▲トヨタ セリカ▲新車の試乗記事はたくさんありますが、「あの懐かしの車は今乗るとどんな感じなのか?」というのも気になるところ。ということで、「中古車評論家」の伊達軍曹が97年式トヨタ セリカGT-FOURに試乗してみました!

WRC日本ラウンド復活を機に、当時のラリーカーが気になり始めた

2010年以来ごぶさたとなっていた世界ラリー選手権(WRC)の日本ラウンドが来年11月、10年ぶりに復活する。「これはめでたい!」ということで盛り上がっているラリー好きおよびラリーカー好き各位は多いかと思うが、かく言う筆者もそのひとりである。

そしてWRCが久々に日本へやってくるというと、自動的に思い出されるのが「往年のWRCを沸かせたジャパニーズラリーカー各位」のことだ。

トヨタ セリカGT-FOURを駆るカルロス・サインツが王者ランチアの牙城を切り崩し、初のドライバーズチャンピオンに輝いたのが1990年。

以降、1993年と1994年はセリカGT-FOURのトヨタがマニュファクチャラーズタイトルを獲得し、翌シーズンからはスバル インプレッサと三菱 ランサーエボリューションが王座をかけてしのぎを削る数年間が続いた。

で、WRCの舞台で日本車のチームが盛り上がるということは、ラリーカーのベースとなる「市販バージョン」の市場が盛り上がるということでもあった。

前述のトヨタ セリカGT-FOURやスバル インプレッサWRX、三菱ランサーエボリューションの各世代に、多くの車好き各位は憧れた。かく言う筆者も、そのひとりだった。

だが当時はカネがなく、新車のそれは買うことができなかった。

しかし、今ならば……と思う。

遺憾ながら相変わらずカネはないが、めでたく「中古車」となった元ラリーカー(の市販バージョン)であれば、実は今日か明日にでも買えちゃうのではないか? 夢がかなっちゃうのではないか?

そのことに気づいた筆者はカーセンサー編集部の協力のもと、埼玉県三郷市の販売店に連絡をとった。1990年代中盤のWRCを沸かせたST205こと6代目トヨタ セリカGT-FOURの中古車に試乗し、その「今」を知るためである。

だがしかし……ST205がシーンを沸かせたのはすでに20年以上も前のこと。今となっては、あらためて試乗したところで幻滅するだけなのではないか? 夢は夢として、心の中だけに残しておいた方が幸せなのでは?

……そんな複雑な思いも抱えつつ、とりあえず取材班は埼玉県三郷市を目指した。

▲トヨタ セリカ▲こちらが今回の試乗車両。……ううむ、懐かしい!

ST205はトヨタの黒歴史なのか?

三郷市の「ガレージR」にて対面したトヨタ セリカGT-FOURのST205について、まずはその「車種自体」に関してごく簡単に説明しておこう。GT-FOURについて詳しい人は、このパートは読み飛ばしちゃってください。

ST205は、T200型と呼ばれる6代目トヨタ セリカがWRCに参戦するうえでの公認取得のために作られた4WDターボ版。より正確に言うなら、公認を取得するために作られたのは2500台限定(国内向けは2100台)の「GT-FOUR WRC仕様車」というやつなのだが、まあ細かい部分は気にしないでいただけると幸いだ。

搭載エンジンは「3S-GTE」という直列4気筒の2Lターボ。ターボチャージャーの性能向上と給排気系の改良により、先代のGT-FOUR(ST185)と比べて30ps増の最高出力255psを発生するとともに、広い回転バンドで高トルクを発生する特性になっている。

そしてGT-FOUR専用となるエンジンフードはアルミ製で、ノーマル比で約8kgの軽量化に成功。ボンネット中央の大型バルジには斜格子のメッシュを入れることでスポーティなイメージを強調している。その向かって左側にある小さな穴「エアインレットダクト」は、過酷な使用条件下でのタイミングベルトの冷却性能を確保するためのものだ。

▲トヨタ セリカ▲写真ではややわかりにくいが、FFノンターボの同世代セリカとは大きく異なる「波打った形状のボンネット」が美しいGT-FOUR。タイミングベルトを冷却するための小さな穴にもそそられる

フロントサスペンションには、旋回時にも最適にグリップさせるという「スーパーストラットサスペンション」が標準で装備され、その他ブレーキやホイールもGT-FOURの専用品となるというのが、このモデルのざっくりとした特徴である。

しかしこのST205、実際のWRCではさほど活躍できなかった。

先代にあたるST185はWRCで勝ちまくったのだが、それよりひと回り大きく・重くなったST205のワークスラリーカーはセッティングの面で少々苦しんだ。そしてチームは前述したスーパーストラットサスペンションのセッティングにも苦労したようで、WRCでの勝利は結局のところ1995年のツール・ド・コルスのみ。

その後はリストリクター(吸気量を制限する装置)に規定違反があることが発覚してしまい、その年の全ポイント剥奪とWRCへの1年間の出場停止処分を食らってしまったのが、このST205という車のワークスラリーカーだったのだ。

それゆえ、ある意味「黒歴史」を背負っているとも言えるST205なのだが、そんなのはラリー関係者やトヨタ自動車の社員が感じればいいことで、我々ユーザーには何の関係もないことである。

筆者のような部外者の記憶にあるのは、確かに勝てなかったかもしれないが、カストロールのカラーリングをまとって豪快にドリフトを決め、美しいジャンプで水たまりを派手に飛び越えていた、ST205型セリカGT-FOURのカッコいい勇姿だけだ。

