河口さん、吉田さん、河西さん▲今後の自動車メディアについて、自動車ジャーナリスト3名でリモート座談会を開催しました!


車で我々に夢を提供してくれている様々なスペシャリストたち。連載「スペシャリストのTea Time」は、そんなスペシャリストたちの休憩中に、一緒にお茶をしながらお話を伺うゆるふわ企画。

今回は、当連載の執筆をしている編集者の私、河西啓介が、モータージャーナリストの河口まなぶさんとカーライフ・エッセイストの吉田由美さんを交え、リモートでまったり座談会を行います。
 

河西さん

インタビュアー

編集者/河西啓介

自動車やバイク雑誌の編集長を務めたのち、現在も編集者/プロデューサーとして多くの媒体に携わるだけではなくラジオやTV、イベントなどでも活躍。「武道館ライブを目指す!」という目標を掲げ結成されたバンド「ROAD to BUDOKAN」のリーダーも務め、2020年4月5日『BLOW~風は吹いてる』で配信デビューを果たす

河口さん

ゲスト

モータージャーナリスト/河口まなぶ

最近は記事は書かず動画中心の、自動車ジャーナリスト/UUUM所属の自動車系動画クリエイター。10年前から運営するYouTubeチャンネル「LOVECARS!TV!」は22万人登録の日本最大の自動車動画専門チャンネル。毎日欠かさず新車を中心に動画を公開している。

吉田さん

ゲスト

カーライフ・エッセイスト/吉田由美

短大時代からモデルを始め、国産メーカーのセーフティドライビングのインストラクターを経て「カーライフ・エッセイスト」に転身。車まわりのエトセトラについて独自の視点で、自動車雑誌を中心にTV、ラジオ、WEB、イベントなどで広く活動中。人気ブログ「なんちゃってセレブなカーライフ」も更新中!

普段から仲の良い3人がリモートでまったり座談会

河西
河西

最近は自宅で過ごさなきゃいけない時間が増え、生活にもいろいろ影響あると思いますが、どう過ごしてますか?

河口
河口

いやー、あまり変わらないですね。自動車メーカーがリモートワークになり、取材用の広報車を借りにくくなりましたが、それでも今までに取材した25台ぐらいのストックがあったので、YouTubeへの投稿は毎日欠かさずやってます。

とはいえニューモデルの発表会、試乗会がまったくないので、そのぶん空いた時間にランニングしたりはしてます。今朝も走ってきましたよ。

吉田
吉田

私もそんなに変わっていないかな。今年に入ってからもいろんな車に乗って、常にネタはいっぱいあるんだけど……。原稿を書くスピードが追いついていない、という状態なので……(笑)。変わったところといえば、なるべくまとめて用事を済ませるようになったことかな。

河西
河西

効率的になったということ? それはいいことかも。2人ともすでに“新しい働き方”を実践しているんですね。僕なんか超ヒマですよ……。仕事がないから、家で弾き語りばっかりしてます(笑)。

常に新しいことに挑戦す河口さんは先見の明あり!

河西
河西

カワグチさん、このところの「ステイホーム」で、YouTubeはよく見られてるんじゃないですか?

河口
河口

そうだね。この4、5月は再生回数が増えてますよ。やっぱり家で過ごす時間が増えたからかな。

河西
河西

かつては雑誌中心だった車の情報が、今やすっかりWEBメディアやYouTubeに取って代わられましたよね。カワグチさんのチャンネル「LOVECARS!TV!」は、個人が運営する自動車関連チャンネルとしては、日本最大の登録者だそうですが、今何人ぐらい?

河口
河口

約22万人ですね。

吉田
吉田

22万!? すごい。私のYouTubeチャンネルなんか2000人ちょっと(笑)。

河西
河西

いや、2000人ならいいよ。ボクは500人ぐらい(涙)。カワグチさんがYouTubeを始めたのはいつごろでした?

河口
河口

2008年だから、今から12年前。状況は今とはまったく違っていましたね。同業者からも「アイツ、なんだか変わったことやってるな……」って感じで見られてたよ。

吉田
吉田

先見の明があるよね。でも、なんで「YouTubeやってみよう」と思ったの?

河口
河口

なんでも新しいことに手を出してみるタイプなんです。90年代半ばにインターネットが広まったときは、すぐに自分でHTMLを書いてHPを作って、車の試乗記を投稿するなんていうのをやってた。

河口まなぶ▲「LOVECARS!TV!」には6月3日現在、1471本もの動画がアップされている

車情報の入手源が大きく変化している

河西
河西

始めた当時、YouTubeがこれほど大きな存在になるという予感はありました?

