ボルボ XC60 ▲走行安定性が高すぎる(?)現代の車でも、それなり以上の緊張感が堪能できる走行シチュエーション、それが「雪上走行」です。タイミング的にちょっと遅いかもしれませんが、来季に向けてという意味でも「雪上走行を安全に楽しむための車種選びと走り方」について考えてみましょう!

「緊張感」と「旅の愉悦」を一気に楽しむ一石二鳥なアクティビティ

大昔の車はABS(アンチロック・ブレーキシステム)すら付いていないのが一般的だった。

しかし昨今は、ABSは言うに及ばず「TCS」やら「EBS」やらと呼ばれる複雑な機構がバッチリ付帯していて、それらによる統合制御がなされることも多い。

つまりそれは、普通の道を普通に走る限りは「ウルトラ安定してる」ということである。

もちろんスピードを出しすぎたりすると、それでも滑るときは滑る。

だが「乾いた舗装路を常識的な速度で走る」ということを徹底する限り、昨今の車はそう簡単に滑って事故ったりはしないものだ。

それは大変素晴らしい技術進歩の結果なわけだが、場合によっては「最近の車は安定しすぎてて、なんだかちょっとつまらない」と感じる人もいるかもしれない。

安全は何より優先されるべきであるため、「それってぜいたくな悩みだなぁ」と思わなくもないが、いち車好き・運転好きとして、気持ちはわからなくもない。

であるならば、時折「雪国」まで行ってみてはどうだろうか?

もちろん、降雪時の不要不急の車での外出は――特に、雪道に不慣れなドライバーは――避けるべきであるのは言うまでもないゆえ、決して万人にオススメしたい行動ではないのだが。

ボルボ XC60▲というわけで筆者も実際、雪が降りしきる北海道へ。旅のお供は現行型ボルボ XC60 AWD D4 R-Design

タイヤと路面の摩擦係数は、舗装路のドライ路面が0.8前後であるのに対して積雪路は0.5~0.2。氷結路ではさらに小さくなって0.2~0.1ぐらいになる。

となれば、わざわざサーキットで200km/hオーバーの限界領域走行をせずとも、ごくごく普通な速度でドキドキあるいはワクワク(?)する走りを堪能(?)できるのだ。

そして雪道があるエリアまで遠征するということは、普段あまり雪が降らない地域に住むドライバーにとっては「旅」でもあるため、それはそれで楽しいという一石二鳥の娯楽でもある。

だがその娯楽は当然ながら「危険」も伴うため、注意してかからねばならないことは言うまでもない。

豪雪地帯にお住まいの方には今さらな話かもしれない。

だが「あまり雪が降らないエリア」に住んでいる我々は、時折雪道まで遠征する際、何にどう気をつけるべきなのだろうか?

そしてそもそも、どんな車を「雪遊びの相棒」に選ぶべきなのか?

筆者を含む「決して雪道運転のエキスパートではない人間」にとってのそれを次章以降、考えてみよう。

今季はすでにやや時遅しかもしれないが、来季以降のためにも。

オススメは絶対に4WDだが、4WDにもいろいろある

まずは相棒となる車種、というか駆動方式について。これはもう「4WD」の一択だ。

かなりの運転上級者は「FF+スタッドレスでもオレはぜんぜんフツーに走れるけど?」と言うこともある。

だが、そう言えるのは十分なテクがある人だからこそ。

「FF車(またはRR車)もけっこう雪道に強い」という理論的な裏付けはちゃんとあるのだが、我々パンピーは、たまにであっても雪道を走りたいなら素直に「4つのタイヤすべてが路面をつかんでくれる4WD車」を選ぶに限る。

そして4WDシステムにもいくつかの種類がある。

かなり大きく分けると「フルタイム4WD」「パートタイム4WD」の2種類になるのだが、フルタイム4WDの中にもいくつかのタイプが存在するのだ。

そのひとつは俗に「生活ヨンク」と呼ばれる簡易な「パッシブ・オンデマンド4WD」。

コンパクトカーの4WD版などによく用いられるもので、要するに普段はFF車として走っているのだが、雪道などで前輪が空転すると初めて後輪にも駆動力が伝わるというシステムである。

主に都市部で気軽に乗る車には向いているのだが、「本格的な悪路走行にはあまり向かない」というのも確か。

それゆえこのタイプのモノを購入した場合は、「4WDだから安心」的な過信はしないようにしたい。

フルタイム4WDの中のもうひとつのタイプが、常に四輪で駆動している「センターデフ付きフルタイム4WD」で、トヨタ ランドクルーザーあたりがこれに該当する。

当然ながら「何がなんでも絶対に滑らない」というわけではないのが、雪道ではかなり頼れる存在であることは間違いない。

もうひとつ、最近増えているのが「アクティブ・オンデマンド4WD」だ。

オンデマンド式の4WDというと、前述のとおり「生活ヨンク」などと揶揄されることも多かったのだが、最新の電子制御式はさにあらず。

今回筆者が雪の北海道で試乗した現行型ボルボ XC60がまさにコレで、コンピューターがアクセル操作やステアリング舵角等々を分析して理想的な駆動力を瞬時に計算し、これまた瞬時に前後輪へ適切なトルクを配分してくれるという21世紀の優れものだ。