バカボンパパじゃないが、それでいいのだ。

大切に扱ってきたであろう歴代オーナーの「愛」を感じる

前説が若干長くなってしまい恐縮だが、いよいよ試乗である。

ご対面したブツは、97年式で走行9.6万kmのトヨタ セリカGT-FOUR。車高が若干落とされているが、それ以外はほぼほぼノーマル状態で、車両価格は129.8万円。カーセンサーnetによれば支払総額は146.4万円とのこと。……不肖筆者でも十分買える金額である。

経年によりボディカラーの白さは若干くすんでおり、純正レザーステアリングの一部にもハゲが確認できる。

が、不思議と嫌な感じはしない。

このあたりの直感は若干オカルトなのだが(ただし実際は決してオカルトではなく、何千もの過去事例インプットを筆者の脳が演算処理したうえで、「直感」として表出させたものである)、この個体からは「決して潤沢なカネがあるわけではないが、このGT-FOURを愛し、割と大切に扱ってきた歴代オーナーの姿」が透けて見えてくる。

▲トヨタ セリカ▲22年の歴史を感じることができる車内だが、いかにも手荒く扱われてきた結果としての「嫌なヤレ方」はしていない
▲トヨタ セリカ▲最高出力255psを発生する「3S-GTE」2L直4ターボエンジン。とりあず調子は良さそうな気配

一発できれいに始動するエンジンを少々暖めたのち、公道に繰り出してみると、直感は「確信」に変わった。

悪くない。というかむしろ、けっこういい。

最高出力も最大トルクも比較的高い回転域で発生するタイプのエンジンで、なおかつ車両重量1390kgとまあまあ重い車であるため、出足は正直ややかったるい(2019年の基準で見れば、かもしれないが)。

だが3000rpmあたりからターボのブーストがかかり始めると、「鬼」とまでは言わないが「なかなか」の猛加速を5000rpmか6000rpm付近まで堪能することができる。

そこからのブレーキングも、ブレーキのタッチが大変よろしいため安心感がある。十分あるいは十分以上のストッピングパワーがあるのだが、カック~ンと利くわけではなく、いわゆるリニアに減速および停止できるため、駆け抜ける歓びならぬ「減速させる歓び」が感じられるのだ。

峠道をぶっ飛ばしたわけではないが、一般道を普通に走る限りにおいてはコーナリングも非常に素直なニュアンス。20年落ち以上の中古車で時おり発生する「ドアンダーステア」や「パワステポンプやステアリングラックからの異音あるいは嫌な感触」みたいなものもない。

もちろん、車両価格100万円台前半の古い中古車ゆえ「すべてが完璧!」なんてことはないが、少なくとも「好感が持てる22年落ち中古車」であることは間違いなかった。
 

▲トヨタ セリカ▲速いは速いのだが、「ボディサイズも含めてすべてが程よい範囲内である」という部分にご満悦な模様

中高年にはぜひ勧めたい「甘酸っぱい選択肢」

短時間ではあるが試乗を終えての結論は、「ST205とは可憐な車である!」ということだった。

1994年、元号で言うところの平成6年にこの車がデビューしたときには「……GT-FOURもデブになったなあ」という旨の感慨をいだいた。そして同時に、若手編集者としてST205の広報車(メディアなどにメーカーが貸し出す車両)を初めて運転した際には、2Lターボエンジンがもたらす猛烈な加速に少々驚いた記憶もある。

そして「デブ」になったST205型セリカGT-FOURは実際、WRCの現場ではそのサイズと重量ゆえに苦戦した。

だが、そんなすべてはもはや昔話だ。

当時はデブだと感じた全長4420mm×全幅1750mm×全高1305mmというスリーサイズは、2019年の感覚で言うと「やや小ぶり」であり、実際試乗中の筆者は「うひょ~、小さくてかわいい車だな~」みたいなことばかり言っていた。

とはいえ、最小回転半径が5.6mとデカいため小回りはぜんぜん利かないのだが、まあそれはそれそれとして、今となっては「可憐なサイズの扱いやすい車」である。

そして加速も可憐だ。

もちろん、今現在の基準でも十分「速い!」と感じられる車ではある。だがそれは目が追いつかないほどバカっ速いわけではなく、素人である筆者にもある程度コントロールできそうな範囲内での「速さ」でしかないのだ(※もちろん「完全にコントールできる」などとは思っていない)。

それはつまり「踏める」ということであり、同時に「だから気持ちいい!」ということでもある。

それに加えてやはりWRC由来ならではの「伝説感」みたいな部分も、個人的にはデカかった。

「ブラウン管(……当時のテレビはブラウン管だったんですよ)の向こう側にいたあのGT-FOURをオレは今、運転しているのだ……!」と思うと、ついつい胸が熱くなる。涙も出てくる。

そしてこの、経年ゆえに内装等のあちこちが少々傷んでいるレジェンダリーな個体をコツコツと、自分の手で元通りに直してあげたくなってくるのだ。普段は車いじりなどほとんどしない筆者が、である。

問題は「直すにしても、年式的にもはや純正パーツが手に入りにくい」ということだが、このあたりはネットオークションなどをフル活用すれば、大変ではあるが、ギリギリなんとかなるはず。

お若い人がどう感じるかは今ひとつ不明だが、筆者と近い世代、すなわち中高年各位にはぜひオススメしたい、甘酸っぱい気分になれるステキな4WDターボであった。
 

Photo:稲葉 真
Photo:稲葉 真
文/伊達軍曹、写真/稲葉 真
伊達軍曹

自動車ライター

伊達軍曹

外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。現在は「手頃なプライスの輸入中古車ネタ」を得意としながらも、ジャンルや車種を問わず、様々な自動車メディアに記事を寄稿している。愛車はスバル XV。