フィアット 500C ▲2015年6月に90台限定で発売されたフィアット 500C Gialla(ジャッラ)。写真はエーゼットオート横浜が販売する2016年式で、支払総額は131.9万円

「シチリアンレモン」をイメージしたイエローの限定車

こちらは、雑誌「カーセンサーEDGE」で8年以上続いている自動車評論家MJブロンディさんの長寿連載「EDGEセカンドライン」のB面である。すなわち、なぜかその取材現場に同席している自動車ライター伊達から見た「同じ車の別側面」だ。

第7回目となる今回は、2019年11月27日発売のカーセンサーEDGE 1月号で取材した2016年式フィアット 500C Gialla(ジャッラ)のB面をお届けする。ちなみにその支払総額は131.9万円で、走行距離は1.4万kmである。

本編に進む前に、まずはフィアット 500C Giallaという特別仕様車に関する簡単な解説を。

フィアット 500Cという車自体については、過剰な説明は不要だろう。往年のフィアット NUOVA 500のテイストを現代に蘇らせたフィアット 500のオープン版で、日本市場でのデビューは2009年9月。

まずは1.2Lエンジンの「1.2 8Vポップ」と1.4Lの「1.4 16Vラウンジ」という2モデルで登場し、2011年途中には0.9L 2気筒ターボの「ツインエア ラウンジ」を追加。またその他、時節や季節に応じた多種多様な「特別仕様車」が限定リリースされているのも、フィアット 500および500Cの特徴だ。

今回取り上げる「500C Gialla(ジャッラ)」もそんな特別仕様車のひとつであり、登場は2015年6月。ベースは最高出力69psのエントリーグレードである「1.2ポップ」で、特徴は「カントリーポリタンイエロー」という限定車専用色をまとっている点。フィアット 500の輸入販売元であるFCAジャパン株式会社いわく「夏にぴったりなシチリアンレモンをイメージした色」とのことだ。

ちなみにGiallaというのはイタリア語で「黄色」という意味。この車の場合は「ジャッラ」というのが正式な読み方となるが、その昔ランチア デルタ インテグラーレに用意された黄色の限定車では「ジアッラ」というカナが当てられていた。どちらがより原音に近いのか、イタリア語に詳しくない筆者には不明である。
 

フィアット 500C▲フィアット 500Cジャッラの運転席まわりはこのような感じ。ダッシュパネルもボディと同じ限定色「カントリーポリタンイエロー」で塗装されている
フィアット 500C▲ピラーを残してルーフ前端からリアウインドウの位置までソフトトップが開くスライディングルーフ式の電動オープントップを採用。トップの開閉面積は2段階の調整が可能で、写真は全開の状態

好スペックなのに販売上の動きがにぶいのは「黄色だから」?

それはさておき、A面ことカーセンサーEDGE 1月号の「EDGEセカンドライン」の中で、MJブロンディさんはこの個体のエンジンを主軸に論評した。

その内容は、かいつまんで言うと「自分は0.9L 2気筒ターボのツインエアが大好きで、フィアット 500を買うならツインエア以外はあり得ないと考えている。しかしよく考えてみるとオープンカーである500Cの場合は、非力な1.2Lエンジンでトコトコ走るのも風情があって良いのかもしれない」というものであった。

これについてはB面担当である筆者も完全アグリーで、つまり「自分も買うなら絶対ツインエアと思っているが、まあオープンカーの場合は遅くてもぜんぜんオッケーだから、500Cなら1.2ポップでもいいかな?」と考えている。

それを踏まえたうえで、筆者はこの車の「ボディカラー」について考えたい。
 

フィアット 500C▲非常に鮮やかな黄色である「カントリーポリタンイエロー」。いい色だと思うのだが……
 

先に申し上げた「夏にぴったりなシチリアンレモンをイメージした」というこのカントリーポリタンイエローなる色。筆者はステキだと思うし、加えてフィアット 500Cに似合っていると思うのだが、これがどうやら不人気色らしい。

筆者の手帳によれば、「A面」のためにこの個体を取材撮影したのは本年11月5日。その際に、販売店であるエーゼットオート横浜の担当者氏は「走行距離短めのいい個体だと思うのですが、色が色なんで、なかなか売れないかもしれませんねえ……」的なことをおっしゃっていた。