河口
河口

ここまでとは思わなかったけど、これからニーズが変わっていくだろうなという気はしていたよ。ユーザー側というより、僕ら情報発信側の伝え方が。例えば車のシートを見せるとき、雑誌だったら座面側の写真を載せて、そこにキャプションをつけるわけですよね。

でも動画だったら「背面はこうなってますよ」というのまで見せられる。車のことを知りたい人は、そういうところにも興味があると思うし、なにより車は“動くモノ”だから、動画との相性はいいと常々思ってましたね。

河西
河西

ユミさんも雑誌が中心だった時代からWEB、とくにブログで活躍してましたよね。いくつものメディアや企業のサイトでブログを書いていて、まさに自動車業界における「ブログの女王」というべき存在。

吉田
吉田

もともと雑誌の仕事が中心だったけど、たしかにこの10年でWEBの仕事が激増しましたね。でも動画やYouTubeについては、昔からマナブくんのことを見て「すごいなー」と思って、お手伝いしたこともあるんだよ。だけれど私、新しい波になかなか乗れないタイプで……。最近ようやく「YouTubeやらなきゃ!」と思って、重い腰を上げましたが(笑)。

吉田由美▲YouTubeを始めたのは最近だという吉田さん。たくさん見てもらえるように日々奮闘中!

YouTubeだったら世界を相手に戦える!

河西
河西

LOVECARS!TV!チャンネルで、いちばん見られているのはどんな動画?

河口
河口

いちばんはレクサス LFAの動画だったかな。150万再生ぐらい。僕のチャンネルが大きく伸びたきっかけは、日産 GT-Rの0→100㎞/h加速テストが公開で行われたとき、たまたまカメラを持っていたので、それを動画で撮って上げたこと。それが世界中で見られたんです。そのとき「動画なら世界で戦えるんだ」と、YouTubeのポテンシャルを実感しましたね。

河西
河西

僕は自動車雑誌の編集を30年近くやってきたからこそ、カワグチさんのチャンネル登録者が22万、再生回数が150万、という数字にはすごいインパクトを感じる。今や自動車雑誌の販売はせいぜい数万部だから、その伝わり方はケタが違うな、と。

河口
河口

でも、YouTubeで成功する秘訣っていうのは、じつはすごく単純なことなんですよ。

吉田
吉田

えー、なに? なに? 知りたい!

河口
河口

それは、動画を毎日アップするってこと。逆に言えば、毎日やらなかったら、少なくとも“仕事”として成立させるのは難しいかな。すでにたくさんの人がYouTubeを始めているからね。

吉田
吉田

む~、毎日かぁ……キビシイ。

河口
河口

毎日がムリでも、少なくとも毎週何曜日とか、定期的に配信するのが重要。もうひとつは、当たり前のことだけど、「見る人の興味」がどこにあるのか、ちゃんと考えるということ。YouTubeって「自分の好きなこと」を発信してる人が多い。でも多くの人に見てもらいたいのであれば、自分が「見せたいもの」よりみんなが「見たいもの」を提供しないとダメですね。

河西
河西

そういう意味ではYouTubeも雑誌の編集も同じなんですね。編集的発想とか企画力が必要になる。

河口
河口

まさに“編集力”ですね。YouTubeって、動画を撮ってアップしたら100%完成、と思ってる人が多いんだけど、それだけでは50%くらいにすぎない。動画にタイトルをつけてサムネイル作って、タグを埋め込んで、そうしてやっと完成。

吉田
吉田

そっかー。わたしは動画編集がどうしても苦手で……。編集が終わった段階で息絶えてます(笑)。

▲河口さんが「世界と戦える」と確信したという、GT-Rの0→100 ㎞/h加速テスト動画

メディアの形は違えど車の楽しさを伝えたい

河西
河西

僕は長年雑誌の編集者をしてきたけど、今さらながら雑誌作りというのは“ロマン”だったなあと思う。本が売れたかどうかは、時間が経たないとわからないから、結局「やりたいこと」をやり続けていたんだよね。WEBやYouTubeは結果が“数字”で表れるから、思い込みだけじゃ通用しない。ロマンよりもリアルな結果がすべての世界。正しいんだけど、少し窮屈にも感じるかな。

吉田
吉田

私のWEBでの本格的な仕事の始まりは、ある出版社でのブログだったんだけど、それがとても人気になって。そうしたら社長から「なんでキミのブログがこんなに読まれるのか、よくわからない」って言われて(笑)。でも数字がはっきりと表れるWEBだからこそ、認めざるを得ないってことで、私にとってはよかったかな。

河口
河口

僕も雑誌で認知してもらえたから、YouTubeを始めたときも見てくれる人がいたんだと思う。ホンダで「S660」の開発主査を担当した椋本くんという若いエンジニアに会ったとき、「雑誌で河口さんの記事を読んだからホンダに入りました」と言われました。人の心を動かしたり高ぶらせる力があるのは、雑誌という媒体の力なんだろうなあと思いますよね。

吉田
吉田

私たちもこれからは、媒体の形ごとにどんな表現をしたら車の楽しさが最も読者の皆さんに伝わるか、試行錯誤しながら考えていけたらいいですね!

アルファロメオ スパイダー▲河西さんが創刊したNAVI CARSのキャッチコピーは「もういちど、クルマと暮らそう」。自分もそれを実践すべく、憧れていたアルファロメオ スパイダーを購入したという。写真は購入直後のロングツーリング取材のもの
文/河西啓介 写真/河口まなぶ、吉田由美、河西啓介