの資産家でもない限り、持っていた方が何かと有利になる人生のセンスである。
 

アウディ A4オールロードクワトロ▲シートはミラノレザーの本革シートが標準装備となる。取材車両のそれは表皮のコンディションも良好

このお寿司の「並・上・特上」を車に当てはめてみると、現行型のアウディ A4オールロードクワトロは間違いなく「特上」に相当する。本当に素晴らしい、ちょっと高い以外はまるで欠点のないクロスオーバー車だ。

だが先代のA4オールロードクワトロが「並」あるいは「20時を過ぎたから半額になったスーパーのパック寿司」なのかといえば、断じてそんなことはない。

特上寿司と比べてしまえばイマイチかもしれないが、そこらのテキトーな寿司と比べるならば断然おいしくて素晴らしい「上寿司」なのだ。先代A4オールロードクワトロのコンディション良好な中古車は、今乗っても十分以上に「うむ、いい!」と感じられるクロスオーバー車である。

もちろん先進安全装備の類を最優先するのであれば、選ぶべきは現行型の一択となるだろう。

だが、もしもそこが貴殿にとっての最優先課題でないのであれば――先代アウディ A4オールロードクワトロ(後期型)の良質中古車という「上寿司」は、なかなか魅力的な選択肢のひとつである。
 

文/伊達軍曹、写真/大子香山、アウディ
伊達軍曹

自動車ライター

伊達軍曹

外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。現在は「手頃なプライスの輸入中古車ネタ」を得意としながらも、ジャンルや車種を問わず、様々な自動車メディアに記事を寄稿している。愛車はスバル XV。