まだまだ3年落ちであり、走行距離はわずか1.4万km。そして単に距離が短いだけでなく、筆者が現場で見た限りでは内外装および機関各部のコンディションも良好であると確認できた。

それゆえ筆者は「とはいえすぐ売れちゃうんじゃないですか?」などと内心思っていたのだが……。

これを書いている本日こと2019年11月20日、当該の500C Giallaはまだカーセンサーnetに掲載されている。要するに販売店担当者氏の予想は正しかったのである。

さすがはその道のプロであり、筆者のような半端者とはヨミの精度が違うよなぁ……と変な感心をしていたのだが、売れないことに感心していても仕方ない。

それゆえ考えてみたい。

この好条件な2016年式フィアット 500C Giallaはなぜ「黄色だから」という理由だけで、売り物としての動きが少々にぶくなっているのだろうか?
 

リセール価格は少し安い可能性もあるが、この場合は「誤差の範囲」

考えられる理由のひとつは、「黄色い車は目立ちすぎて恥ずかしい」というものだろう。

……その気持ちはわからなくもない。奥ゆかしい人柄である場合が多い日本人ユーザーの場合、何かと押しが強い欧州人と違って「原色の車はちょっと……」となることは理解はできる。

だがそれは「自意識過剰」というものである。

人は、他人のことになどさほど興味はない。まったく興味がないわけでもないが、少なくとも、あなたがあなた自身についてもっている興味の100分の1程度しか、他人はあなたに興味を抱いてない。もっと別のこと、具体的には「その人自身のこと」を日々考えているのだ。

それゆえ、まあ黄色い車が嫌いな人に無理強いするつもりはないが、決して嫌いでないのであれば、「目立ちゃうから……」みたいな理由だけで黄色い車を敬遠するのは甚だナンセンスである。
 

フィアット 500C▲ボディカラーより、「オープン時は後ろのトラックから丸見えだから恥ずかしい」というのはあるかもしれないが
 

もうひとつの考えられる理由は「黄色はリセール価格が安いから」というものだろうか。

これについてはまあそのとおりで、国産車だろうが輸入車だろうがテッパンなのは白または黒であり、赤や青、あるいは黄色などの原色系は日本では不人気色であるため、どうしたってリセール価格は安めになる場合が多い。

……そのとおりではあるが、だがこれはあくまで「100万円台前半のフィアット 500C」であり、「新車のトヨタ アルファード」ではないのだ。

聞くところによれば現行型アルファードなどの場合、ボディ色や装備などの違いによりリセール価格は数十万円、下手をすれば100万円ほども変わってしまう場合もあるという。

数十万円や100万円も違うとなれば、日頃は偉そうなことを言っている筆者もカネの魔力に負けて「……やっぱ買うならホワイトパールクリスタルシャインかな?」とかなんとか言い出す可能性は高い。

だが今回の相手は新車のアルファードではなく「100万円台前半のフィアット 500C」である。

それを例えば4年後ぐらいに手放すとして、その際の売却価格は「カントリーポリタンイエロー」と「ボサノバホワイト」とでいくらの違いになるだろうか?

おそらくは「せいぜい数万円の違い」といったところだろう。

「数万円」というのは決してどうでもいい金額ではないだろうし、「一銭を笑うものは一銭に泣く」ということわざも知っている。

だが「自分が本当に気に入ったモノの対価」としては、数万円というのはむしろ「安い!」と考えることも可能なはずだ。

それゆえ「黄色はリセールが安いから……」というのを「甚だナンセンスである!」とは言わないが、「まあそこはあまり気にしない方が、人生は楽しくなるんじゃないですか?」とは申し上げたい筆者である。

繰り返しになるが、黄色い車が嫌いな人に無理強いするつもりはない。だがもしも決してお嫌いではないのであれば……「黄色い車」にはぜひ注目していただきたいと強く願っている。……まあぶっちゃけ「人気薄ゆえに、その品質と比べて安価な場合が多い」というのも黄色い中古車の魅力ですしね!
 

文/伊達軍曹、写真/大子香山
伊達軍曹

自動車ライター

伊達軍曹

外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。現在は「手頃なプライスの輸入中古車ネタ」を得意としながらも、ジャンルや車種を問わず、様々な自動車メディアに記事を寄稿している。愛車はスバル XV。