▲1960年代から生産されているサルーンで、今回登場しているモデルはその4代目。当時の主力モデルであったビトゥルボのシャシーを使い、デザインは巨匠ガンディーニが担当。エンジンはV6、V8が用意され、トランスミッションは6速MT、4速ATが設定されていた。1998年からはフェラーリの技術で進化したエヴォルツィオーネが追加されている ▲1960年代から生産されているサルーンで、今回登場しているモデルはその4代目。当時の主力モデルであったビトゥルボのシャシーを使い、デザインは巨匠ガンディーニが担当。エンジンはV6、V8が用意され、トランスミッションは6速MT、4速ATが設定されていた。1998年からはフェラーリの技術で進化したエヴォルツィオーネが追加されている

乗り手のセンスの良さが現れる車だね

EDGE:今月は僕の独断で車を決めました。必ず満足していただけるのではないかと。

松本:随分と自信があるようだけど大丈夫?

EDGE:はい。クアトロポルテです。

松本:それはいいね。確かにまだ紹介してなかったし、色も良さそうじゃない。

EDGE:はい。いつものコレツィオーネさんにあったのを見つけまして。あ、この車です。

松本:いいじゃない。これは欲しくなるね。

EDGE:クアトロポルテといったら僕の年代ではこれですけど他にもありますよね?

松本:あるよ。僕が初めて購入しようと思ったクアトロポルテは1966年式(*1)だったよ。25年くらい前だったけど420万円くらいで売ってたんだ。

EDGE:個人的にこの車、好きなんです。

松本:上品さでいえば、このクアトロポルテ4はコンパクトだし、ここ10年ぐらいの間に出たモデルにはない品の良さが漂っているよね。やっぱり今見てもいいよ。

EDGE:1990年代から発売されてますよね?

松本:1994年に登場したんだけど、良いものを知っている大人のモデルだよ。若造がどんなに背伸びをしても「乗せられてる感」が出ちゃう車だよね。

このサイズで高級な感じがする最後のサルーンかもね。デザインを担当したガンディーニ(*2)は車体を大きくすることは、社会的に望ましいと思っていなかったらしいよ。

EDGE:インテリアも素晴らしいですよね。

松本:そうなんだよ。レザーシートの素材も今よりもずっと良質だね。現在は本当の革の良さで勝負している感じじゃないからね。

EDGE:なんか全体的に派手じゃないのに、印象に残るデザインですよね。

松本:そうだね。フロントの顔つきが精悍でデコラティブじゃないのに存在感がある。なかなかできないデザインだよ。

それとキャラクターラインが破綻してもなぜかカッコいいブリスターフェンダーね。最高だよ! これを許しちゃうイタリアンデザインって本当に素晴らしいと思う。

今のデザイナーはキャラクターラインが前から後ろにかけて美しくあるべきだと思っているようだけど、20年以上前にこんなデザインを生み出してたんだからスゴイよね。マルチェロ・ガンディーニはやっぱり天才だと思う。

キャビン方向へピラーを寝かしてウインドウ越しにインテリアが見えるようにする演出はヨットや船の木目の見せ方が上手なイタリアらしいデザインなんだよ。

EDGE:これは2000年ですから最終型のエボルツィオーネV6(*3)ですね。

松本:ほんと。そりゃ価値あるね。後期型だからじゃないよ。クアトロポルテ4 が1994年にトリノショーでデビューしたとき、マセラティはフィアットに売却(*4)されていたんだよ。

フェラーリもフィアットの傘下だったから当然開発はフェラーリに任せられたんだ。現在もマセラティはフェラーリの技術が導入されて作られているけど、もうすでに完成しているモデルの性能を向上させて発売することで、ブランドイメージを確かなものにしたかったはずなんだよ。

このクアトロポルテ4にも1998年からフェラーリの技術が導入されていてね。ブレーキやサスペンションなど、様々な部分に手が入っているんだ。それをエボルツィオーネと言ってるんだ。イタリア国内では2LのV型6気筒ターボもあって、日本に導入した2.8Lのツインターボよりも出力が高かったんだ。

EDGE:この車は人気だったんですかね? 中古車市場では結構見かける気がしますけど。

松本:クアトロポルテ4は生産台数が多い感じがするけど、実際は1994年から2000年までで2900台に届かないくらいなんだよ。少ないよね。

しかもフェラーリの手が入った1998年から2000年までのエボルツィオーネのV6モデルは389台しかないんだよ。そのうち2.8LのAT仕様は148台。

これってまだ大量時代になる前のマセラティ最後のモデルじゃないかな。またいい色があるんだよね。シャンパンゴールドもイイ。こういう色で魅せる文化はドイツメーカーが敵わない部分だよね。

少し前の高級なイタリアのモデルがどんどん高価になっていってるのは、そうした背景もあると思うよ。台数がたくさん作れなくてかっこいいモデルは値段が上がるんだよ。

EDGE:間違いなく名車になる1台ですね。

松本:いつの時代も変わらないかっこよさがあるのがイタリアン高級車なんだ。趣味がいいと思われたいならこれしかないね。

■注釈
*1 クアトロポルテは1966年式
1963年から1969年の間に生産された初代のクワトロポルテ。4を意味する「クワトロ」とトビラを意味する「ポルテ」が車名の由来

*2 ガンディーニ
マルチェロ・ガンディーニ。数々の名車を手がけたイタリア人デザイナーで、代表作はランボルギーニ ミウラ、ランチア ストラトスなど

*3 エボルツィオーネV6
1998年のマイナーチェンジから導入されたグレードで、同グループであったフェラーリがすでに開発していた技術を採用した上位グレード

*4 マセラティはフィアットに売却
1965年にシトロエン、1975年にデ・トマソ傘下となったマセラティは1993年からフィアット傘下に。その後1997年には同グループのフェラーリ傘下に

クアトロポルテ
クアトロポルテ
クアトロポルテ
クアトロポルテ
クアトロポルテ
text/松本英雄
photo/岡村昌宏
 

※カーセンサーEDGE 2018年11月号(2018年9月27日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています