年次的にはロートルなランエボIVだが、22年落ちの中古車でもバリバリの「現役」だった!【伊達軍曹の中古車試乗千本ノック】
2019/11/28
WRCを彩った三強の一角、ランサーエボリューション
2020年の11月、世界ラリー選手権(WRC)の日本ラウンドが10年ぶりに復活する。そのニュースを聞いた瞬間から気になっていたのが1990年代の国産車、具体的には三菱 ランサーエボリューションとスバル インプレッサWRX、そしてトヨタ セリカGT-FOURについてだった。
1990年代初頭から半ば頃にかけては、この3車のグループAカー(市販車の形状を完全に残したうえで、規定で許される範囲内の改造を施した競技用車両)がWRCの超トップレベルで暴れまくった黄金期だった。
だが、そういった黄金的グループAカーのベースとなった市販車の新車や中古車は当時、まだ青年と言える年齢だった筆者にとっては高額で、まったくもって手が出なかった。
しかし、見事に中年となった今、さすがにほんの少々のカネなら持っている。そしてそれら「伝説の市販車」も見事に中古車となったことで、まあまあお安い相場になっている。
……今なら買えるのではないだろうか? いや今こそ、自分はアレを買うべきなのではないか?
そのような存念のもと過日、筆者は97年式トヨタ セリカGT-FOURの試乗を行い、「うむ、なかなか良いではないか!」との結論を出すに至った。
ならば、お次は「ランエボ」である。
ランエボこと三菱 ランサーエボリューション。三菱 ランサーという小ぶりなセダンに2Lターボの強力なエンジンとフルタイム4WD機構をぶち込んだ、WRCで勝つために生まれた一連のシリーズである。
その初代は、4代目三菱 ランサーをベースとして92年に誕生。94年に登場した通称エボIIのワークスラリーカーは徐々にWRCの舞台で頭角を現し、1995年のスウェディッシュラリーでWRC初勝利を飾る。
そして、1995年にはさらにEVOLUTION(進化)した通称ランエボIIIが登場し、そのワークスマシンはトミ・マキネン選手のドライブによって爆勝街道を進み、1996年シーズンのドライバーズチャンピオンとなる。
そして、ベースとなる「普通のランサー」のフルモデルチェンジに伴って1996年8月に発売となったのが今回の試乗車、三菱 ランサーエボリューションIV。通称「ランエボIV」である。
今となってはなんとも小ぶり。そして乗り心地は意外と快適!
試乗車両の「中古車としてのスペック」は下記のとおりだ。
●年式&車名:97年式三菱 ランサーエボリューションIV
●車両本体価格:158万円
●その他要件:検R03年9月/走行6.8万km/スティールシルバー/修復歴なし/記録簿付
そして「車としてのスペック」は、おおむね下記のとおりだとまとめられよう。
●エンジン:2L直4DOHCターボ
●馬力等:最高出力280ps/6500rpm 最大トルク36.0kg-m/3000rpm
●寸法:全長4330mm x 全幅1690mm x 全高1415mm
●車両重量:1350kg
●特記事項:AYC(アクティブ・ヨー・コントロール )をGSRに採用
●WRCでの戦績:1997年シーズンの初戦から1998年シーズン第4戦までの計18戦にワークスグループAカーが出場し、うち6戦で優勝。1997年シーズンはランエボIVに乗るトミ・マキネン選手がドライバーズチャンピオンに。
輝かしい戦績であり、当時の自主規制値いっぱいであった「280ps」というワードにもグッとくるが、今となっては特筆すべきはスリーサイズだろう。
「全長4330mm」というのは現行型ホンダ フリードプラスよりほんの少々長い程度であり、「全幅1690mm」に至っては、コンパクトカーである現行型ホンダ フィットより5mm狭い数値だ。
「……昔のセダンってのは小さかったんだなぁ」などとブツブツ言いながら車内に乗り込むと、確かに小ぶりである。ボディの四隅に「運転席から手が届く」ということは実際にはないが、「まるで手が届くかのよう」な感触は確実にある。
この部分をどう評価するかは人それぞれだろうが、筆者としてはこの「手のひらサイズ感」はとても好ましいものに思えた。また単純に「懐かしい!」というのもある。そういえば、ほんのちょっと前まではほとんどの車がこんな感じだったのだ。
シートは純正のレカロ製バケットシート。年式相応のややくたびれたビジュアルではあるが、コシはまだまだ十分。また「さすがはレカロ」といったところか、身体にぴたりとフィットする感覚は非常に楽ちんであり、見た目ほどの「スパルタンな感じ」はない。
助手席にはカメラマン氏が乗り、後席には推定身長177cmのカーセンサー編集部員K氏が座る。やや長身のK氏だけあって足元スペースは窮屈そうだが、本人いわく「や、ぜんぜん大丈夫っすよ。快適っす」とのこと。うむ、昔は180cm級の人間だってこのぐらいの後席に座っていたのだから、快適かどうかは知らないが、「大丈夫」であることだけは間違いないだろう。
エンジンを始動させ、ほんの少々の暖機ののち、幹線道路へと滑り出る。まずはユルユルと、身体と車をなじませるように走らせたわけだが、低中速域での乗り心地は予想に反して「快適」である。
や、もちろんそれは「現行型トヨタ クラウンのように快適」という意味ではないわけだが、段差などを越える際にもキツい突き上げ感のようなものはほとんど感じられない。それでいて「ショックアブソーバーが終わってるからフワフワで怖い」というわけでもない。
このぐらいならおそらくギャルも納得であり、燃費のことさえ無視すればファミリーカーとして使うのも十分アリと感じられた。
思わず声が出るほど鋭い加速。そして抜群の安定感
では、車と身体がある程度なじんできた頃合いを見計らい、少々だがアクセルを「踏む」ことにしよう。
こ、これは……。
速い。鬼のように速い。
もちろん、(今となっては)たかが280psであるため、目と反射神経がおっつかないほど速いわけでは決してない。だがスポーツカーというものに慣れていない人が助手席に乗っていたとしたら、彼または彼女にとって「人生初体験」ぐらいのジェット機的怒涛の加速感を、この22年落ち中古車は味あわせるだろう。
正直、ランエボIVといえばもはや年次的にはロートルであり、経年による出力の低下などもあるはずなので、「まぁ今となってはかったるい加速にしか感じられないのだろうな」と、試乗前には予想していた。
だが、予想は良い方向に裏切られた。
このジェット機感は、約20年前に若手編集者だった筆者が運転した新車(広報車)のランエボIVのそれとほぼ同じであった。また2019年のハイパワー車に慣れ、スレてしまった現在の筆者に対しても「うおっ、速くて安定してて気持ちいいじゃん!!!」と叫ばせるだけのものが、2019年のランエボIVにはあった。
聞けばこの中古車、外装の磨きと内装のクリーニングは済んでいるものの、エンジンやら足回りやらの整備はまだ行っていない段階だとのこと。
その段階で、これほどパワフルかつスムーズきわまりない動きと感触を各部が生み出すということは、おそらくだが歴代オーナーにかなりしっかりケアされてきた個体なのだろう。
峠道を走ったわけではないのでコーナリングについては未知数だが、この感触であれば、おそらくワインディングに持ち込んでも「かなりやってくれる」ことはほぼ間違いと推測できる。
三菱 ランサーエボリューションの中古車に関しては、第1世代の最後のやつ(ランエボIII)と第2世代の最後のやつ(ランエボVIまたはVIのトミー・マキネンエディション)が人気で、ランエボIVの人気はさほどでもないと聞いている。
マニアックな視点で「ランエボとはなんぞや?」みたいなことを突き詰めていくなら、確かにそうなのだろう。筆者も三菱車マニアであったなら、ランエボ6.5ことトミー・マキネンエディションを買いたいと思うはずだ。
しかし、決してその筋のマニアではなく、「でも懐かしい気持ちになれる伝説の車で、なおかつ小ぶりで気持ちよく走れる何かが欲しい」と考えるのであれば……。
この素性よろしきランエボIVはかなりの注目株なのではないかと、筆者は思う。
自動車ライター
伊達軍曹
外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。現在は「手頃なプライスの輸入中古車ネタ」を得意としながらも、ジャンルや車種を問わず、様々な自動車メディアに記事を寄稿している。愛車はスバル XV。
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