国内外問わず様々な映像作品(アニメも含め!?)に登場したあんな車やこんな車を図説するコーナー!

【連載:図説で愛でる劇中車】
国内外問わず様々な映像作品(アニメも含め!?)に登場したあんな車やこんな車を、イラストレーター遠藤イヅルが愛情たっぷりに図説する不定期連載!

第2回は、濃厚なキャラが活躍するアニメ作品ながらも、彼らと同じくらいの存在感を劇中で発揮していた「ルパン三世 カリオストロの城」に登場する車たちです。

原作のハードボイルドなルパンと、「カリ城」の優しいルパン

誰しもが知る名作「ルパン三世」。故モンキー・パンチ氏による原作漫画は昭和42(1967)年から94話が連載されました。

のち昭和46(1971)年に初アニメ化。現在、このときの放送は第1期と呼ばれています。

原作が完全な成人向け漫画だったため、アニメ第1期もスタート時はハードボイルドで大人向けでした。

しかし、当時まだ時代的に「大人向けアニメ」は早すぎて、シーズン途中からタッチを方向転換。その担当が、宮崎駿・高畑勲氏のコンビでした。

その後昭和52(1977)年に第2期がスタート。赤いジャケット、例のルパンのテーマソングなど、「みんなが思うルパン」が形成されています。

宮崎駿氏は本作では2話のみ(「死の翼アルバトロス」「さらば愛しきルパンよ」)の参加でした。

そして昭和54(1979)年、劇場版第2作「カリオストロの城」(カリ城)が公開されました。監督は、映画初監督の宮崎駿氏。でも当時、原作を知るファンからは「これはルパンなの?」と思われていました。

というのも、ダークで非情な一面がある原作のルパンに対し、第2期で定着したコミカルで陽気な三枚目ルパンに「カリ城」ではさらに「優しさ」が追加されたため。

第1期の「ギラギラした悪党の大泥棒」から、「遊びつくした後の、お金のないイタリア系の貴族」というキャラに大刷新されていました。

宮崎駿氏が語るところの「或る意味で善良で弱点を持った男」とされたのです。

ルパンがフィアット 500に乗る理由

イラスト:遠藤イヅル

それまでのルパンの車といえば、高価で台数も少ない「メルセデス・ベンツ SSK」や、「アルファロメオ 6C 1750グランスポルト」などの派手なモデルでした。

ですが、宮崎駿氏は「僕の思うルパンは、そんな車に乗るはずがない」と考え、第1期のキャラクターデザインを担当した大塚康生氏の愛車、「フィアット ヌオーヴァ500(チンクェチェント)」をルパンの車にしました。

フィアット 500は、まさにイタリア庶民のアシ。初代は戦前の1936年から発売を開始した2人乗りのモデルで、“トポリーノ(小さいネズミ)”の愛称で親しまれました。

そして1957年、当時のフィアット製小型車の流儀に沿ったリアエンジン車として「ヌォーヴァ(新)500」がデビューしました。

エンジンはトポリーノの水冷4気筒から簡略化され空冷の2気筒に。499.5ccで13馬力という非力な車でしたが、価格の安さ、構造の簡潔さから爆発的なヒット作となり、パワーアップ、各部の改良、バリエーション追加などを行って1977年まで製造され、イタリア全土を埋め尽くしました。

「カリ城」冒頭では、ルパンと次元が乗る黄色いフィアット 500Fが登場。

追われるクラリスの車を見たルパンがダッシュボード下のレバーを引いたとたん、それまでトコトコ走っていた姿が一変。アバルトのようにエンジンフードがガバッと開き、凄まじい勢いでスタート、彼女を助けるために大活躍します。

ベースの500Fの馬力はわずか18馬力。スーパーチャージャー搭載で100馬力出るという設定らしいです。余談ながら、高性能版・アバルト695のカリカリチューンでも38馬力ほどでした。

なお、500Fはドアヒンジが前側に変更されたモデル、1963年から1972年に製造されました。

ちなみに、実はルパンでのフィアット 500は「カリ城」が初めてではなく、第1期の16話からルパンが乗っていたりします。この時は水色でした。大塚康生氏の愛車もその色だったそうです。

2CVのコダワリ劇中描写に注目!

