ランドローバー レンジローバー イヴォーク

■これから価値が上がるネオクラシックカーの魅力に迫る【名車への道】
これからクラシックカーになるであろう車たちの登場背景、歴史的価値、製法や素材の素晴らしさを自動車テクノロジーライター・松本英雄さんと探っていく企画「名車への道」。

松本英雄(まつもとひでお)

自動車テクノロジーライター

松本英雄

自動車テクノロジーライター。かつて自動車メーカー系のワークスチームで、競技車両の開発・製作に携わっていたことから技術分野に造詣が深く、現在も多くの新型車に試乗する。『クルマは50万円以下で買いなさい』など著書も多数。趣味は乗馬。

イヴォークの登場時、そのデザインからSUV 新時代を感じたよね

——名車への道も様々なモデルを紹介してきましたけど、SUVはレンジローバーやディフェンダーといったランドローバー系が多いですよね。

松本 確かにランドローバー系は何回も撮影しているし、このあと取り上げたい車種もまだまだあるよね。

——そうなんですよ。何か理由があるのかなって。

松本 コンセプトがしっかりしていて、デザインも統一感がある。これは初代ランドローバーからそうなんだけどデコラティブな造形よりも車としてシンプルで見切りの良いデザインをずっと重視しているよね。21世紀に入ってからのレンジローバーは単に角張っているだけじゃなく、そこにタフなイメージが表現されているんだ。いつまでもクラシックなイメージばかりでは新しいカスタマーを獲得できないからね。そのあたりの変化も上手なんだと思うよ。

——21世紀の最初って確かBMWが開発に関わってた時代ですよね。

松本 そうだね。今の高級感あるランドローバーのイメージは2001年に登場した3代目レンジローバーからと言ってもいいだろうね。BMWはモデルサイクルの時期を早めることで時代に合わせたスタイルを短い周期で提案していたんだ。まあこのモデルが生産された時には、すでにBMWはブランドをフォードへ売却していたんだけどね。

——その後、イヴォークが誕生すると。

松本 そうだよ。新しいレンジローバーを提案するために作られたのがレンジローバースポーツのコンセプトカーで、ショーカーは3ドアだったんだ。それは初代レンジローバーのごとく軽快にオフロードとオンロードを走るようなデザインでね。フロントウインドウやクオーターパネルの傾斜角、ガラス面積を小さくしたデザインでスポーティな走りを強調していたんだ。まさに新しいSUVを予感させるデザインだったんだよ。でも当時、3ドアのSUVは市場で受け入れられない、早すぎるという判断だったんだろうね。結局レンジローバースポーツは5ドアモデルとして登場したんだ。そしてその時レンジローバースポーツが見せたスポーツSUVとしての心意気を表現して生まれたのがレンジローバーイヴォークになるわけ。しかもレンジローバーのプレミアムブランドの良さを知ってもらうために購入しやすい価格帯で登場したんだよ。
 

ランドローバー レンジローバー イヴォーク
ランドローバー レンジローバー イヴォーク

——すごく印象的だったのは登場した時にクーペが設定されていたこと。それとその人気ぶりですよね。確かデビュー直後は中古車価格が新車価格を上回ってましたから。そんな現象、当時だとフェラーリの430ぐらいでしたね。

松本 確かにすごい人気だったからね。

——イヴォークもコンセプトモデルがありましたよね? 市販されたデザインとうり二つの。

松本 2008年のデトロイトショーにLRXコンセプトという名前で出てたんだ。次世代へのテクノロジーを盛り込んで提案されたモデルでね。燃費や生産性の向上を見据えた最新の技術であったり、レンジローバーデザインの未来を示していたんだ。

——確かに最新のレンジローバースポーツやヴェラールを見るとイヴォークの進化系のように見えますよね。

松本 そうなんだよ。いま君が言ったレンジローバースポーツは3ドアのスポーツタイプのコンセプトだったでしょ? ガラス面積も小さくしてチョップドにしてピラーも短くして、車高も低い。これは従来のレンジローバーにはないスタイルだったんだ。つまりスポーツSUVというジャンルでレンジローバーが提案したフォルムということだね。デザインであっと言わせたヴェラールだってチョップドしたモデルでしょ? レンジローバーは本格的なオフローダーでありつつも、スポーツ性能が高いSUVを目指したんだよ。フラッグシップのレンジローバーとは違った考え方でね。その先陣を切る大事なモデルだったのが、イヴォーク。レンジローバーブランドの歴史の中でもとても重要なモデルだし、価値がある車だよ。

——確かに乗ってみるといま挙げたモデルは動きがスポーティですよね。小さく感じるというか。それとデザインを重視したからだと思いますが、ルームミラーから見たリアウインドウの見づらさがすごく印象に残ってます。

松本 そうね。確かに見づらいけど、将来的にはミラーでなくモニターで後方を確認することを想定していたんじゃないかな? 今のディフェンダーみたいに。
 

ランドローバー レンジローバー イヴォーク

——コンセプトカーがそのまま市販される流れもイヴォークが作ったような気がしますよね。

松本 そのとおりだね。元々ランドローバーのショーカーはほとんど量産車の形で出てきていたんだ。でもこれだけ奇抜なデザインで実施したのはすごいことだよね。ショーカーのあり方を根本的に考えさせられたし、いろいろなメーカーにも影響を与えたはずだよ。

——いろいろなメーカーに影響を与えたモデル。それってこの企画のテーマである「名車予備軍」のモデルにとって重要な要素ですよね。そう考えたら登場したのは最近だけど、すでに名車ですよね。クーペデザインのSUVはあっても、3ドアのSUVは希少ですし、このあとコンバーチブルまで出してましたもんね、イヴォークは。

松本 本当にそうだね。イヴォークは横置きのエンジン搭載モデルだけどフロントに荷重がかかっていないようなデザインの工夫がされていてね。この手法に影響を受けたメーカーは結構あるんじゃないかな。いずれにしてもイヴォークの3ドアは、レンジローバーのスポーツクロスオーバーSUVの基本、と言ってもいいんじゃないかな。
 

ランドローバー レンジローバー イヴォーク
ランドローバー レンジローバー イヴォーク

ランドローバー レンジローバーイヴォーク

2008年に発表されたコンセプトモデル「LRX」のデザインをほぼそのまま市販化し、大ヒットモデルとなったイヴォーク。登場時、3ドアクーペをラインナップしていたことも大きな話題に。発売期間は2011年から2019年までで、世界中で100を超える賞を受賞している。
 

※カーセンサーEDGE 2020年12月号(2020年10月27日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています

文/松本英雄、写真/岡村昌宏