WRC譲りの情熱的なドライビングと懐の深い乗り味を両立したホットハッチ

昨今、暗い話題の多いアメリカ車メーカー。ビッグ3の一角であるフォードも、GMやクライスラーほどではないにせよ、業績は芳しいとはいえません。ところが、ことヨーロッパで現地生産が行われている欧州フォードに限っては、例外といえそうです。2008年秋に発売された新型フィエスタがわずか半年で17万台を販売したこともあって、2009年3月の欧州シェアは10%。なんとフォルクスワーゲンに次ぐ、欧州第2位のブランドとなっているのです。

そんな欧州フォードの生産車両は、残念ながら日本では2008年に新車ラインナップから外れてしまいました。つまり、中古車はいま、まさに狙い時といえるおいしい価格帯になっているということ。なかでも魅力的なのが、Cセグメントの中核車種フォーカス。今回はハイパフォーマンスモデルのフォーカスSTをご紹介します。

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登場したのは2006年6月。「ST」はスポーツ・テクノロジーの略で、欧州フォードのハイパフォーマンスカーに共通する名前。これらはモータースポーツにもかかわっている、フォード・チームRSが設計、開発しています。つまり、フォーカスSTはWRCで活躍したフォーカスRS WRCと同じところで仕立て上げられた車ということになります。

エンジンはグループのボルボが作る2.5L直5DOHCターボをフォード風にチューンしたものを搭載。最高出力は225ps、最大トルクは32.6kg-mに達しますが、スペックだけでは国産ハイパフォーマンスカーに見劣りするように感じるかもしれません。
しかし、この手のホットハッチにはめずらしく低中速域のトルクが厚く、ギア比を細かく割っている6MTを組み合わせていることもあって、自在性が高い仕上がりになっています。つまりサーキットや高速道路、ワインディングだけでなく、市街地でも十分に走りの楽しさが味わえる、懐の深い車といえるのです。

この性格はハンドリングにも表れていて、最大のライバルといえるVWゴルフV GTIと比べ、よりダイレクト感にあふれています。運動能力や限界性能においてはゴルフGTIと同等レベルといえますが、フォーカスSTは運転手への応答性がより高い走りをするのです。ゴルフGTIが「洗練」の走りなら、フォーカスSTは「情熱」の走りといったところでしょうか。

しかし、ダイレクトとはいっても決して粗い部分があるわけではありません。18インチのタイヤを装着し、ハードな運転に堪えるサスペンションを装着しながら、乗り心地が上々なのはちょっと意外に感じることでしょう。特に市街地などの低速域では、まず不快な思いをすることはありません。ボディ剛性も走行安定性も高くなっており、欧州フォードならではの作りの良さを体験できることでしょう。
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走りが懐の深さを備えている一方で、エクステリアのデザインはかなりヤンチャ。メッシュ仕立てのグリルやスポイラーなどの各種エアロパーツ、独特なデザインの18インチアルミホイールを標準装備。これにオレンジまたはブルーの特別色を組み合わせると、かなり派手な印象を与えます。

室内にはバケットタイプのレカロシートやアルミ製ペダル、油温やブースト圧などを表示する「インストルメント・ポッド」などが備えられています。こちらはシートカラー以外は比較的落ち着いた印象を与えています。気になるのが座面の高さ。この手のスポーツグレードにしてはかなり高めの設定になっており、ローアングルでの運転に慣れた人は注意が必要です。

3ドア車ということで気になるのが後部座席の使い勝手ですが、ドアが大きくて前席が大きめにスライドするので、乗降は比較的ラク。大人が2人で座るには十分なスペースが確保されていますが、フロントシートのサイズが大きいので、多少圧迫感を感じるかもしれません。

一方でラゲージはちょっと小さめ。底面が平らなところは、荷物の出し入れという点ではメリットなのですが、その分荷室全体の高さがなくなってしまい、全体的な体積が少なくなってしまっています。3人以上で乗る機会が少ないのならば、普段は分割可倒式のリアシートを倒しておいて、ラゲージを広げた状態で使用するのが賢い方法といえそうです。

フォーカスSTの新車時の車両本体価格は320万円。ノーマルグレードであるフォーカスGHIAが298万円ですから、わずか22万円差。この時点でかなりのバーゲンプライスだということがわかります。 これが中古車になると、大バーゲン状態に。原稿執筆時点でカーセンサーnetに掲載されているフォーカスSTは9台ありますが、最高値が249万円。最安値はなんと188.8万円で総額でも201.2万円。しかも走行距離わずか1.9万kmで未修復歴車なのだから驚きです。

イメージで損をしているブランドの中でも、日本における欧州フォードはその最たるものといえます。筆者もこの車に乗ったとき、そのパフォーマンスの高さ、作りの良さに驚きました。同クラスのモデルで文句なしにイチオシの一台です。興味をもった人はぜひ、下の検索窓に「フォーカス ST」と入れて探してみてください。


Text/渡瀬基樹