イラスト:遠藤イヅル

そのクラリスが乗っていた車が、これがまたマニアック。シトロエンの大衆車、「2CV(ドゥシュボー/ドゥセヴェ)」の、しかも初期モデル「AZ(もしくはA)」です。

フロントドアが逆ヒンジ(前側が開く)でボンネット形状も見慣れたモデルと異なっています。2CVもフィアット 500と同じく国民車的大衆車で、ゲタのような存在でした。モデル末期は602cc/29馬力でしたが、AZでは425cc/12馬力しかありません。

2CV誕生には有名なエピソードがあります。1930年になっても車を使っていなかった農村の姿を見て衝撃を受けた当時のシトロエン副社長は、パリに戻りすぐさま小型車の開発に着手しました。

その時、開発陣に要求したのが「50kgのジャガイモを積める」「60km/h走行できる」「カゴに入れた卵を割らずに走れる」「女性でも運転ができる」「燃費が良い」「広い室内」など厳しいものでした。

その困難を乗り越え、2CVは1948年にパリサロンで発表を行うまでにこぎつけましたが、その目標を達成するために得た奇抜なスタイルは困惑の目で迎えられたのです。

しかし、民衆は2CVに込められた高い合理性を見逃さず、2CVはベストセラーになりました。

カリオストロ公爵の部下に追われたクラリスの2CVは、追っ手の車にどんどん破壊されていくのですが、宮崎駿氏が2CVのオーナーだったこともあり、壊れ方や壊れた後の姿がかなり正確に描写されています。

エンジン音も2CVの空冷フラットツインサウンド! そのコダワリっぷりは、さすが宮崎駿氏です。

追っ手が「ハンバー スーパースナイプ Mk.I」という戦前の英国車に乗っている……というチョイスもシブすぎる! ハンバーは19世紀末から自動車製造を行っていた名門。高級車を多く輩出したメーカーでしたが、紆余曲折の末、現在はブランドが消滅しています。

スーパースナイプはハンバーの代表車種で、劇中の「Mk.I」は戦前モデルの生産再開版とも言えるモデルで、1945~1948年に作られました。エンジンは直6の4Lで、大衆車の500、2CVとの対比が鮮やか!

忘れちゃいけない「埼玉県警」のブルーバード

イラストでは1枚目に描きましたが、“とっつぁん”こと銭形警部が乗ってくる「日産 ブルーバード」のパトカーも、「カリ城」では有名な1台です。

なぜか海外に日本仕様そのままのパトカーで来るというのが愉快ですよね。しかも「名車」と呼ばれることが多い「510」ではなく、その前の1963年~1967年製造の3代目「410系」というチョイスもたまりません。

頑固一徹な銭形警部のキャラが反映されています。劇中ではハンドル位置が左右で一定せず、ドアに書かれている文字も「埼玉県警」だったり「ICPO」だったりしますが、それもご愛嬌です。

……今回は説明が長くなってしまいましたね。でも、それだけルパンや「カリ城」に出てくる車にはコダワリや見どころが多い証拠でもあります。

「カリ城」を見る機会があったら、ぜひ目を凝らして車の活躍を追ってみてください。なお、イラストは「劇中車のリアル版」でお送りしております(笑)。

文・絵/遠藤イヅル
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遠藤イヅル(えんどういづる)

イラストレーター/ライター

遠藤イヅル

1971年生まれ。大学卒業後カーデザイン専門学校を経て、メーカー系レース部門のデザイナーとして勤務。その後転職して交通系デザイナーとして働いたのち独立、各種自動車メディアにイラストレーター/ライターとしてコンテンツを寄稿中。特にトラックやバス、商用車、実用的な車を好む。愛車はプジョー 309とサーブ 900。