ここ最近の新鋭SUVはおおむねこの方式を採用しているので、そういった意味で「非エキスパートが雪道を安全に楽しく走りたいなら、なるべく新しい年式のSUVを買うに限る」とは言えるだろう。

ボルボ XC60▲電子制御式多板クラッチを用いたカップリングが瞬時に前後輪へトルクを配分する方式の4WDを採用している現行型ボルボ XC60。写真は撮影効果のためESC(エレクトロニック・スタビリティ・コントロール)を「スポーツモード」にしてわざと横滑りさせているが、通常モードではこのような動きにはならない

一方の「パートタイム4WD」。

スズキ ジムニーやいわゆるジープなどに採用されていて、車内のレバーやスイッチで2WD/4WDを切り替え、4WDを選ぶと前後のトルク配分が50:50で固定されるというシンプルな方式だ。

岩場などの超絶ヘビーな状況を走りたいならこの方式がいちばんなのだが、4WDのまま舗装路を走るのはいささか苦手。

それゆえ結論として、今回の「普段は舗装路しか走らないが、娯楽のひとつとしてたまに雪国へ行く」というテーマに添って駆動方式を選ぶ場合は、「センターデフ付きフルタイム4WD」または「アクティブ・オンデマンド4WD」の二択となろう。

ボルボ XC60▲アイスバーンはさておきこのような圧雪路では、ボルボ XC60をはじめとする「ちゃんとした4WD車」に「ちゃんとしたスタッドレスタイヤ」を履かせれば、雪上であってもおおむね不安なく走ることができる

雪道ではイキがらず油断せず、車間距離を多めに

で、現行型ボルボ XC60のようなアクティブ・オンデマンド4WDまたはセンターデフ付きフルタイム4WDを無事入手し、今季または来季に雪道へ行くとする。そこではどのような運転を心がけるべきなのか?

……決して雪道走行のエキスパートではない筆者が1月末の北海道にてヒヤヒヤしながら実戦で学び、そしてエキスパートである同乗のYカメラマンからビシビシたたき込まれた教えによれば、それはおおむね以下のとおりである。

●「急」が付く操作をしない
よく言われることだが、本当にそのとおりである。「状況判断」以外のすべてをとにかく「ゆっくり・じんわり」に徹するが勝利の秘訣であり、我が身と同乗者、あるいは対向車乗員などの生命を守るためのキモとなる。

●車間距離は普段の2倍を目安に
数台前の車の動きや信号の変化、歩行者の位置などを常時確認しながら、「普段の2倍」を目安に車間距離を確保する。優秀な4WD+優秀なスタッドレスタイヤで走っているとついつい油断して、気持ちが「都市モード」に戻ってしまうこともある。常に気を抜かないようにしたい。

●時折「ブレーキチェック」を行う
「今この路面状況でブレーキをかけるとどのぐらい滑るのか? あるいは滑らないのか?」を確認するため、時折ブレーキングの「リハーサル」を行う。ただ、もちろん後続車や歩行者などが周りにいないことを確認したうえで。

●街中の交差点付近は特に気をつける
交通量が比較的多い交差点付近は、雪や氷が解けたり凍ったりを繰り返すことでツルツルに磨かれた「ブラックアイスバーン」になっていることも。これが4WDだろうとスタッドレスタイヤだろうと、てきめんに滑ったりもする。交差点付近は慎重すぎるほど慎重に走行したい。

●「日陰」「坂道」「橋の上」「カーブ」は特に慎重に走る
それまでは普通の圧雪状態だったのに、上記の箇所はいきなりアイスバーン化している――なんてことも多いので注意したい。いや、上記の局面へは「ふっ、どうせアイバーン化してるんだろ? 知ってるよ……」ぐらいの悲観的な性格に変貌しながら進入するのがちょうどいいぐらいだ。

ボルボ XC60▲北海道での試乗に使用した現行型ボルボ XC60はインポーターが用意した広報用車両だったが、中古車として現行型XC60を狙う場合、2020年2月上旬現在の相場は520万~700万円といったところ

この他にもいろいろあるのだが、言い出すとキリが無くなってしまうため、その他についてはそれ専門の書籍やサイトなどで各自確認していただきたい。

しかしながら前述した各ポイントについての警戒を厳にし、そして「きちんとした4WD車」と「きちんとしたスタッドレスタイヤ」を用意したうえで、「とにかく無理はしない、イキがらない」ということさえ徹底できれば、ゆっくりめの速度であっても十分楽しめるのが「たまの雪道」である。

今季の残りまたは来季、ご興味があればぜひチャレンジしていただければと思う。

かく言う筆者も雪道でイキがらず、そして雪をナメず、自家用車であるスバル XVにて地道なトレーニングを続ける所存だ。押忍。

文/伊達軍曹、写真/柳田由人
伊達軍曹

自動車ライター

伊達軍曹

外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。現在は「手頃なプライスの輸入中古車ネタ」を得意としながらも、ジャンルや車種を問わず、様々な自動車メディアに記事を寄稿している。愛車はスバル XV。